第19話 魔剣の話
次に、他の武器を紹介するためにいくつか持って外に出る。室内で出すと大変なことになるのもあるのだ。
「まずはこれかな。これ、ただの剣だけど、魔力を少しでも込めると──」
抜き放った直剣から炎が吹き出す。
「火属性の魔剣って感じか。多分火属性エンチャントがかかってる。確か探索者の最前線組に付与魔法の人がいたよな?」
“あの陽気なお姐さんな”
“姐さん……”
“味方に付与魔法回しながら自分も殴る人”
“ああいう人を見てると、攻略組ってやばいなってなる”
地上で有名になっている探索者に関しては、短い期間だったがそれなりに調べたし、あの買い取りショップでも教えてもらったのだ。どういう人がいるか、知っておくのは大事だからな。
「それの永続的なやつかな。こっちの刀は雷属性のエンチャントだ」
炎の剣をしまって、次に刀を抜く。日本刀というべきか悩むところだ。日本産じゃないし。
さて、刀も一通り振って見せて、最後にもう一つ。紹介しておきたい武器がある。
「さて、今まで紹介したのは、1種類目の魔剣、いや、俺は自分の中では魔法武器って呼んでるやつだ」
“魔法武器?”
“確かに武器自体がエンチャント使ってるみたいなもんか”
“エンチャントのこもった武器”
“それじゃない魔剣があるってこと?”
持ち出してきた最後の一本。質素な鞘をした剣を手に持つ。
「魔法武器、つまり、エンチャント、付与魔法が永続的にかかった武器。あるいは武器自体が、付与魔法の性質を持つ武器で魔法武器。それじゃあ魔剣、魔槍って何って話だ。で、これが俺が思う答え」
最後の一本の剣を抜く。その剣身は、剣の鋼色でも、モンスターの骨や牙、甲殻などの色でもなく。
青々と輝く、魔力の色をしていた。
「魔力がこもった剣。それが魔剣」
ただ鞘から引き抜いただけで、その圧は先程までの魔法武器の比ではない。
「俺もこっちの魔剣は希少だからあんまり持ってない。が、おおよそ性能の傾向はわかる。この魔力が籠もった方の魔剣は、純粋に剣としての性能がとんでもなく高い。斬れ味とか、耐久性とか。反面、魔法武器みたいにバフ的な効果は持ってない。ただ、剣として異常に優れてる。それがこの魔力が籠もった魔剣だ」
“すげえええええ”
“ただただ綺麗”
“あんなシンプルな鞘してるのに神秘的って何?”
“バフ的な効果を持つ魔法武器と、純粋に魔力で強化された魔剣かあ”
“どっちが強いの?”
なるほど、どっちが強いか。俺は両方トップクラスであろう代物を持っているが、その上で答えてみよう。
「個人的な好みは魔力が籠もった方。けど、まだ実力不足な人が持つならバフの方の魔剣、魔法武器って感じかな」
その心は。コメント欄で尋ねられる。もちろん話すつもりだ。
「ダンジョンの下の方に来ると、相手がとにかく硬くなってくるのよ。その上で特殊な能力持ってたりする。このダンジョンの先の世界にも、そういうシンプルに硬くて速くて強いってやつらは一杯いる。硬いことが前提っていうのかな。で、それと戦うことを考えたときにどっちが通るかっていうと、魔力の籠もった方、魔剣なんだよ」
実際俺は、ダンジョン最奥のボス、番人を倒すときには魔力の方の魔剣を使った。
「魔法武器の付与効果って、結局なくてもどうにかなるというか、本人の技術とか戦い方とかスキルでどうにか出来うる部分をカバーしてる感じなのね。あー、うまい例え……パソコンとか近いかな」
“パソコン?”
“近いか?”
“性能の差、とか?”
“よくわからん……”
「魔法武器ってのはいろんな性能がついてるパソコンなんだよ。動画見たり編集したりCG作ったりサイト運営したり? まあ俺パソコンそこまで詳しくはないけど。そんで魔剣の方は、ガチ演算速度に特化しただけのコンピューター。いろんな機能は無いけどまじで演算速度がとんでもない。で、突き詰めたときにどっちが高みに届くかって言われたら魔剣なんだよな。結局。もちろんさっきの重さが変わる魔法武器みたいに特殊な形で強いのもあるけど、十全に扱い切れたときに、魔剣の攻撃力、斬れ味って部分は魔法武器じゃあカバーできない。逆に魔法武器のバフ効果とかは、使用者本人の動き次第で無くてもどうにでもなるのが多いから」
極論、戦闘はいかに相手を殺すか。その一言に尽きる。そう考えた時に、色々サポートしてくれる魔法武器と、殺傷力に特化した魔剣。燃える剣身も雷を纏った剣身も、通常の十倍の重さも。相手との削り合い、地道にダメージを与えていくのには有用だ。
だが相手を確実に仕留めるならば、なんでも斬れる鋭さがあればそれで十分であり、そして相手に届かない効果は、どれだけあっても無駄でしかない。
「そういうわけだから、視聴者の皆には魔法武器の方が良いけど、俺はどっちか1つと言われたら魔剣だな。まあ両方使い分けるのが一番なんだけど」
“たった一つ通じる武器があれば良い”
“硬いモンスターでも殺せる斬れ味はあるから、後は使い手次第ってことか”
“そういう意味では優れた使い手は魔剣だな”
“スキルとかが微妙なやつとかは魔法武器があると出来ることが増えていいってことね”
「まあ実際魔剣は相当希少なんだよね。まじで見つからない。その分レア度は高いな。……これ地上で売ったらいくらぐらいになると思う? これに限らずさっきの炎の剣とか雷の剣とかも」
ふと気になって、そう尋ねてみる。ダンジョン産の素材が結構な値段になるのは、先日地上で売買をして知っている。食材など揃えてくれた代金として持ち込んだアイテムだが、そこまで大量ではなかったが多すぎると言われた。おそらくダンジョン関係がかなりインフレしているのだろう。
“ダンジョン産の斬れ味が凄い武器とかでもかなり額ついたりする”
“こないだ最前線で宝箱から出た剣が1千万ぐらいだったかな”
“今のところ深層じゃあ魔法武器が出てないから、武器の値段は割とインフレしてない方”
“ダンジョンの宝箱から出る武器よりもモンスターの素材加工した武器の方が強かったりする。そういう武器だと場合によっては数千万、とか”
“魔法の杖が性能差が明確だから、そっちは億まで行くこともたまにある”
“今日本のダンジョン関係のオークションサイトだと、一番高い武器は最前線で出た杖で1億2千万まで上がってる。やべーなこれ。入札はトップギルドから数人って感じか”
“億とか探索者でもぽんとはでらんだろ……”
“アメリカとかだとこないだ500万ドルまで行った魔法の杖あったな”
“アメリカは動く金がでかい。スポーツとかと一緒でスポンサーが大金出してるからオークションも凄い”
「はえー……とんでもない値段が動くんだな」
俺がダンジョンに潜る前に複数の武器とかモンスターの素材を売って、7千万とかだったか? まあ当時はまだダンジョン産アイテムの売買がシステムとして整ってはいなかったのでそのあたりの手数料とかもあったのだろうが、それでも相場が大きく上がってきているのだろう。
まあ探索者が武器に大金を出す理由は明白だ。そのお金を出した武器で、それ以上の金額が稼げるのである。そりゃあ大金でも出すだろう。
「まあ、飛び抜けて性能の良い武器がオークションに出てたら、俺がなんかやってんだなぐらいに思っておいてね」
そんだけ大金が動くとなると、先に進んでいる俺に対する注目も無駄に高まりそうで少々嫌な予感がするが。まあ地上に対して出ないから良いだろう。
“え、出品すんの!?”
“ほんとですか!?”
“出品したら凄い騒ぎになるよ?”
“とんでもない額つきそう”
「まあまだ出すかもしれない、ってだけね。大金が何かで必要になったらよ。まあ別にダンジョン産の素材でも稼げるから、武器を売らなくて良い可能性ももちろんあるからな?」
“そりゃもちろん”
“でもそれだけで関連企業の株価動きそう”
“結構な騒ぎ、結構どころか凄まじい騒ぎになると思うので、気をつけてくださいね”
“今どきワイドショーでもダンジョンの話普通に出たりするからな”
「へー……そこまでか。やっぱ地上に出ると変に狙われそうだな……戸締まりしとこ」
思わずぼやいてしまったのでネタを呟いておく。
“戸締まり……?”
“そこでしてどうするんですか”
“意味ね~ww”
“誰も来んてww”
先日、上層で攻撃を受けた時のことはまだ覚えている。あんな風に狙ってくる相手も、まあ、いるだろう。馬鹿というのはいつもいる。今の俺に手を出すことの意味がわからないやつも。
まあそのときは、ダンジョンにこもり続ければ良いさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます