第18話 怒涛のお礼がやってきた!(絶望)




「「「うおぉおおお! 領主様が帰ってきたぞぉおおお!」」」




 レンフォード騎士団に『一か月間の強制休暇、および一切の訓練・戦闘禁止』を命じてから一か月後。

 領都に帰ってきた俺に待っていたのは、あまりにも予想外な光景だった。


(なんだ!? 何が起こっている!?)


 突然のことに困惑する俺の前に、騎士団長のローラがやってくる。



「ご帰還、お待ちしておりました主様あるじさま! 主様のご指示通り、何とか魔王軍幹部の捕獲に成功しました!」


「……は? 魔王軍幹部?」


「ええ! このローラ、此度こたびの一件にて主様に感服いたしました! 幹部の襲来を予測するだけでなく、数少ない情報からその能力を見抜き、対応策まで出してみせる卓越した戦略眼! まことに天晴あっぱれでございます!」



 ローラが何を言っているのか全く分からない。

 が、どうやら俺が不在中に魔王軍幹部が襲来し、その捕獲に成功したらしい。

 ……いや、本当にどういうことだ!?


 予想外の事態に言葉を失っていると、メルティング・ポークを渡した騎士たちが前にやってくる。



「領主様、この度はまことにありがとうございます! 領主様が施してくださったメルティング・ポークを食してエネルギーを蓄えていたおかげで、体重最適化ダイエットによる敵の魔術の無力化に成功しました!」



 いや、ダイエットで無力化できる魔術ってなんだよ!?

 意味が分からなさすぎる。

 もうこれはあれか、ドッキリか? ドッキリだよな!?


 あまりの情報量の多さに、思わず立ちくらみがする。

 すると、続けて俺が法外な金銭をせしめた商人が前に現れた。



「領主様の格別のご配慮、心より感謝いたします!」


「……何の話だ?」


「当然、領主様が格安で譲ってくださったシルキー・ベアについてです! この魔物の毛皮で作られた衣類はまるで絹のような触り心地で最高だが、出現頻度が低く戦闘力も高いためめったに市場に出回らないといま王都で評判なのです! おかげで売却の際、かなりの利益を出すことができました。お礼に半分ほど領主様にもお渡しするので、ぜひ今後ともよいご取引を!」



 そう言って、商人は金貨を俺に手渡してくる。

 ってかもう、魔王軍幹部すら関係なくなってきたんだけど!?

 なんなのこの状況!?


 さすがにもうないよな……? と思う俺の前に続いて現れたのは、湖で儀式のようなものをしていた男たちだった。


 あれか? あれだよな?

 儀式を中断されたことに怒って糾弾しに来たとかだよな!?

 お願いだからそうだと言ってくれ!


 だが、現実は非情だった。



「領主様、此度は我々の財宝をお守りいただきありがとうございます!」


「……ごほっ(吐血の音)」


「あの湖に暮らすレイク・サーペントは人語を理解し、金属をこよなく愛する最強の魔物ヌシ。我々の村を破壊しない代わり、定期的に高価な金属を納めなければならなかったのですが、領主様の魔術でヌシは死亡し、湖の底に沈んでいた我々の秘宝も全て返ってきました! こちら、お礼の品です! ぜひ受け取ってください!」



 そう言って村人たちは、高価そうな金属類を渡してくる。

 それを無意識に受け取った後も、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。



 ……いったい、何が起きている?

 ……なぜ、こんなことになった?

 ちょっと人の嫌がることをしたかっただけなのに、なんでこんな苦しい目に遭わなければならないんだ!


 そう考えたのち、俺はぶんぶんと首を左右に振る。


(いや、落ち着け。今にも絶望のあまり町を丸ごと燃やし尽くしてしまいそうだが、さすがにこれで全部のはずだ! この一か月間、他に人と関わることはなかった! 感謝されるのもこれで最後のはず――)


 そう考え、切り替えようとした直後のことだった。



「失礼します、貴方がレンフォード子爵ですね」



 突然、見ず知らずのメガネをかけた男が現れる。

 誰だコイツ。


 疑問に思う俺に気付いたのか、メガネ男は続ける。


「失礼しました、私は王都にて文官をしているサーディスという者です。陛下とウィンダム侯爵より命を受け、例の件・・・についての報告に参りました」


「……は?」


 国王にウィンダム侯爵? なんでここで突然そんな名前が出てくるんだ。

 というか例の件・・・って、いったい何のことだ?


 まずい、まずいぞ。

 何やら嫌な予感がする。

 一刻も早く、この場を離れなくてはならない気が!


 だが、そう考える俺に対し、無情にもサーディスは告げる。



「しかし驚きました。例の件・・・のみに飽き足らず、まさか魔王軍幹部を捕らえるという成果まで挙げられていたとは。『偉大なる策略家』というウィンダム侯爵の予測は本当だったようですね。それから今回の一件については既に、伝達魔術で陛下にも報告させていただきました……おっと、ちょうどタイミングよく返事がやってきましたね」



 ダラダラと冷や汗を流す俺の前で、一羽の青い鳥がサーディスの手に止まり口を開いた。



『魔王軍幹部を捕獲しただと!? それはなんと凄まじい偉勲いくんか! 例の件・・・を含めレンフォード子爵には多大なる褒賞を与えたい。必ずや、近いうちに王城へ参るよう伝えよ! もう一度告げる、絶対だ! これは王家の沽券こけんにもかかわる問題であるぞ!』



 そして王国の絶対君主とは思えない興奮した声色で、国王の言葉が響き渡る。

 最悪なのが、それを聞いたのが俺やサーディスだけでなく――




「「「うおぉぉぉおおおおお! 領主様が国王様に認められた! 褒章を与えられるぞぉぉおおお!!!」」」




 ――自分たちの主が評価されたと知り、町中の人々が喜びの声を上げる。


 そんな中、俺は心の中で恨み言を告げることしかできず、



 くそっ、くそっ、くそっ!

 俺はただ悪評を広めたかっただけなのに!



 何でこうなったぁぁぁぁぁあああああ!!!

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