第507話
ゲルマン王国、王城、大会議室には多くの貴族が集まっていた。
「皆の者。よく集まってくれた」
第一声を上げたのはゲルマン王国、現国王であるポセイドスである。
「皆に集まってもらったのは他でもない。今後の王国の方針を発表するためである」
貴族達は国王が何を言うのか固唾を飲んで待っている。
「同盟をした各国と協力してシンラ帝国に戦争を仕掛ける」
「陛下。お待ちください。我が国の方針は専守防衛だったはずです。それを破ってまですることなのですか」
「確かに我が国の方針は専守防衛だ。しかし、それを破ってでも仕掛けなければならない理由が出来たのだ」
「その理由とは」
「シンラ帝国に放っている密偵から報告が入った。弱き人々を利用して魔物を増殖させている。私はこの行いを見逃すわけにはいかない」
「人を使って魔物を増殖ですか。俄かには信じがたい」
「それが事実なら人類への裏切りじゃないか」
ポセイドスは貴族達が落ち着くのを待つ。
「魔物と人は相容れない存在だ。この人類への裏切り行為に対して王征を行う」
王征とは国王自らが軍を率いて軍事行動を起こすことをいう。
長い、王国の歴史の中でも数える程しか行われたことのない重大事だ。
「陛下。よろしいですかな」
「なんだ。ロマニア卿」
「この大事な会議に現れない領主もいるようですが」
ロマニア侯爵はクロードの代理で出席しているファールハイトの方を見る。
「そういえば、クロード卿の姿が見えないな」
「クロード卿は余の別命で国外に出ておる。今回の王征に間に合うかも不明だ」
「別命ですか。それは我々には言えないことなのですかな」
「人では到底太刀打ちできぬような強大な敵が現れた。クロード卿はそれに対抗する為に武者修行の旅に出ておる」
「武者修行ですか。臆病風に吹かれ逃げただけなのでは」
「クロード卿に限ってそれはあるまい。とにかく皆の者。準備を怠ることなく備えてほしい」
「はっはっ」
「陛下。ロマニア卿は不服のようでしたな」
「他の者の足を引っ張らなければよいが・・・」
「王征をすると言ったのです。そこで足を引っ張るような愚は犯さないでしょう」
ロマニア・フォン・クラリーネ侯爵は反国王派閥の筆頭だ。
彼に追従する貴族は少なくない。
近年では民の多くが移住したため力を落としているが油断の出来る人物ではなかった。
今は国内で争っている場合ではないが不安の種であることには違いなかった。
念のためリッチマンは監視のための密偵を多めに割り振ることで牽制するのだった。
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