令成2年。晴田県警丸舘警察署。

武藤晴臣巡査長。異世界少女と平和を守る。

第177話 異世界からの着信。

「おはよう」


「おはようございます」


「おはよー!」


 何の変哲もない、いつもの朝の駐在所内。





「「「そういえば」」」



 ん? 声がかぶったな。


「「「あ、お先にどうぞ」」」



 またかぶった!


 このままだとなかなか切り出せない。よし、オレから先に言わせてもらおう。


「じゃあ、オレから。実は、昨日の夜不思議な夢を見てな?」



「「!! わたしも見ました!!」」


 おいおい、なんだ今日のシンクロニティーは。



「で、その内容なんだが、妙に威厳のある男性の声で、『今日はルンから離れず、スマホを肌身離さず持っていろ』って言われてな。単なる夢にしてはなんというか、従った方がいいと思う雰囲気がビンビンというか……」


「「わたしも!! ちょっと違うけどおんなじです!!」」



 おっおう……。


 ルンと緒方巡査の話を聞くと、オレの夢とほぼ内容はおんなじで、向こうは『今日はオレから離れず一緒に居ろ』という内容だったらしい。



「これは何かあるな」


「私もそう思います」


「なにかな? なんか、あの威厳のある男の人の気配、前にも感じたことあるような……」


 そんな会話を繰り広げていたところ、


 ――不意に、オレのスマホに着信が入る。





「知らない番号だ……」


「武藤巡査長、早く出ないと」


「ああ、わかっている」


「なんでだろう、なんか、懐かしい感じが……。」







「—――――――はい、もしもし」


 オレは意を決して電話に出た。どこからの電話なのかわからないので、うかつに名乗ることは避ける。

 

 

『――もしもし。突然すみません。わたし、サトウシンジと申すものなのですが……』


 サトウシンジ、さとうしんじ……、どこかで聞いた名前だ。しかも、ごく最近。


 あ!! あの人の名前と同じじゃないか!


「――! えっ?! サトウシンジさん? 佐藤真治さんってあの、軽トラと一緒に失踪した?!」


『――はい、多分そのサトウシンジで合っていると思います。』


 やっぱり! 失踪したあの人だ! それにしても、この人は今どこに? どこから電話をかけてきているんだ?


「――今、どこにいるんですか?! やっぱり『異世界』なんですか?!」


 オレの尋常ではない驚き様と、『異世界』というキーワードに、周りで不安そうな顔をして見ていたルンと緒方巡査も驚愕の表情を浮かべる。


 すると、


『――こちらからかけておいて大変失礼なんですが、そちら様はどなた様になりますでしょうか?』


 あ、そうだ。こっちはまだ名乗ってなかったな。という事は、向こうもこっちのの事が誰かわからないまま電話をかけてきたという事か。


「――あ、申し遅れました! 自分は、晴田県警丸舘署、上中岡駐在所勤務の武藤と申します!」


 警察と名乗ったからなのか、電話口の向こうに沈黙が流れる。

 それともまさか、通話が切れたんじゃないだろうな。向こうの番号はスマホに記録はされているだろうが、こんな機会がそうそう来るとは思えない。なんとしても、何かしらの手がかりを聞いておかなければ。



「――もしもし? 佐藤さん? もしもーし! 繋がってますか?」


 

 

 そして、電話口の向こうから、


『――はいはい、繋がってますよー』


 との返答。ああよかった、通話が切れた訳ではないらしい。


「――ああ良かった。伺いたいことが沢山あるんです! とりあえず、その場にセヴラルドさんという方はいらっしゃいますか?」



 ルンから耳打ちされた名前を向こうに告げる。たしか、セヴラルドさんとは、ルンの一番上のお兄さんの名前だったはず。


『――は、はい! おりますが……、どうしてその名前を?』


 おお! いるようだ。オレはスマホを片手に持ったまま、もう片方の手で丸のサインをルンに示す。

 


「――いるんですね! よかった! 詳しいことは後で説明します! とりあえず、その方と電話を代わってもらってもよろしいでしょうか?!」


 オレはルンの側に近寄り、スマホを渡して通話を替わる。その際、スマホの通話をスピーカーモードに変更する。これで、オレたちにも会話の内容がわかるだろう。

 


「――セヴルにい? セヴル兄なの?! わたしよ! ルンシールよ!」


『――ルン!! 無事だったか! 良かった! 心配したんだぞ!! ルンは今どこに……』

 

 どうやら、電話口の向こうにいるのは、本当にルンの兄であるらしい。


 他の兄妹たちもその場に居るらしく、それぞれと電話を替わって、結局ルンは1時間近く会話を続けた。ルンの安否を気遣う声から、とりとめもない話まで。


 そのすべての話に、ルンは涙を流しながら全力で応えていた。

 



 ところで、ふと思ったが通話料金はかからないんだろうか?


 異世界間の通話ともなれば、地球の国際電話なんかとは比べ物にならないくらい高そうなのだが……。


 まあ、向こうからかかってきたのだ。オレは気にする必要はないだろう。


 兄妹たちとひとしきり電話を終えた後、改めて向こうの電話の持ち主である佐藤真治さんと会話する。


 それによると、やはり佐藤さんは異世界に飛ばされたらしく、それはルンがこっちの世界に来たのとほぼ同時刻の事らしい。


 どうやら、佐藤さんは向こうの世界に行ってもスマホは通じるらしく、こっちの奥様にもこの件は伝えていること。そして、そのことが周りに知られると大騒ぎとなってしまいそうなので、奥様や子供たちには内緒にするよう言い含めていたこと。



 こちらも、佐藤さんが突然軽トラごと姿を消したところが目撃されて、奥様からの失踪届をもって捜索の対象になっていること、その関連でご自宅にお邪魔し奥様からも話を伺ったことを説明する。

 

 これで、佐藤さんの奥様が何か隠し事をしていたのではないかという疑念の正体が明らかになってちょっとすっきりした。


 

 で、この電話が通じることは職務上警察の上司には報告しなければならないが、こちらもルンの事が世間に明るみになっては色々と問題があるためマスコミや一般には漏洩させないという警察上層部の見解を告げる。

 


 今後も定期的に連絡を取る旨の約束を交わし、異世界間の通話は一旦終了した。






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