第4話 地上へ!

前書き

本作の見た目の描写などは皆様の想像に大部分を頼っています。

文で説明するとうるさくなる気がするので、よみやすさを狙う本作では簡素な説明に留めます。

それぞれのファンタジー感を駆使して妄想お願いします。





──────────────



「じゃあまず、どうやってここまで来たんですか?」

「……というと? ダンジョンなんて潜る以外に無いと思うんだが、どういう趣旨の質問だ?」

「ええと、その、実力があったとしても、100層もあるならとても長い時間がかかるはずなので、どうやって移動しているのか、って質問です」


 おそらく、元の質問者の意図は違うだろう。『100層は嘘だろう』か、あるいは『深層の先ということ自体が嘘だろう』か。または別の意図かもしれないが、雨宮嬢がオブラートに包んでくれたらそれにだけ答えよう。

 

「そりゃあ初めて来たときは時間かかったけど、今は俺ここに住んでるからな」

「住んでる? ここにですか?」

「そ。今君が寝てたベッドで寝て、食料はモンスターの肉と果物なんかで賄ってる」

「……それは、どれぐらいの期間を?」

「もう10年近くになるか? いやダンジョンの攻略自体に結構かかってるからここに住んでるのは7年とかそんぐらいか?」


 もう10年になるのか、と思わず懐かしくなる。父と母は元気にしているだろうか。

 

「そんなに長い期間、一人で……」

「まあ帰ろうと思えば帰れたし、俺は一人でもかなり平気なタイプだったからな」

「なるほどです。これは私の質問なんですけど、なんでそんなことを?」

「なんでダンジョンにわざわざ住んでいるのか、か?」

「はい、それが気になったので」


 ダンジョンの話、というより俺の話になっているが、とくに答えたくない理由も無いし答えることにする。

 

「最初はファンタジーが好きなだけだったんだよな」

「ファンタジー、それって、魔法が出てくる小説とかゲームとかですか?」

「そうそう、今もあるかわかんないけど、いわゆるラノベとかが特に。だからダンジョンが開放されるって聞いたときはめっちゃ嬉しくてな。そんで自分のスキルをどう活かすかとか、どうやって強くなるかとか。ダンジョンが開放されてなかったらただの厨二病って言われてたかもしれないな。剣術とか魔法とか妄想してたし」

「……なんとなくわかる気もします」

「そりゃありがたい。だからダンジョンが開放されてからはずっと籠っててな」


 今でも覚えてる。元々は勉強の方で東京の大学に行ったのだ。だがそこでダンジョンが開かれてから大学をサボってダンジョンに籠もるようになって。

 

「そんでまあ奨学金とか年金とか、そういう手続だとか就活だとかめんどくさくなってな。普通に留年して奨学金打ち切られて通うのも難しくなってたし」


 当時はまだ、ダンジョンで稼ぐという体制が整いきってはいなかった。

 

「元々許されるなら狩猟採集生活がしたいと思ってたし、もうダンジョンの中に住めないかなと思ってるときにここを見つけて、なら住めると思ってこっちに来た感じだな。大学で人間関係も色々嫌になってた頃だったし、それも後押しした感じか」

「すごい、ですね。私にはそんな思い切ったことは……」

「俺からしたらあんな人間社会で生きてる君らの方がすごいよ。配信なんかも、俺が好きなように垂れ流して俺の不快にならないコメントばっかりならともかく、視聴者のための配信なんてとても出来ん」


 こればっかりは真面目に思ってる。別に人間が嫌いというわけではないし人と話すの自体は好きだが、それでも俺には人間関係はほとんど向いていなかった。

 

「ありがとうございます。私もDtuberは大好きなので頑張れます。えーと、それじゃあ次の質問です。上層、中層、下層は地区が変わってもモンスターの種類は変わっても強さ自体はそれほど変わらないんですけど、深層とかその先にあるっていう層はどうなってるんですか?」

「地区っていうのは、具体的に何のことを指してる? ボスごとのエリアか」

「はい。えーと、多分……」


 そこで雨宮嬢が言葉を切る。何かと思っていると、慌てた表情でコメント欄を見た後、こちらに視線をやってきた。

 

「そう言えばお名前を伺うのを忘れてました! えと、なんとお呼びすれば良いんでしょう? あ、偽名でも大丈夫ですので!」

「ん、そう言えばそうか。……何か厨二臭くなくていい名前無いかな」

 

 うーん、こう考えると思いつかない。首を捻っていると、正面からくすりと笑い声が聞こえた。

 

「ん?」

「あ、ごめんなさい! 怖い人かと思ってたら変なところで悩んでたからつい」

「むぅ……ちょうどいい名前をつけるのは結構難しいぞ? まあ、確かに普通は考えないかもしれないが。ならあれだ、ジョン・ドゥでどうだ」

「ジョン・ドゥ? ですか? 外国人の方?」

「英語で『名無しの権兵衛』だ。わかりやすいだろ」


 というか、もう自分の名前なんて何年も使ってないのだ。父と母に会う時以外は名無しでいい。

 

「はい。それじゃあさっきの地区の話に戻りますけど、多分ジョンさんが潜ってすぐの頃に定められたはずです。出現するモンスターだったり地形や環境の境目で区切って、それらを入り口から近い順に第一、第二……って番号を振って地区って呼称する、って感じで。後は一応それぞれにボスモンスターがいるようにわけてるので、ボスがいない小さなエリアは地区にはならない、だったはずです」

「なるほど。それで、深層とその先の話だったな。まあ基本は変わらんと思うよ。層の中で大きくモンスター自体の強さが違うってのはほとんどない。ただ下に行くほど環境が多様になるから、相性とかで強さってのは変わるからな。深層より先は一概には言えん。後あれだな。深層は上層中層下層と比べて広いから、奥に行くほど手強くはなってるはず」

「深層までは上層や中層と同じなんですね。ありがとうございます。それじゃあ次は」


 まだまだ質問は出ているようで、雨宮嬢は再びコメント欄に視線を向ける。これはいわゆる、コメント返しのような状況になってるのだろうか。生配信などはあんまり見たことがなかったので詳しくないが、寄せられるコメントに答える感じがまさにそれらしい。

 

「悪いが、そろそろ寝たほうが良い。明日には傷も治って地上に向けて出発するからな」

「あ、はい。……そっか、そうですね。すいません、色々と答えてもらって」

「今日はそのベッドで寝てくれ」


 俺は外でテント立てて寝ればいい。

 

「え、でも」

「女性を床で寝させたり女性と同じ部屋で寝るようなことをしたら、それこそあんたの視聴者達に叩かれるだろ。嫌だよそういうのは。大人しくそこで寝てくれ。俺はテントがあるから」


 そこまで言うと、雨宮嬢も大人しく寝てくれる気になったようだ。

 

 まあ、俺は今夜大人しく寝るつもりはないのだが。

 

 

 

******




 深夜。寝づらそうに動いていた室内の気配が落ち着いているのを確認して、俺は小屋の入り口に番人のように浮いていたドローンを捕まえる。

 

 そしてそのまま、魔力で魔法陣を描きながら小屋の扉を開け、魔法を雨宮嬢に向かって放った。

 

 放った魔法は麻酔の魔法。強度にもよるが、少なくとも一日は起きない魔法陣だ。レベルに差がある雨宮嬢には問題なく作用する。


 一旦つかまえていたドローンを空中に放ちつつ、机の上や枕元に出しっぱなしになっている雨宮嬢の持ち物をポーチにまとめていく。ドローンが抗議するように俺に近づいてくるので、軽く払いつつ事情を説明した。

 

「今魔法で雨宮嬢を眠らせたから、これから彼女を地上まで送り届ける。まあ一週間もあれば上層につくはずだ」


 実際のところは、多少ズルもするつもりなので3日ほどでつくと思っている。地下に潜った頃はロボはいなかったが、本気で走ったこいつの速度はとんでも無いのではっきりとはわからない。下手に待ち受けられて囲まれるのは避けたいのだ。

 

「ドローンも一旦ポーチに入れとくぞ。多分ついてこれない」


 そう告げて有無を言わさずドローンをポーチに突っ込む。そして俺の方も地上に持っていくもの、素材などは換金すら困難かもしれないが一応売れそうなものをある程度、後は自分とロボの分の食料と水を拡張バッグに入れておいた。

 

「ロボ! 出発すんぞ」

『ウゥゥ、バウッ、バウッ』

「お前は深層の手前までな。調味料とか買ってきてやるから。うまいもん作ってやる」


 昔は考えたこともなかったが、今現在の装備なら定期的に地上に上がって食料や調味料を買ったりも出来るのだ。

 

 とりあえず日本の調味料と、後米が食いたい。

 

 うまいもんで連れたロボの背中に雨宮嬢を動かないように座らせ、その背中側に彼女を抱え込むようにして座る。ドローンを黙らせたのはこの体勢を見せないためでもある。

 

「よし。それじゃあ、まず一回転移用のトラップを踏んで、そこからは移動用の魔法陣だけを辿って、最短最速で。魔力の流れは追えるな?」

『バウッ』

「よし、いい子だ。それじゃあGO!」


 合図とともにロボが走り始める。

 

(地上か。まじで久しぶりだな)


 そして俺たちは、10年振りの地上に向かって進み始めた。

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