転生!底辺ドワーフの下剋上~半人前だった少年が小さな英雄と呼ばれ、多種族国家を建国するまでの物語~
西の果てのぺろ。
第1話 半人前の人生
「落盤だ! 十人くらい奥に取り残されたぞ!」
一人の身長が低くずんぐりとした体躯にとても太い腕と足に、鉱夫特有の鉄で強化された木製の兜にツナギの姿で髭に覆われた顔の男が、丁度近くで起きた落盤事故に気づいて周囲へ現場の状況をトンネル内の他の同僚達に大声で伝えた。
そこへすぐに、ランタンを持った別の鉱夫達が駆け付ける。
その姿はみな最初の男と似通っていた。
そう、彼らはドワーフなのだ。
ここはとある鉱山で、今、事故が起き、大騒ぎになっていた。
「おい、誰か落盤の下敷きになっている奴がいるぞ! 落石をどけて引っぱり出せ!」
ドワーフの一人が落盤の下から片足の先が出ている事に気づき、力を合わせて落石を取り沿いて引っぱり出した。
「緑色の髪……? 巻き込まれたのは『半人前』だったか……。こいつは助からないな……」
引っぱり出されたのは、落盤の土で体は汚れているが、見た目は緑の髪色に茶色い目という人間の子供でようであった。
ドワーフの言う通り、その頭部は大きく損傷して大量に出血し、片腕は骨折してあらぬ方向に曲がり、内臓も破裂したのか内出血で腹部がどす黒くなっていたから、これを助けるのは治癒士の魔法使いでも難しいと思えた。
「おい、人間の子供じゃないか! どうして、こんなところに!?」
ドワーフの一人が死にかけている子供、『半人前』を見て騒ぐ。
しかし、他のドワーフは驚かない。
「お前はこっちの鉱山にやって来て日が浅かったな。こいつは正真正銘ドワーフだ。父親がドワーフで母親が人族だったんだが、生まれてきたこいつは成長しても姿は人間の子供、身長はドワーフ、それでいて一人前のドワーフの証拠である筋骨隆々の筋肉と髭がないから十六歳の成人を通り越して今年十八歳になっても『半人前』扱いのままだったのさ」
「……ドワーフとしてこの世界で生きるには非力だったから、クズ石を運ぶ仕事をこれまでやらせていたんだが、それも今日で終わりだな……。かわいそうに……」
ドワーフ族に歓迎されなかった見た目は人間の少年に、少し同情的な言葉を何人かのドワーフ達が投げかけた。
「『半人前』はもう助からん。今は奥に取り残された奴らを助け出すぞ! 医者も呼んでおけ。他にも負傷者がいるかもしれないからな!」
「「「おう!」」」
ドワーフ達はその言葉に応じると『半人前』を通路の脇に寄せて、落石を取り除く作業に移るのであった。
『半人前』は誰に看取られる事もなく、そのまま、死に絶えようとしていた。
『半人前』は、名前がない。
ドワーフは一人前になってようやく名前を名乗れるのだ。
それまで、他人からは「○○○の長男坊」とか、「○△○の次女」と呼ばれるのが普通である。
家族からは、「おい」とか、「長男!」という感じだ。
ドワーフの伝統で一人前というのは、筋骨隆々な肉体に立派な髭が生えてきた時、鉱山デビューをして最初の鉱石を見つけた時に成人として認められる。
まあ、基本的には成人として扱われる十六歳を迎えると儀式的なものが行われ、全員が一人前として扱われていた。
ドワーフなら当然、条件を満たしているからだ。
しかし、『半人前』はその肉体が人間の子供のように華奢で髭は生えておらず、身長も伸びる事が無かったから、ドワーフの世界のみならず、他の種族でも成人に達している十六歳になっても『半人前』は『半人前』のままであった。
「……」
『半人前』は、まだ、うっすらと意識があった。
他のドワーフ達の会話も遠のく意識の中、聞こえていた。
そして走馬灯が頭の中を次から次に浮かんでは消えていく。
十二歳の頃、病気で死んだ人間の母の姿。
十三歳の頃、事故で死んだドワーフの父の姿。
そして、人間とドワーフの子供として差別を受けた子供時代。
それはドワーフの子供達にいじめられた日々であったが、自分も成長していけば父親と同じドワーフらしい姿になり、その時には誰も文句を言わなくなるだろうと我慢し続けていた。
父親もそう言って我慢をするように言っていたからだ。
しかし、その思いは実らなかった。
周囲が子供の姿から一人前のドワーフに成長していく中で、『半人前』は取り残されて行った。
絶望の中、母が病で急死。
あとを追うように父親が鉱山の落盤事故で死亡した。
この時、父の死により、○○の息子という呼び名がなくなり、いつの前にか周囲のドワーフ達からは『半人前』と呼ばれるようになっていく。
そんな辛い思い出ばかりが脳内に呼び起されていった。
全ては瞬き程の一瞬の事だろうが、その一瞬が『半人前』にとっては辛く、とても長く感じる。
……もう死なせてくれ。
『半人前』は、もう喋る気力もない状態でそう思う。
だが、走馬灯は終わらない。
次は何だ……?
『半人前』は不幸中の幸いだろうか、体に受けた損傷が激しく、すでに痛みは感じない状態になっていたが、それよりも心の痛みが辛く、これ以上、過去の思い出を振り返って欲しくなった。
だが走馬灯は続く。
それは見た事もない風景だった。
それに見た事もない格好の人間達。
それに見た事もない魔道具の数々。
半人前は、覚えのない記憶がどんどん頭に流れ込んできた。
何をしても上手くいかない自分。
次々と仕事を変え、色々挑戦するがいつまでも半人前。
そう、今と変わらない人生だ。
そんな覚えのないはずの思い出が浮かんでは消える。
……いや、これらはどこかで見覚えがある。
『半人前』は、死にゆく瞬間に前世の記憶が蘇り、それが走馬灯の一部として脳内に流れ込んできたのだ。
……そうだ、俺は野架 公平(のか こうへい)二十六歳だった。
その時の記憶が一気に脳内に流れ込んできた。
その時である。
「脳の激しい損傷により、全てのリミッターが解除されました。これにより、野架公平(仮)の能力を全解放します。ドワーフ能力強化により、『土完全耐性』解放。『大地の力吸収』を発動できます。──発動しますか?」
発動したら……、どうなるの?
脳内への謎の呼び掛けの言葉に、野架公平(仮)は聞き返す。
「『大地の力吸収』により、肉体の治癒、回復再生が可能になりますので、損傷が激しい肉体の治療を行います。それによって延命する可能性が飛躍的に上がります。限界まで残り五秒です。四・三──」
まだ……、死にたくない! 僕はまだ生きるんだ! 発動!
野架公平(仮)は、心の中で叫んだ。
「二……──『大地の力吸収』発動します。脳の致命的な損傷を修復中……。同時に損傷した内臓の修復にもかかります……」
数分後──
ドクン!
止まっていた心臓が動き出す。
『半人前』こと野架公平(仮)は死の際からギリギリで生き延びる事に成功するのであった。
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