第265話

「本当にこの店にいくのか」


「お金足りるかしら」


全員が裕福というわけではなく財布の心配をしている者が多数いる。


「せっかくのお祝いですしここのお店代は僕が持ちますよ」


「クロード君。ありがとう」


財布の心配がなくなったところでお店の中に入る。


店内に入れば豪華な装飾が出迎えてくれる。


ウェイターもきっちりとしたスーツを着ており席に案内してくれる。


メニュー表を開けばコース名が書かれており各々で注文をする。


普通ならワインが注がれるのだろうが未成年ということでフルーツジュースがグラスに注がれる。


次々と運ばれてくるコース料理を楽しみながら談笑している。


運ばれてくる料理はどれも洗練されておりとても美味しかった。


皆も堪能してくれたようでクロードは会計を済ませる。


夕食代としては高くついたがクロードの財政状況だと痛いとは思わない額だ。


店員が一枚のカードを渡してくる。


それを懐にしまい外で待っている皆に合流した。




店側も無事に支払いが済まされほっとしていた。


学園の制服を着ていたのでそれなりに裕福なのだろうということは察せられたがこの店は王都でも有数の高級店である。


お客としてこられた以上は来店拒否はできないが支払い能力に疑問を持っていたのである。


学園に人をやり交渉する可能性すら視野に入れていたほどである。


ところが一人の男子生徒がポンと支払いを済ませたのである。


全員分の支払いは決して安くはなく思わず常連客に渡すサービスカードを渡してしまうほどだった。


「金ってあるところにはあるんだな」


「子供にあんな大金を持たせてるってことは余程の家柄なんだろうな」


「誰か名前を聞いていないか」


珍しく奥から支配人が顔を出す。


「確かクロードとか呼ばれていましたね」


「子供でクロードか・・・。クロード・フォン・プロミネンス辺境伯か。失礼はなかっただろうな」


貴族が利用することも多いので支配人は情報通であった。


「他のお客様にするように接しましたが問題がありましたか」


「それならいいんだ。今後ともうちをご贔屓にしてくださるといいんだがな」


「それにしても辺境伯家のお坊ちゃんか。羨ましいな」


「勘違いしてるようだな。プロミネンス侯爵家の出であの方が辺境伯だぞ」


「どちらにしろ羨ましい限りですよ」


「恵まれた環境にいたのは確かだろうが実績も凄まじいとのことだ。運だけで爵位持ちでいるわけではないのだろうな」


「天は何故私にも微笑んでくれないのか」


「給料は十分渡しているだろう。他の人と比べればお前も恵まれている方だと思うがな」


「ここまで格の差を見せつけられると愚痴りたくもなりますよ」


「無駄口を叩いてないで働け」


「それもそうですね」


支配人は奥に戻っていき店員の男性は仕事に戻るのだった。

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