第11話 一羽の小鳥・中編
「ハイ、静かにしてください。今日は体育祭の出場者を決めます」
学級委員が教壇に立って指揮を取る中、黒板には次々と競技名が書かれていく。
同時に教室には友達と相談する声、やりたい競技が取られない内に立候補しようと挙手する者でクラスの空気は活気に溢れる。
最早、混沌と化してきた中でも学級委員は、負けじと声を張り上げる。
そんな様子を後ろにある窓際の席で眺めていた
いつも空いていた席には珍しく、暇そうに頬杖をつきながら座る彼の姿があった。
「あの。
律が勇気を出して話しかけてみると、チラッと律の方を見た
「うーん。
狂は全く興味の無さそうな顔でポツリと呟いた。
その言葉を聞いた律は内心、ドキリとしていた。というのも、夏にある体育祭は成績評価において大変重要な行事だ。
なので、何が何でも彼を体育祭に出場させるように、と律は生徒会長である
また、副会長である
しかし、2人の言葉を思い出して変に焦ってしまった律は誉からの言伝をそのまま口にしてしまう。
「小鳥遊さん。お願いです。不知火会長からも無事に卒業する為に競技に参加して欲しいと頼まれているんです。
……どうか、出て貰えませんか」
不安そうに瞳を揺らしながらも真剣な表情で律は伝えた。
すると、狂はそんな彼女を見てクスリと笑った。
「焦り過ぎ。……なんかさ。神倉さんって、本当に素直というか、正直だよね」
狂はそのまま机の上で組んだ手に頬をのせてこちらを羨ましそうにじっと見つめる。
「しょうがないなー。じゃあ、神倉さんは僕と出るとしたら、どれに出たい?」
狂の突然の問いかけに対し、嬉しさを隠しきれず少しだけ口角を上げた律は徐々に埋まってきた黒板の方を眺めながら思案する。
「えっと。それじゃ、二人三脚は──」
「嫌」
狂は、すぐさま大きな声で否定すると共に手の平で机をバンッと叩く。
突如、耳に届いた音に驚き、律はまるで石像のように固まってしまう。
数秒経ち、ハッとして周りを見渡すが、クラスメイトの声や物音で掻き消されているようで律以外には聴こえていなかったようだった。
しかし、その調子で狂の方を見る勇気は無く、彼を怒らせてしまった、と一気に気持ちが沈んだ律はどうすることも出来ないまま下を向いて黙り込む。
一方、感情を押し殺すような表情をして唇を噛んだ狂は、すっかり落ち込んでしまった彼女の様子を見て、慌てた様子で椅子をガタッと鳴らし、律の方に近づいた。
「ごめん。いや、違うんだ。その、触れるのが、あんまり好きじゃないというか……」
言葉が尻すぼみになりがらも、狂は身振り手振りで誤解を解こうとした。
それを見た律は小さく「そうですか……」と呟いて自身の中でも納得させると、考えを改めた。
「……すみません。じゃ、違う競技にしますね」
狂が律の言葉に複雑な表情を浮かべていたことに気づかないまま、律は引き続き黒板に目を向ける。
暫くして。チョークでデカデカと「決定!」と書かれた黒板には、律と狂の名前が横に並ぶことは無かった。
結局、狂の要望が叶えられる競技は既に埋まってしまい、律は他のクラスメイトから誘われて二人三脚に。狂は人数不足だったリレー、と2人とも別々の競技に参加することになってしまったのだ。
狂はそれでも「あんなに神倉さんにお願いされて今さら断れないし、今回は出るよ」と言って、折れてくれた。
その決断に感謝を述べた律は、これであの2人からも怒られないと一安心していたのだが、来たる体育祭当日。事件は起きた。
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