第77話 初勝利、そして宝箱。
軽トラを前進させ、最初の玄室から通路に繋がる扉を押し開ける。
この先、どれほどの迷宮が広がっているのだろう。どれだけの強敵が待ち構えているのだろう。
そんな不安と緊張、そして、少なくない高揚感が背筋を走る。
もう、不覚は取らない!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
扉の奥に広がるのは、幅が6メートルほどの幅広い通路。6人パーティーなら、前衛3人、後衛3人の横並びで2列で戦うのに適した広さだ。
通常は、斥候に相当する技能の持ち主が先頭を歩いて罠や魔物の接近を感知し、その後ろに素早い軽戦士、
だが、オレたちは、
ブオンブオ――――ン
軽トラに乗って突き進む。
―なにものかにであった!―
「あら、先輩、スライムですよ?」
「よし、殲滅だ!」
ぐちゃッ
スライムを
「これでもオレらに経験値入るのかな?」
「楽ですね。私何にもしてませんよ。」
「なんか、別の時間軸の作品で似たような描写を見た気がするニャ」
はっはっは、美剣よ。メタな発言は控えるのだ。
「それにしても、この調子じゃ全くレベルが上がる気がしないな。次からは降りて戦おう。」
「了解です」
「了解にゃ」
そうして、軽トラを降りて歩みを進める。
「……狼だな。」
「狼ですね。」
「狼だニャ。」
オレが死にかけた相手。だが、資格取得時のVR模擬戦でこいつの動きは予習済みだ。今こそ、雪辱の時!
シュパッ
「楽勝にゃ」
「……えーと、
「ぶー、わかったにゃ」
あーもう、楽なのはいいのだが、こんなんでいいのか? もっと、血沸き肉躍る戦いがここにあるんじゃないのか?
そんなこんなで、通路の奥にある扉を見つけた。
「たぶん、この中には確実に魔物がいる。宝箱もドロップするかもしれないから気合い入れていこう」
「「おー!(にゃー!)」」
念のため、軽トラはすぐ後ろに移動させてある。
オレは両手で扉を押し開ける!
―なにものかにであった!―
狼だ! 今度こそリベンジだ!
灰色狼は大きく飛び上がって噛みついてきた!
オレは大盾で狼の攻撃を受け止める。
マナミサンが側面に回り込み、鉄の棒で狼の横面を打ち付ける! 2回あたった!
ひるんだすきに、オレは盾の下端に体重を込めて狼の脇腹に突き下げる! 1回あたった!
「ギャイィィィィィンンンンン!」
どうやら効いているようだ。
美剣を見学に回すと、現状はオレもマナミサンも打撃を加える攻撃方法しかないのでまともに戦えるか心配だったのだが、大丈夫なようだな。
それに、絆を交わしたマナミサンがどこにいて何をしようとしているのかが手に取るようにわかる。美剣も同様だ。こんなにも効果が実感できるとは、コトを為して良かったと思える。
動きの鈍くなった狼に対し、マナミサンがとどめの一撃を加える! 2回あたった!
無事、灰色狼は光の粒子になって四散した。
よし! 実質の初勝利だ!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おお、宝箱だ!」
ダンジョンアタックを開始して、通路の先の最初の玄室を攻略。因縁の相手である灰色狼と相対し、
そうして、目の前には初の宝箱が出現した。
「さて、これをどうするかだが……」
宝箱には、罠がかかっていることが多い。魔物には罠を仕掛けるような知能はないだとか、ならば誰が仕掛けたとか、そんなことはダンジョン研究家たちに任せておくとして、さしあたっては今目の前にある宝箱をどうするかということだ。
ドゴーン。
軽トラで轢いてみた。
結果、罠はなかったようで、無残にも倒れて口を開いた宝箱が転がっている。
「魔石と毛皮……ですね」
うん。中身を無傷で手に入れられたのはいいが、やはりなんか違う。
現状、オレたち3人の中に宝箱を開けられるスキルを持った者はいない。
軽トラを使うことで確かに危険は避けられるのだろうが、今後は鍵のかかった宝箱も増えてくるだろう。
このような開け方をしていたのでは、鍵開けのスキルが誰かに生えてくることはないであろう。
「やっぱり、自力で何とかする方法でやっていこう」
「はい」
「はいにゃ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――次の玄室、
扉の向こうには、俗にいうスライムが待ち構えていた。
飛び掛かってくる触手のような体を盾で払いのけつつ、そのまま盾でスライムの上にのしかかる。
プチッ
どうやら、核のようなものを潰したらしい。
斬撃や打撃といった点や線の攻撃はなかなか通じづらい感じだが、こうして面での攻撃はとてもよく効いた。
そして、本日2回目の宝箱だ。
今回は、オレが盾に身を隠しながら、マナミサンの模擬刀を借りて突っついてみた。
箱と蓋の間に模擬刀の先を差し込み、上に持ち上げると針のようなものが飛び出てきた。毒針という奴だろう。
「ふう、手を突っ込んでたら危なかったな」
念のため冒険者支援センターから解毒ポーションを数本買ってきてはいるが、やはり毒などにはかかりたくはない。
それに、解毒ポーションもお安くはない。何と一本3万円!
宝箱の罠解除に仮に3万円かけて、それに見合ったドロップが得られるかと言えば答えは否である。
参考までに、灰色狼のドロップする魔石について。
魔石は高額で買取されるので、小さなものでも約1万円の買取価格が付くのだが、その売買でかかる税金が8割と決められていて、実入りは約2千円にしかならないという実情があるのだ。
美剣が大量の魔石を確保してくれたので、一個2千円の約500個として、現状で100万円分くらいの収入は見込めるのだが、それは美剣が異常に強いからなのであって、オレたち凡人が命を懸けて戦って一回2千円というのは微妙な気がする。
まあ、ここはダンジョンの入口の最上層なのだから、今後もっと強い魔物を狩ることが出来れば収入はうなぎのぼりとなることを期待しよう。
さて、探索を続けようか。
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