第22話 貴族を実験台にしよう!
王都にやってきた俺の目に飛び込んできたのは、亜麻色の長髪が特徴的な少女と、貴族らしき男が言い争う光景だった。
少女に関してはどこかで見た覚えがあると思ったのだが、記憶をさかのぼっても思い出すことができない。
気のせいだったのかと結論を出し、改めて何があったのかを観察することにした。
貴族の男が、少女に対して苛立ったように声を荒げる。
「貴様! この私の誘いを断るどころか暴力を振るうなど何を考えている!?」
「あなたが格の高い貴族であろうと、申し出には応えられないと何度も言ったはずです! それなのに腕を掴んできたから払っただけのことに、何か問題があるというのですか!?」
「当然だ! この私が貴様を買ってやろうという
……ふむ。
今の言い合いで、だいたいの内容は理解できた。
とはいえ、ほとんどは話していた通りだろう。
自分の権力におごった貴族が彼女に手を出そうとしたが、断られて
二人のやりとりは周囲の注目を集めていた。
「またアイツが意味の分からないことを言っているぞ」
「目を付けられたあの子は
「助けたいところだけど、貴族に逆らったら俺たちもどうなるか分からないからな……」
周囲の反応を見るに、どうやら男は常習犯のようだ。
貴族の横暴に、人々も迷惑しているという様子。
全員が親の仇に向けるがごとき目で、貴族を睨みつけていた。
その光景を見た瞬間、俺の心の奥底から一つの感情が生まれてきた。
「許せないぞ、アイツだけは……!」
ふつふつと沸き上がっていく感情。
その正体は当然、罪のない少女に手を出そうとしたことに対する怒り――などではなく(多少はあるが)、
(俺以外に、民からの悪意を集める貴族がいるなど、絶対に許せない!!!)
唐突に現れた、悪のカリスマ候補に対する強い嫉妬心だった。
(それにここは王都という、まさに物語の中心地。ここで悪事を行う者が出てしまえば、今後俺の悪評を広める際に影響が出る恐れがある。何とかして奴の行動を止めなければ!)
ここはレンフォード領ではないし、名前を明かさない限り俺の正体がバレることもないだろう。
そう考え、俺は二人に近づいていく。
すると、
「ええい! 私に逆らうような不届き物は、ここで成敗してやる!」
「きゃあっ!」
あろうことか男は腰元の剣を抜き、少女に向けて振り下ろした。
周囲から幾つもの悲鳴が零れ、少女が思わず目をつむる中、俺は先ほど買ったばかりの【錆びついた剣】を間にかざす。
直後、ガキン! という鈍い音とともに、男の剣を止めることに成功した。
「あ、あなたは……」
背後で少女が戸惑ったように呟いているが、そんなことどうでもいい。
今、俺が憎しみを抱いているのは目の前にいる男のみ。
「悪いが、それ以上は見過ごせないな」
殺人までいったら、悪ポイントが100くらい溜まっちゃうからね!
そんなことを考えていると、貴族の男は俺を見て顔を怒りに染めた。
「貴様! 私が誰か知っていての振る舞いか!? 私の名はブラゼ――」
「興味がないから口を閉じろ。そしてさっさとここから離れることだな」
「っ! 誰かは知らんが、またしても馬鹿にしおって!」
男はそう言って、ぐっと剣を押し出してくる。
「む」
すると想像以上に力があり、俺は驚きながら後方に飛び退いた(小型犬だと思ったら大型犬だった的な)。
そんな俺に向け、男は剣の切っ先を向ける。
「くはは、残念だったな! 私はこの身一つでBランクモンスターを倒せるほどの剣の使い手! その体を切り刻み、逆らったことを後悔させてやる!」
「……ほう」
その言葉を聞き、俺は驚きつつも笑みを深めた。
予想外ながらも、なかなか面白い展開になってきたからだ。
俺は錆びついた剣をぎゅっと握りしめる。
(そういえば、こうして実戦で剣を使うのは久々だな……)
というのも、だ。
レベルアップのためにモンスターを倒す際、市販の剣では耐久力が低くすぐに壊れてしまっていた。
加えて、広範囲のモンスターを倒すだけなら魔術の方が効率的だということもあり、しばらく剣を使う機会がなかったのだ。
もちろん、型の練習をして剣術スキルの熟練度自体は上げていたが……
久々に実戦で使えるとなり、ワクワクしている自分がいる。
とはいえ、
俺は手に持つ錆びついた剣の刀身をチラリと見た。
(格安で買っただけに、この剣も一度や二度振るえば壊れるだろうけど……まあ、今はそれだけでも十分か)
状況を整理した後、俺は男に剣を向けながら大きく頷いた。
(よ~し!
◇◆◇
――場所は変わり、クラウスが【錆びついた剣】を購入した武具店。
その店主であると同時に『アルテナ・ファンタジア』に登場するキャラクターでもあるドワーフ族のゴルドは、店に戻って来るや否や店番を務めていた弟子に向けて叫んだ。
「おい! 工房に置いていた剣をどこにやった!?」
自分が火入れ中に集中力を切らした時以上の怒声に驚きながらも、弟子は答える。
「さ、錆びついた剣ですよね? それなら他のものと同じように店頭に並べ――」
「何をしている馬鹿者! あれは大迷宮から発掘された古代の一振りで研磨中だったのだ!」
「えっ!? そ、そんな……」
「自分が何をしでかしたか理解したら、さっさと購入した者を見つけ出し、返品してもらうよう言いに行……」
そこでふと、ゴルドは違和感を覚えた。
「待て、わしが店を出たのはたったの一時間。その間に剣が売れたのか?」
「は、はい。剣を並べた直後、購入しに来た男の人がいまして……」
「男の様子はどんな感じだった?」
「えっと、店に入ってきてまず全体を見渡した後、錆びついた剣のコーナーを見て動きを止めたんです。直後、迷うことなく一本を購入すると言ってきて……」
「……ふむ」
そのことにゴルドは驚愕した。
弟子が間違えたことからも分かるように、研磨前のあの剣は、他の錆びついた剣と見た目が変わらない。
にもかかわらず、迷うことなくあの一本を選び抜いた?
錆びついた剣自体、ネタ商品に近く滅多に売れるものではないため、
考えに考え抜いた末、ゴルドは答えにたどり着いた。
「もしかしたらその男は、剣に選ばれたのかもしれんのう」
「選ばれたとは?」
「迷宮から発掘される古代武器の中には、使用者を自分から選ぶものもあるのじゃ。であるなら、無理に追う必要はないかもしれぬ」
剣の可能性を最大限にまで輝かせることこそ、ゴルドの鍛冶師としての誇り。
剣が本人を選んだというのであれば、それが一番だとゴルドも考えていた。
ふとそのタイミングで、弟子は気になったことをゴルドに尋ねる。
「ところで、迷宮で見つかる武器って特殊な能力を持っていることも多いですよね? あの剣にも何かあったんですか?」
「それが、研磨前ということもありまだ分かっておらんかったのじゃ。ただ、一つだけはっきりしてることがあっての」
ゴルドはそこで言葉を止めた後、真剣な表情で告げた。
「あの剣の刀身はどれだけの衝撃を与えようと傷一つつかない最高級の一振り――すなわち
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