第16話 僕の為になるお話

知恵さんとコーヒーショップで時間を潰す。

一時間は、思ったよりも長い。

僕はブラックで、知恵さんはカフェオレで。

彼女が僕に好意を持ってくれているのは先程の話から確かだとは思うけど、だからといってすぐに何かを始められる訳では無いからな。

共通の話題がある訳でもなく、僕から好意を向けられる訳でもなく。

寺本さんは態々頼んで遠ざけるくらいだから、僕に聞かせたくない話をしているのだろうからね。

しかも、由香里を説得するのに時間がかかると思ってると言う事だから。


「知恵さん、寺本さんは由香里に何を話したかったか知ってますか?」


「いえ、内容は知りません。克也さんにとって良いお話だとは聞きましたが。」


………………………………………………と言う事は、由香里にとっては余り良くない話だと言うことだろうな。しかも、僕には聞かせられない事だろう。

僕が聞かないほうが良くて、僕の為になるお話。


まさか………………………………


「知恵さん、最近寺本さんが僕が預けてある作品を、誰かに見せたりしてませんか?」


「………………………………………克也さんの為だと言って、懇意にしているお客様をお呼びしてはいました。何かお見せしたとしたらその時だとは思いますが。」


………………………………………決まりだな。

もし、僕が思った通りだったとしたら、もう寺本さんとはお付き合い出来ない。

由香里が了承したとしても、僕には許せない。


「知恵さん、僕が思った通りだとしたら、もう二度とここに来る事は無いでしょう。そうならない事を祈ってますが。」


「………………………………………そんな!何があるのですか?」


「考えられるのは、僕の作品を誰かに見せてから公開するか、販売を考えているのかなと。」


「それは、克也さんにとって、良くない事なのですか?」


「ええ、僕と由香里のプライベートな作品です。誰にも見せない事を条件に寺本さんに預けたのですから。」


「………………………………………今すぐ戻りますか?それとも、祖父に連絡取りましょうか?」


「………………………………………いえ、まだそうと決まった訳では有りません。もう少し待ちましょう。」


「差し支えなければ、どんな作品か教えてもらえますか?」


「由香里の許可無く話すことも出来ません。察して下さい。」


知恵さんが息を呑むのが感じられた。どんな作品か、想像できたのだろう。


「という訳で、知恵さんとの明日のデートの予定でも決めておきましょうか。何処か行きたい所はありますか?」


何が『という訳で』なのかは僕にも良くわからないけど、まだまだ時間を潰さないといけないので話題を変えてみた。

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