第11話 悔しいけど料理だけは美味しかった
レンフォード家に仕える執事オリヴァーは、部下の報告を聞き頭を抱えていた。
何でも今年は領地に魔力が行き届いていない影響で、農業・漁業およびに調子がよくないとのこと。
このままでは
そしてこの問題は、オリヴァーがレンフォード家に仕えるようになった
「これも全ては、あの
原因に心当たりがあったオリヴァーは思わずそう呟いてしまうも、すぐに首を横に振る。
自分ではどうにもできない問題なため、いま考えても仕方ないと思ったからだ。
「と、そろそろクラウス様のもとに参らなければ」
オリヴァーは意識を切り替えると、クラウスのいる執務室に向かうのだった。
「重大な用事ができたのでそちらに向かう」
執務室から姿を現したクラウスは、開口一番にそう言った。
最近、クラウスがよく一人で出かけているのはオリヴァーも把握していた。
しかしその度に町の犯罪組織を壊滅させるなど、領民の評判を上げて帰ってくるので、基本的には放っておくべきだと考えていた。
だが、今日は既に会議の予定が入っている。
そのことを伝えるも、クラウスは外出を止めるつもりはないようだった。
(近頃は立派な領主になられたと思いましたが、まだまだ我が儘なところは残っているのですね)
これも若さゆえだろうが、それを支えることこそオリヴァーの務め。
そう考え、オリヴァーはクラウスに同行することを申し出た。
――その後に待ち受ける、衝撃的な出来事を知る由もないまま。
◇◇◇
30分後、クラウスに連れられてやってきたのは一面に広がる荒野だった。
(ここはまさか……!)
その荒野の中心には
なにせその祠が作り出された際、その場にはオリヴァーもいたのだから。
あれは遡ること30年前、まだオリヴァーが先々代の領主に仕えていた時のこと。
先代とは異なり、先々代は民のことを思いやる素晴らしい名君だと評判であり、そんな領主に仕えられることをオリヴァーも誇りとしていた。
そんなある日のこと、領地にいきなり邪神が現れた。
邪神の手によって今にも領地が滅ぼされそうな中、先々代は自ら前線に出て戦い、最後は何とか封印することに成功した。
結果的に領土の破滅こそ免れたが、その代償として封印の維持には地脈から流れる質のよい魔力が大量に必要だった。
そのため他の土地や海に流れる魔力は減り、収穫量も落ち込んでいったというのが、当時から続くレンフォード領最大の問題でもあった。
そんな事情を知っているからこそ、オリヴァーはクラウスの意図を計りかねてしまう。
「く、クラウス様!? いったいここで何をされるおつもりなのですか?」
もしオリヴァーが想像している通りなら、それはあまりにも無謀。
何せここに封印された邪神は、先々代と当時のレンフォード騎士団が総出でも倒しきれなかった怪物なのだから。
「【
しかしあろうことか、クラウスはそのまま祠を破壊してしまった。
これにより封印が解かれ、邪神が復活することをオリヴァーは悟った。
「そんな馬鹿な……こんなことをしてしまえば、もうレンフォード領に明日は来ませんぞ……!」
絶望のあまり、呆然とすることしかできないオリヴァー。
『クハハハハ……よくぞ我の封印を解いてくれたな?』
直後、予想通り邪神が蘇った。
かつてのトラウマを前にし死を覚悟するオリヴァー。
しかし――
「【
『ぎぃやぁぁぁあああああ!』
――何が起こったのか、クラウスの魔術によって一瞬で邪神は消滅してしまった。
「それじゃ、終わったし帰るか」
クラウスはこれがどれだけの偉業か理解できているのか、少しお使いに出た後のような気軽さそう言ってのけた。
「クラウス様……貴方というお方は……」
ぶるりと、思わず体が震えてしまう。
ここ一か月、クラウスがどんどん成長しているのは肌で感じていた。
しかしこれほどの速度だとは、オリヴァーの目をもってしても見抜くことはできなかった。
オリヴァーはクラウスの背を見て、かつての主人を思い出す。
(クランデルタ様……貴方のご令孫は、貴方を超える素晴らしい君主になることでしょう)
そしてオリヴァーは、新たなる誇りを胸に荒地を後にする。
二人が去った直後、祠があった場所から小さな花が芽吹くのだった。
◇◆◇
守り神を
俺はいつ、あの成果が出るのかとワクワクしながら待っていた。
そろそろ俺が守り神を殺したことが領民に広がり、非難の声が届いてくる頃だろう。
そんなことを考えていると、執務室にノックの音が飛び込んでくる。
入室の許可を出すと、オリヴァーが中に入ってきた。
「クラウス様、一つご報告したいことがございます」
おっ、ようやく来たか。
恐らく、領民からの支持が落ちていることをオリヴァーは伝えに来たのだろう。
頑張った甲斐があったなと思いながらオリヴァーを見ると、彼はなぜかその場で頭を下げた。
……あれ? なんかデジャヴ?
今にもこの場から逃げ出したくなっている俺に対して、オリヴァーは告げる。
「クラウス様、さすがでございます。先日の邪神討伐により魔力が領土全体に行き渡った結果、農作物や魚介類の収穫量が爆増し、領内の食糧問題がことごとく解決しました!」
なんて?
「おい、邪神とは何のことだ?」
「もちろん、先日クラウス様が消滅させたあの存在でございます」
「…………」
「
情報量の多さに困惑していると、もう一人部屋の中に入ってくる。
ついこないだ、俺が牢屋にぶち込んだシェフだった。
「どうも、シェフです」
どうもじゃねえ!
「領内から届いた新鮮な食材で幾つもの料理を仕上げました。ぜひ真っ先に領主様に召し上がっていただきたく、一同で全力を尽くしました! ぜひ食堂へいらしてください!」
その後、俺は流れに飲み込まれるようにして食堂に行き、数々の料理を口にした。
そのどれもが新鮮さと豊潤さに満ち、悔しいことにこれまで食べてきた料理とは一線を画す美味しさだった。
腹が満ちたことで、ようやく頭が回るようになる。
くそっ、くそっ!
ちょっと守り神を殺して呪いをかけられると同時に、領民からの評判を下げたいと思っただけなのに……
何でこうなったぁぁぁあああ!!!
俺は涙を流しながら、料理を一心にかきこんでいく。
それを見たシェフたちはそれほど気に入ってくれたのか勘違いし、これまた感動で涙を流すのだった。
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