第276話 トラ。
「クウちゃんよ。お前の高尚なのか低俗のかよくわからん話は分かった」
「へっへへへーん!」
「で、地球では何が起きているんだ?」
「それよ! 闇の連中は地球に侵攻して、『ダンジョン』を作って干渉してきたのよ! 魔物による恐怖の感情とか、ドロップ品による欲の感情、他者より先んでたいという見得とか人のマイナス感情をより多く得るためにね!」
「ん? だけど、
「そこに、わたしたち光の勢力が介入したのよ! 本来、こっちの世界で魔王になって地球の魔物にエネルギーを送る役目のシンジを光に取り込んでエネルギーの流入を止めたりとかね!」
「おおう……」
「ほかにも、向こうのダンジョンを『愛の場所』に改変したわ! 具体的には、避妊いらずで快楽マシマシやりまくりの恩恵ね! これで愛があふれる世界になるのよ!」
「それはどうなんだろうか……」
「それでね! 他にも光の勢力はいろいろ頑張っているの! 具体的には『トラ』ちゃんたちがね!」
「トラ?」
「そうよ! ここにいるトラニャリスちゃんもその一員よ!」
あ、そうだったのね。
というか、クウちゃんのインパクト強すぎて女王のことを忘れていたぜ。
「そうなのじゃ! 時空の女神さまのご紹介の通り、我も光の勢力、『トラ』の一員なのじゃー! ということでシンジよ! 我についてくるのじゃ!」
ついてくるのじゃと言われても、どこに?
ここは、セタン王国の遊牧民キャンプのテントの中。
地球でいえばモンゴルのゲルみたいな建物の中だ。
その中身は空間魔法で広げられてとても広いが、この中で移動するのか?
「いや、この中ではない。まずは外に出るのじゃ」
へいへい。
オレはトラニャリス女王の導きに従ってテントの外に出た。
クウちゃんはちゃっかり軽トラの助手席にライムを抱いて座っている。
ノエル様とかミネットとか、セレス様とかがいたらもっともめたんだろうな……。
で、今出てきたテントを見ると、
うん、やっぱりこのテントは外から見ると直径10mほどの大きさしかない。
そして、意気揚々とトラニャリス女王が告げる。
「これから行くのは、我らが古来より鍛錬の場としてきた地、『アキ』なのじゃ!」
はいはい、キャンプ安芸ですね。
「では、総員、移動開始じゃ!」
え? ここにいる全員で移動するのか?
ここにはオレたちのほかにも、獣人の皆様が少なくない数おられるのだが。
それに、このテントたちだ。
さっきオレたちが出てきたテントのほかにも、大小50くらいのテントが立っている。
これを全て折りたたんでから移動するのだろうか?
いや、たしかテントの中身は空間魔法で広大な敷地になっていたよな? そもそもたためるのか? 畳んだら、中の建物とかめちゃくちゃになっちゃうんじゃない?
そう思って見ていたら。
さきほど女王様の乗っていたリリーフカーを動かしていたようなアルマジロやハリネズミやらの4足歩行が得意そうな獣人の皆さんがテントの下に潜り込み、せーのでテントを持ち上げて走り始めた!
人力か!
◇ ◇ ◇ ◇
えっほえっほとテントを担いだ獣人さん達が駆けていく。
オレは、その後ろから軽トラでついていく。
助手席にはクウちゃん、背後の荷台にはトラニャリス女王が乗っている。
「おっほう! このりりーふかーは『けいとら』というのじゃな! おーとさんりんと比べて乗り心地もわるくないのじゃ!」
この女王様。なんでもアキン・ドーの時代にも生きていて、当時のオート三輪に乗せてもらったことがあるらしい。
え? たしかアキン・ドーがいたのって200年前だよね?
「我ら獣人はもともと寿命が長いのじゃ! それに、始祖様の精を受けた者たちはさらに寿命が伸びているのじゃ!」
そうか、たしかにファンタジー物だとそういう描写が多いな。
だが、精のくだりはいらんのだよ。
目の前にいるのは美人ではあるがヒョウ柄大阪おばちゃんなのだ。
そんな話はダメージをくらうのでやめてくれ。
SAN値ってやつだっけ?
その後も車中と荷台で色々な話があった。
その中で、オレはアキン・ドーのことについていろいろトラニャリス女王に尋ねたのだが、確かに一緒の時間を生きたのは分かっているらしいが、どうもその当時の記憶には靄がかかったように詳細は思い出せないらしい。
クウちゃんにも聞いてみたが、こっちは軽トラが発進するや否や爆睡していた。おい、高次元の存在に睡眠必要なんかい!
そんなこんなで1時間ほど走っただろうか。
軽トラの速度は60㎞/hくらいで移動してきたのだが、テントを運んでいる獣人の皆さんも同じペースで走り続けている。
獣人、さすがだな。
「さて、着いたのじゃ! シンジよ! ここがキャンプ『アキ』のメイン、『虎の穴』なのじゃ!」
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