第13話 いっそのこと、この手で町を破壊しよう!
「だ、誰かー! 助けてくれー! 突然町の中心にSランク魔物イージス・バードが現れた! イージス・バードは特殊な魔力で体が覆われていて通常の攻撃を一切通さない! コイツの魔力を突破できるとしたら、角に特殊な魔力を纏うギガホーン・ボアの覚醒進化個体しかいないが、そんなのが都合よく現れてくれるはずがない! それは分かっているが、とにかく誰か助けてくれー!」
その叫び声を聞いた瞬間、俺の脳裏に数刻前の光景がよぎった。
先ほどは聞き流したが、確かレインは捕らえたギガホーン・ボアを見て覚醒進化なんたらと言っていたはず。
今までの経験上、このままでは流れが悪い。
俺はその場で反転すると、そのまま町を離れようとする。
しかしそんな俺を止めようとするように、ギガホーン・ボアを担いだレインが立ちふさがった。
「なるほど! なぜ領主様が自ら討伐に参加されたのか疑問に思っておりましたが、初めから全て読んでいたのですね! ギガホーン・ボアの群れの中に覚醒進化個体がいることから、イージス・バードが町を襲いにくることまで! 全ては領主様の手のひらの上だったということ……このレイン、あまりの衝撃に心から震えております!」
そう告げながら、レインはギガホーン・ボアの巨体を全力で放り投げた。
ギガホーン・ボアは城壁を飛び越え、町の中心に落下していく。
直後、ドカーン! という落下音が町いっぱいに響いた。
俺は全てを諦め、門の上に移動し町を見下ろす。
すると町の中心では、ギガホーン・ボアとイージス・バードによる激闘が繰り広げられていた。
「なんだ!? 突然空から何かが降ってきたかと思えば、まさかギガホーン・ボアの覚醒進化個体か!?」
「おい見ろ! 2体の魔物が互角に渡り合っているぞ!」
「いや、もう決着がつく! 相打ち! 相打ちだ!」
「こんな救いがあるだなんて……奇跡としか考えられないわ!」
相打ちにより2体が同時に崩れ落ちるのを見て、命が救われたことに歓喜する領民たち。
そんな彼らに水を差す存在がいた。
「否! これは決して奇跡ではありません!」
レインは何を考えたのか、俺の横に立ち大声でそう叫ぶ。
コイツ、まさか……!
「そのギガホーン・ボアは、イージス・バードの襲撃を予測し領主様が自ら捕らえここに運んでこられました! 私たちの命が今も健在なのは、全て領主様のおかげなのです!」
予想通り、レインはとんでもないことを言ってのけた。
くそっ、こんな展開になるならやっぱり逃げておけばよかった!
後悔に苛まれる俺に対し、領民の声が次々と届く。
「「「領主様、本当にありがとうございます!」」」
……くそっ、またこうなるのか!
最初こそ運命を呪う俺だったが、彼らの言葉を聞くにつれ、徐々に怒りが沸き上がってきた。
――そうだ、俺は最初から選択肢を間違えていた。
魔物に町を破壊させたうえで、黒幕として現れようという回りくどい手段こそが全ての原因だったのだ。
こうなった以上、この手で直接町を破壊するしかない!
そんな決意のもと、俺は右手を高く掲げ魔力を集う。
それを見て領民たちは、自分たちの感謝の言葉に俺が応えてくれていると勘違いし盛り上がっていた。
ふふふ、今に見ていろ。
その歓声を、すぐ阿鼻叫喚に変えて見せようではないか。
そんな俺の異変に気付いたのは、隣に立つレインだけだった。
「領主様、それだけの魔力を集め、いったい何をなさるおつもりで……」
俺の手の上に集う禍々しい魔力を見て狼狽えるレインに、俺は微笑みを向ける。
「なに、まだ火葬が済んでいないと思ってな」
「火葬? まさか……!」
レインはようやく俺の狙いを見抜いたのか、驚愕に目を見開くが、もう遅い。
「【
俺は漆黒の炎を、2体の死体が転がる町の中心目掛けて放った。
が、その直後――
『ピィィィイイイイイ!』
「――は?」
あろうことか死んでいたはずのイージス・バードが起き上がり、空高く飛翔する。
刹那、黒炎はイージス・バードに直撃し、その身を燃やし尽くしてしまった。
空中で接触したことで、残念ながら町には被害が及ばず終わる。
「………………」
呆然とする俺の横で、レインが沸く。
「やはりそうか! 領主様だけが、まだイージス・バードに息があることを見抜いていたのですね! さらに弱っていたとはいえ、あの魔力の鎧を貫いてしまうとは……先見の明だけでなく、魔術の才まで突出されている!」
レインの言葉を聞いて何を勘違いしたのか、領民たちの歓声がより一層強くなる。
そんな喝采ムードの中、俺だけが一人、絶望感のただなかにいた。
なぜ、なぜ、なぜなんだ!
ちょっと魔物を町にけしかけて破壊しようとしたり、それが無理なら俺の手で自ら魔術を放とうとしただけなのに!
何で、こんなに不幸な目に合ってしまうんだ!
俺は今回の敗北を察し、
そしてどうしても我慢できず、いずれ復讐を成し遂げてみせるという強い決意と共にこう叫んだ。
「貴様ら! 今回のことは絶対に覚えておけ! 忘れることは決して許さんぞ!」
まるで負け犬の遠吠えのようになってしまった俺のセリフに対し――
「「「はい! この御恩、一生忘れません!」」」
――領民たちは満面の笑みでそう返してきた。
俺は領民たちの感謝の言葉を背に、颯爽とその場から去る。
くそっ、くそっ、くそっ!
「何でこうなったぁぁぁあああ!!!」
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