第57話 王女の特訓に付き合おう!
――マルコヴァール辺境伯に出会ってから、数日が経過した。
あの日、俺はマルコヴァールに対し真正面から堂々と『ルシエルから俺に鞍替えさせてやる』と宣言した。
それを聞いた奴はプルプルと震えていたが、それだけ正しい道を教えてもらえることが嬉しかったのだろう。
うむ、まさに俺の配下――同士となるにふさわしい反応だった。
とまあ、そんな風に気合を入れたところまではよかったのだが……
ここ数日は、具体的な情報入手方法について悩んでいた。
マルコヴァール辺境伯はかなり警戒心の強い人物なので(やっていることを考えたら当然だが)、それなりに工夫が必要なはずだ。
そのため、今の俺にできることはせいぜい【冥府の大樹林】を破壊することと、そして――
「いきます、クラウス様!」
「ああ」
――ソフィアの修行に付き合ってやるくらいだろう。
改めて現実を再確認した俺は、斬りかかってくるソフィアの剣を【ピカピカの剣】で軽く捌き始めるのだった。
さて、なぜこんなことになっているのか。
ことは【冥府の大樹林】にやってきた当日にさかのぼる。
俺が大樹林を燃やし尽くした後、呆気にとられたままの騎士たちとは違い、ソフィアはすぐさま俺に修行をつけてほしいと申し出てきた。
普段ならそんな申し出は即却下なのだが、ソフィアだけは例外だ。
何せ将来、彼女には主人公たちと共に、ラスボスとなる俺に立ち向かってもらわないといけないのだから。
並大抵の強さでかかって来られては、こちらとしても非常に困る。
というわけでは、俺は直々にソフィアを指導してやることにした。
基本的には剣と魔術の扱いを教える形だ。
この数日指導する中で、徐々に課題も見え始めてきた。
まず大前提として、レベルに関してはそれなりの水準に達している。
初めて会った時の【エルトリア大迷宮】攻略において、俺がパワーレベリングに付き合ってやった成果が出ているのだろう。
ゲーム開始時点のソフィアに比べても、かなりのステータスを有しているはずだ。
問題があるとすれば熟練度。
こちらはレベルが上がったことで上限が引き上げられたという事情もあるのだろうが、剣も魔術も全くレベルの高さに釣り合っていない。
とはいえ、レベルと違い熟練度は時間をかけて少しずつ上げていくしかない。
一応、難易度の高い技を行使すれば速度も少しは上がるはずだが……
そんなことを考えながらソフィアを指導している途中、フッと音もなくマリーが俺の隣に立つ。
「ご主人様、そろそろ大樹林に向かわれる頃かと」
「む、もうそんな時間か」
マリーから受け取ったタオルで汗を拭いながら、ソフィアに視線を向ける。
彼女は両手を膝に置きながら、疲れ切った様子で荒い息を吐いていた。
「はあ、はあ、どれだけ攻撃しようとクラウス様の守りを突破できる気がいたしません。これが私とクラウス様の差なのですね……」
ショックを受けているようだが、その目に諦めの色は見えない。
その意気自体は悪くない。
ただ理想を言わせてもらうと、やはりもう少し早く成長してほしいところ――
「ご主人様、タオルをお預かりします」
「ん? ああ」
汗を拭いた後のタオルをマリーに手渡す。
どことなく彼女の笑みから感情が漏れ出ているように見えたが、恐らく気のせいだろう。
それよりもマリーが言った通り、大樹林に行く準備を進めなければ。
ソフィアや騎士たちに反意をアピールするためにも、日課の大樹林破壊を引き続き行う必要がある。
「大樹林の破壊、か……」
「? どうかなさいました、ご主人様?」
「いや、何でもない」
マリーを誤魔化しつつも、俺の脳内ではとある悩みが生じていた。
ここ数日、大樹林の破壊を続ける中でとんでもない問題が発生していたからだ。
そう、その問題とはずばり――
(――――毎日毎日、大樹林を燃やし尽くすの飽きた!!!)
――という、とんでもない大問題である。
毎日のように魔術を放っていたせいか、破壊されると予測される場所には魔物も寄り付かなくなった。
おかげでレベルは上がらないにもかかわらず、既に俺の熟練度は上限に達しているため得られるものもない。
そういう意味ではむしろ、ソフィアと正反対の悩みを抱えていると言ってもいいだろう。
まさに万事休す。
それでも反意をアピールするためには続けなくてはならないのだから、ラスボスを目指すというのも大変な話だ。
たとえば、俺がわざわざ前線に出向くことなく、それでいてソフィアや騎士たちの不満が溜まる解決策があればいいのだが――
「っ、待てよ……」
その時、俺の天才的頭脳が神がかり的なアイディアを閃く。
それは今挙げた多くの悩み、そしてソフィアの熟練度問題に至るまで、全ての懸念事項をことごとく解決してくれるウルトラCな策だった。
これだ、これしかない!
こんな天才的な発想ができるなんて、俺はなんて天才なんだ!
勝利を確信した俺は、心の中で「はーっはっはっは!」と高笑いするのだった。
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