第529話

ネツァルとその助手役になっている技術者は陣地内の自分達に割り振られた作業場に戻ってきていた。


「師匠。魔道具の改良なんて安請け合いしてよかったんですか。それに普段の実験室ならまだしもこんな急場な場所で資材も手に入りませんし」


「大丈夫。これを使うからの」


そう言ってネツァルが取り出したのは1つの金属だ。


ただの鉄鉱石に見えるが見る者が見れば驚いただろう。


この鉄鉱石は魔力を内包している。


「これは師匠がずっと研究してた鉱石ですよね」


「普通の鉄では魔道具の変換効率が良くなかったからの。じゃが、この魔鉄は違う。鉄自体が魔力を帯びることにより今までロスしていた魔力を効率的に変換できるうえに抵抗で削れてしまう魔術回路も少なくなるはずじゃ」


「それは凄い。でも、そこまでわかっているなら何故使わなかったんですか」


「1つ問題があっての。非常に加工がしにくいのじゃ」


そう言って失敗作であろう魔道具を次々と取り出していく。


ちなみに攻撃用の魔道具は筒のような形をしておりそれを半分に割り半円形の状態で内部に魔術回路を刻み組み合わせることで筒となるようになっている。


そしてそこに魔石を取り付けることで魔力がない者でも魔法攻撃を可能としている。


助手の技術者は魔術回路を見て納得した。


「これでは暴発の可能性がありますね」


「成型まではなんとかなるんじゃがなぁ・・・。ちょっとした魔力の制御ミスですぐこの有様じゃ」


賢者として名高いネツァルですらこうなのだ。


普通の技術者には到底作成できるようなものではなかった。


「と、いうわけでじゃ。儂は篭るでの。通常の魔道具の作成は任せたぞい」


こう言いだしたら聞かないのは短い付き合いで嫌というほどわかっている。


助手役の技術者は溜息をつきつつも承諾した。




ネツァルは嬉々として作業に没頭する。


普通の道具では今までの失敗を繰り返すのみ。


そこで新たに開発したのは魔鉄製の耳かきのようなものだった。


普通の道具では魔力を通すのにも神経を使うがこれならば精密な魔力操作が可能だ。


早速、攻撃用の魔道具製作を開始する。


同じ魔鉄製ではあるものの耳かきのような道具はネツァルの魔力を受けて順調に魔力回路を描いていく。


そして、数時間後。


1つの魔道具が完成した。


刻まれた魔法は初級魔法であるファイヤアローである。


本音で言えばファイヤボールぐらいを刻みたかったのだが自重した結果である。


こうして魔鉄製の魔道具は誕生したのである。

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