第225話 因縁に決着
元一流の傭兵集団『黒鷲の団』のリーダーであるピレルは、身に覚えがある白色の毛並みの剣歯虎に跨る大戦斧を構えた少年の姿を見て、あの時、自分の右肩を杭で射抜いた小僧だとすぐにわかった。
その小僧、コウがこちらに単騎で突っ込んでくるので、ピレルはニヤリと笑みを浮かべる。
「あの時の借りを返しに来たぞ、小僧!」
ピレルはそう叫ぶと、右腕に剣の付いたギブスのようなものを装着する。
どうやら、コウに負わされた怪我で、通常の剣は振り回せる程には握力が戻っていないのかもしれない。
さらに、左腕には特注の円形盾が装着され、兜もブランド物とわかる高そうなものを装着している。
その姿から、ピレルがコウに対して準備万端で臨んでいる事がわかった。
コウは、ピレルが眼前まで接近してくるところで、先制攻撃として土魔法による無数の『岩槍』を放つ。
これには、ピレル達も魔法対策を行っており、全員が盾を構える。
コウの土魔法『岩槍』は、ピレル達に届く前に霧散した。
どうやら、魔法対策された魔鉱鉄製の盾を多数用意しているようだ。
「奥で魔法を詠唱している女共を、お前達は念の為殺せ! こいつは俺の獲物だ!」
ピレルはそう言うと、突っ込んでくるコウに特製の剣を突き出す。
コウは、その剣先を躱しつつ、大戦斧をピレルの横っ腹に振るう。
だが、ピレルはとっておきのブランド製の盾で、その大戦斧を弾いてみせる。
これには、コウも思わず、「おっ!?」と驚いた。
なにしろコウの大戦斧は、超魔鉱鉄製一等級の代物である。
普通の盾なら、この大戦斧の前に紙のように両断されていただろうし、魔鉱鉄製のものでも、等級が低ければ損壊は免れないところだ。
だが、ピレルの盾は傷が付いたものの、見事に大戦斧を弾いてみせたから、同じ超魔鉱鉄製のものであろう事が予想できたのであった。
「ふふふっ。前回の夜襲の時のようにはいかないぞ。この日の為に、俺や直属の部下達の装備は、ブランドの中でも特別なものを用意させている。特に俺の装備は貴様を相手する為に、超魔鉱鉄製のものを闇オークションで入手したのだからな」
ピレルが、コウの一撃を防いだ事が余程悦に入ったのか、語り始めた。
だが、コウはそんな事は気にせず、ダークエルフのララノアと街長の娘カイナを狙って自分を通り過ぎようとしていく傭兵達にも戦斧を振るう。
てっきり、コウとピレルの一騎打ちとばかり思っていた傭兵達は数名があっさり大戦斧のもとに、首を飛ばされるのであった。
「このガキ! 俺との勝負の最中だろうが!」
ピレルが、腹を立てて、コウにまた、斬りかかる。
コウは、ピレルの剣を大戦斧で払いのけると、また、次の瞬間には、他の傭兵達に大戦斧を振るう。
その為、コウを仕留めるべきかと、傭兵達は騎馬の足を止めた。
その瞬間である。
ララノアは氷の精霊フロスの力を借りた精霊魔法を、カイナは土魔法を詠唱し終えて、それを発動した。
すると、人ひとり潰すのは容易な事であろう、巨大な氷の塊が傭兵達の頭上に何個も現れ、盾を身構えた者達に落下していく。
傭兵達は魔法対策した盾をとっさに上にかざすが、それも効果がなく、その重量で容赦なく潰されていった。
傭兵達はそれを見て、巨大な氷の塊を躱そうと馬を操り、逃げようとする。
中には急いで馬を捨て、飛び退く者もいた。
だが、上に気を取られていると、カイナの土魔法により、地面から無数の鋭利な岩槍が突き出て、馬と傭兵達を串刺しにしていく。
その為、傭兵達は、上下からの攻撃の前に為す術もなく、討ち取られていくしかないのであった。
そんな悲惨な光景を前に、ピレルは唖然としたが、自分の狙いはコウ一人である。
コウを睨むと、また、斬りかかった。
コウは傭兵の数が二人の魔法でかなり減らせたのがわかったので、傭兵達を威嚇しつつ、ピレルとも斬り合う。
ピレルは元一流傭兵団のリーダーだけあって、その剣の腕や動きは大したものである。
戦い慣れている事もあり、随所にフェイントを入れるなど、トリッキーな動きを見せながら、コウを攻撃した。
コウは、少し戦いづらさを感じつつも、そのずば抜けた身体能力でもって、対抗する。
それにしても……。
コウは、心の中でつぶやきながら、このピレルの装備に感心していた。
というのも、見る限り、ピレルの特注の剣と盾、兜などは、超魔鉱鉄製とは言っても、三等級どまり(それでも十分、素晴らしい装備なのだが)だ。
だが、そこに付与されている属性によって、超魔鉱鉄製一等級の大戦斧と互角に渡り合えているのだから、属性付与とは凄いものだと感心していたのである。
「ふふふ。自分の大戦斧が簡単に防がれて、驚いているようだな! これらには大金を投じている。なにしろ、この剣は、耐久性、切れ味が付与されている。さらに、お前の重量級の大戦斧対策に、耐久力、衝撃吸収付与の盾を選んで落札したのだからな!」
ピレルは、国宝級とも言える属性付与付きの武器と防具を自慢げに構えて言い放つ。
これらを購入するには、本当に全財産を投げ打ったのではないかと思われた。
「なるほど、手応えを感じなかったのは、衝撃吸収されていたからなのか。興味深いなぁ」
コウは素直にその説明に感心する。
それに、ピレルの兜にもきっと何か付与されていそうな気がしたから、油断できない。
「どうした? この程度か? 俺は貴様のせいで支援者を失い、都落ちする羽目になったのだ。ただで死ねると思うなよ。死ぬ時は、拷問による発狂する程の痛みを味合わせてからだぞ?」
ピレルは、そう言うと、また、コウに斬りかかる。
「じゃあ、どのくらいの衝撃まで耐えられるから、試してみたいね」
コウは、完全に戦士としてでなく、鍛冶師としての興味が勝っていた。
ピレルの斬撃を躱し続けて一旦距離を取ると、大戦斧を中段に構える。
「はははっ。貴様は確かに馬鹿力の持ち主だ。しかし、この盾の衝撃吸収の前には、その力任せの一撃も無駄な労力だ!」
コウはその言葉を無視して、大戦斧を横殴りに振るった。
ピレルはその一閃に合わせるように盾を構える。
大戦斧がその盾に吸い込まれていく。
盾は大戦斧の攻撃を受けると、鈍い金属音を立て四散する。
そして、ピレルの左腕もその勢いで砕いた。
「ぐわっ!」
ピレルは思わず、悲鳴を上げる。
だが、やはり、歴戦の傭兵だ。
左腕を潰されながらも、右腕はコウを攻撃する為に、突き出される。
その特殊剣の剣先がコウの横腹を突き刺した。
コウは、眉をしかめたが、それも一瞬で、大戦斧を今度は、ピレルの頭上に振り下ろす。
「この兜は、斬撃耐性ありだ!」
ピレルはそう叫ぶと、特殊剣をコウの横腹から抜き、改めて今度はコウの喉を狙う。
だが、剣先がコウの喉元に届く寸前でピタリと止まった。
なぜなら、コウの大戦斧は斬撃耐性のある兜を砕き、ピレルを真っ二つにしていたからである。
「……これで、あなたとの因縁も終わりです」
コウは、そう告げると、大戦斧の血のりを振るって切る。
そして、大戦斧の刃の部分を見て驚いた。
「……あっ。刃が欠けている……。属性付与があるとこの大戦斧でも欠けてしまうのか……。今度僕も、付与出来るように打ち直してみようかな?」
コウはそうぼやくと、他の残った傭兵達に対峙するのであった。
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