第92話 刺客との闘い

 突如現れた刺客達は二手に分かれ、少数名がコウ達を、大多数がバルことオーウェン王子一行を襲撃した。


 バルことオーウェン王子は自らも剣を抜き応戦しているが、ほとんどは側近のセバスや護衛騎士のカインとアベルが敵の大部分を相手してどうにか守っている様子だ。


「魔法使いを先に殺せ。ガキは魔物使いだが、肝心の魔獣は当分は戻ってこないはずだから脅威はないぞ!」


 コウ達の命を狙う刺客の一人が、仲間にそう指示する。


「了解!」


 刺客達はそう返事をすると、武器らしいものを何も持っていないコウを無視して魔法使いの恰好をしている村長の娘カイナに肉薄した。


 しかし、その刺客達の視界が遮られる。


 それは、コウが魔法収納鞄から取り出した大きな戦斧が、目の前に現れたからであった。


 刺客達はそれに気づいてギョッとし、一瞬足が止まる。


 その次の瞬間には、その大きな戦斧をコウが片手で刺客達を横一線していた。


「「「ふぁ?」」」


 カイナを襲おうとしていた刺客達は自分達の目線が一瞬ふわっと浮かび上がり、地面に近づいていくのを感じたのを最後に絶命するのであった。



 指示を出していた刺客の一人は、仲間の首が一瞬で宙を舞った事に呆然としていた。


「なっ!?」


 それも一瞬のことで、正気を取り戻すと刺客は慌てて、コウと対峙する。


 慎重にコウの戦斧の届く範囲から距離を取り、警戒した。


 あんな重そうな戦斧だ。一振りの威力は大きくても、その間に隙が生まれるはず。その瞬間にこちらは飛び道具で急所を狙えば容易に片はつくはずだ!


 刺客もただのお飾りではない。


 戦斧を扱う敵との戦い方は十分心得ていたから、すぐにコウの弱点を見破ってそう判断した。


 だが、刺客は落ち着ているつもりでも、やはり、仲間三人の首が戦斧の一振りで飛ばされた後である。


 冷静な判断はできていなかった。


 なぜなら、戦斧の一振りでは、通常、首は綺麗に斬られて飛ぶのではなく、破砕されるように吹き飛ぶものだからだ。


 それは、戦斧の切れ味もさることながら、コウの一振りが尋常ではない鋭さを持つことを意味する。


 つまり、少年のコウの身体能力が見た目とは違って化け物じみているということだ。


 コウは戦斧を両手で構えると、退治している刺客に一歩吹き込み、その戦斧を振るった。


 刺客は十分警戒していたので、それに合わせてすぐに一歩下がって躱した、……はずであった。


「え?」


 刺客はコウが戦斧を振ったタイミングで一歩下がると同時に、投げナイフを投じるつもりでいたのだが、その手が上がらない。


 いや、上がらないのではなく、ナイフを手にした瞬間、コウの戦斧に胴体ごと両断されていたのである。


 刺客はそのまま地面に突っ伏すと死ぬのであった。



 コウが、自分を襲おうとする刺客達を一振りで処理してくれた間に、魔法使いのカイナは、土魔法を詠唱して無数の飛礫つぶてを頭上に出現させると、バルことオーウェン王子達を襲う刺客の集団に攻撃を仕掛けた。


 この視界外からの攻撃に四人もの刺客が頭部を直撃されてその場に突っ伏す。


 コウとカイナの二人で、九人の刺客を倒したことになるが、残りの刺客はまだ、二十人ほどもいる。


 それも腕利きであることは間違いがないだろう。


 刺客達は想定外のコウとカイナの活躍の為、さらに半分の十名を二人に割くことを強いられた。


「あのガキと魔法使いは厄介だ。それに、先行していたダークエルフと魔獣がそろそろ戻ってくるかもしれない。早めに仕留めろ!」


 刺客を指揮していたリーダーが、そう言うと、刺客達も無言でコウ達に向かってくる。


 刺客達はコウの戦斧の大きさに警戒して、距離を取った。


 当然だろう、あんな大きく重そうな攻撃は防いだとしてもただでは済まない。


 それに、仲間の遺体を見る限り切れ味も良さそうだ。


 だから、近接戦のコウには距離を取り、魔法使いのカイナには肉薄する戦略を取ることにした。


 そう、コウの弱点は距離を取られることである。


 しかし、それは以前のコウならば、であった。


 コウは、


「以前の僕ならこうなるとどうしようもなかったけど、弱点は克服したよ!」


 と口にすると、土魔法を唱える。


「なっ!? 魔物使いのうえに斧使い。さらには魔法も使える、だと!?」


 刺客達はコウが想像を超える才能の持ち主であることに、驚く。


「『岩槍雨』!」


 コウがそう唱えると、カイナに肉薄しようとして三名の刺客達を空中に現れた無数の岩槍が襲い、串刺しにする。


「ありがとう、コウ! ──『風防壁』!」


 カイナはその間に自分とコウに対しての飛び道具を警戒して風による防御魔法を唱えた。


「土魔法に風の防御魔法!? こっちの魔法使いもただ者じゃないぞ!?」


 刺客達はカイナが、二つの属性を使えるとても優秀な魔法使いであることをすぐに察した。


 そこへである。


 剣歯虎サーベルタイガーのベルに跨ったダークエルフのララノアが音もなく戻ってきていたのだ。


 ベルがあまりにも軽やかに地面を蹴って疾駆するものだから、足音があまりにも聞こえず、ヨース達の馬車が死角になっていたこともあり、刺客達も気づかなかったのである。


 そのララノアとベルが刺客達の間を駆け抜けた。


 刺客のいる右側をベルの代名詞である剣の牙が襲い、左側をララノアが引き抜いた『黒刀・紫電』が襲う。


 ベルが、刺客の二人の首を切り裂き、ララノアの『黒刀・紫電』が三人の首を斬り飛ばした。


 あっという間の出来事に、コウ達に向かっていた刺客は二人だけになる。


 これには、王子側の指揮を取っていた刺客のリーダーも、唖然とした。


「そ、そんな馬鹿な!?」


 刺客のリーダーが驚いているその間に、王子の護衛であるカインとアベルが刺客の二人を斬り捨て、側近のセバスも一人倒す。


 そして、コウが対峙していた残りの刺客二人を戦斧で両断すると、


「くそっ! 引け、引くんだ!」


 刺客のリーダーは残り七人ではもう勝ち目がないことを悟って逃げることを指示する。


 刺客達もコウ達の暴れようにたじろぎ、指示に従って逃げ始めた。


「逃がさないよ! ──ベル!」


 コウが剣歯虎のベルを呼ぶ。


 ララノアがすぐに意味を理解してベルから降りると、すれ違いでコウがベルに跨った。


 カイナもそれを理解して逃げる刺客の背後に魔法を浴びせる。


 カイナの追撃魔法でさらに二人を仕留め、同じくセバスが魔法で一人を倒す。


 そこにベルに跨ったコウが肉薄し、戦斧を振るって二人を仕留めた。


 残りはリーダーだ。


 リーダーは木陰に隠してあった馬に跨ると、一気に距離を開いて逃走を企てる。


 コウは、重い戦斧を持った自分が跨ったままのベルでは追いつけないことを悟ると、飛び降りた。


 そして、戦斧を振りかぶると、逃げる刺客のリーダーの背中めがけて投じる。


 戦斧は風切音を立てながら回転してその背中に吸い込まれていくと見事に的中し、刺客の全てを討ち果たすのであった。

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