第62話 移住者達

 ある日の事。


『エルダーロック』の村の出入り口に、五十名ほどのドワーフのグループが押し寄せていた。


 もちろん、ドワーフと言ってもグループが違えば、多少文化も変わるし、専門とする職種も変わる事はよくあるので、その為、交流しない場合はよくある。


 村を訪れたドワーフグループは鉱山系であるヨーゼフ達も知らない集団であった。


「この村の村長と話をしたい。取次ぎしてもらえるだろうか?」


 馬車から降りてきた革布の帽子を被った若そうなドワーフが、門番のドワーフに頭を下げてお願いする。


 その門番は丁度、当番が回ってきていたコウと、ダークエルフの混血であるララノアであった。


 現在、『エルダーロック』は人手不足気味で、当番制でいろんな事を平等に担当する事になっている。


 その一つが門番であり、他にも村の内外の巡回もあれば、貯水池の監視なども含まれた。


「私が村長に知らせてくるわね」


 ララノアはコウにそう告げると、走って村長宅に向かう。


「……じゃあ、その間にいくつか話を聞いてもいいですか? ただ事ではない様子なので」


 コウは知らないドワーフのグループだから、少し警戒する姿勢を示して告げる。


「ああ、それは怪しまれても仕方がないからな。なんでも答えよう」


 グループのリーダーらしきドワーフは快く応じた。


「では、名前から」


「俺の名は、このグループを率いているヨサクだ」


「ではヨサクさん。みなさんはなぜ、ここへ?」


「それについては話が少し長くなるがいいかい?」


「ええ。どうぞ」


 コウは事情を知る為に、洗いざらい話してもらおうと、村長のヨーゼフが来るまでしっかり聞く事にした。


「……実は、俺達、代々農家をやっている『土いじりドワーフ』でな。とある領地で小作人という形で働かせてもらっていたんだが、今の代の領主様がそれはそれはドワーフ嫌いな人物でな。『お前らの作る作物をうちの領民が食べる事など考えられない』とおっしゃった。だから、それからは作るものが家畜の餌になるものだけに限定されてしまったんだ」


 ヨサクは悲しそうな表情でそう答えた。


 これには、他の農家系ドワーフ達も悲しそうに頷く。


 そして、ヨサクは続ける。


「俺達も最初はそれで我慢していたんだが、家畜の餌となると正直あまり金にならねぇ。生活も困窮し始めて、グループの長を任されていた俺はどうするか決断を迫られた。そこに、行商人の大鼠族がやってきてな。『南の辺境にエルダーロックというドワーフの村がある。そこなら、好きな作物を作れるかもしれないぞ』って、言われてな」


「それで、うちに?」


「いや、最初はそんな眉唾な話、と思って聞く耳は持っていなかったんだが、俺達も貯えがなくなってきてな。全てが底を尽きる前にどうにかしないといけないからと、また、やってきた大鼠族の行商に再び相談したわけだ。そうしたら、『あんたら、俺のアドバイスも聞かず、今まで何をしていたんだ。少しくらい自分で調べようと思わなかったのか! そんな前向きでない奴は、エルダーロックの村も引き受けてくれないだろう。お前らはここで野垂れ死にしろ!』と言われてな。それで、俺やみんなの視界が広がった気がしてな。それで話し合った結果、死を覚悟して元から居た場所を飛び出してここまで来たんだ」


 ヨサクはここまでの経緯を詳しく話した。


 そこに村長であるヨーゼフがララノアと一緒に戻ってきた。


 この頃には、村のドワーフ達も何事かと集まってきていたから、出入り口付近は人だかりであったが、ヨーゼフがそれをかき分けて間に入り、


「詳しい話を聞いたら広場でみんなにも説明するから今は散ってくれ!」


 との言葉に村のドワーフ達も散っていくのであった。


 コウはヨサクをヨーゼフに紹介し、先程聞いた事の経緯を説明する。


 ヨーゼフはコウの言葉に頷きながら聞くと、少し渋い表情になった。


「……なるほどな。ともかく、ヨサク達を歓迎する。今日は、宿屋とうち、あとは数軒の家に分かれて泊ってくれ。現在、こういった時の為にと家もいくつか建設中だ。そこの内装が整い次第、移ってもらう」


「……いいのか!? ……ありがとう、本当にありがとう……!──みんな、今日は屋根がある床で寝れそうだぞ」


 ヨサクは率いていたグループのドワーフ達に声を掛けると、ドワーフ達からも安堵の声が漏れる。


 ここまでずっと不安な旅の日々を過ごしていたのだろう。


 女子供の中には嬉し涙を流す者もいた。


 こうして、エルダーロックの村へ新たに農家系ドワーフ五十名が迎え入れらる事になるのであった。



「……問題は彼らの農作地をどうするかだ……」


 ヨーゼフはコウの自宅を訪れると、ダンカン達髭なしグループの前でそう悩みを口にした。


「なんだい、村長。考えも無しに迎え入れたのか?」


 ダンカンが歯に衣着せぬ物言いで呆れてみせた。


「仕方ないだろう。ヨサク達はもう行く場所がなく、路銀もいつまでもつかわからない状態だったんだからな。うちには畑の為の土地がないからと拒否するわけにもいかないだろう」


 ヨーゼフはダンカンにそう答える。


「……確かにな。それにしてもどうするんだ? 森を切り開くにしても、無計画な伐採はそこにいるトレント系魔物の居場所も奪い、上質な木材が入手できなくなるからな。あとは山ばかりの土地では農作地には向かないと思うが」


 ダンカンはヨーゼフの言い分を聞くと、問題が解決しない事に悩む素振りを見せた。


「ここは、農業系から鉱山系に職種を変更してもらうしかないか……」


 ヨーゼフは村長としては慢性的な人手不足であり、人手が欲しい鉱山に異動してもらう考えを口にする。


「確かにこの村の土地は整地した一部の土地とあとは森と岩の多い山だけですが、斜面を利用する棚田は作れると思いますよ」


 そこまで黙って話を聞いていたコウが、ヨサク達の為に斜面の上手な利用を提案するのであった。

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