第48話 AKIHO×RENGE配信(魔力爆発)その3

『──これも研究途中ですが、お姉……RENGEが使っている魔力爆発とAKIHOさんの使用している魔力爆発は原理が少し違うと思うんです』


"どろーん"からナズナの声が響く。

ナズナが解説を始めた理由、

それはAKIHOさんが、


「殴るモーションも身体強化もなく、あの威力ってどういうことっ!? 何か秘訣があるのっ!? すごいわもう1回よく見たいっ!」


と、これが"こらぼ"動画の収録だということを完全に忘れ去り、キラキラした目で私の両手を握って質問攻めにしてきたので……それについての回答だ。


『AKIHOさんは先ほど指パッチンの要領と言いました。恐らくそこまでは合っています』


「だとすると、違う点って……?」


『魔力の状態変化です。魔力は自らの状態を変化させることができます。さながら水が氷にも水蒸気にもなるように、魔力は火にもなれば、それ以外にもなる』


ナズナは淀むことなく説明を続ける。


『RENGEは魔力を体外へ押し出す瞬間に、周りの空気全てを押しやってしまうほどの莫大な体積を持つナニカに状態変化させているんでしょう』


「な、ナニカって……?」


『……不明です。それが未知の物質か、あるいは今現在魔法学の最小単位だと定義されている"魔素"……さらにその内側にある"素粒子"のようなナニカに無理やり分解することで起こるエネルギーなのか……』


「……なんでRENGEちゃんは、自分で意識せずにそんなことができるのかしら……」


『何も考えていないからこそ、ですかね……』


ナズナがため息を吐いた。

な、なんだか呆れられてる……?

ヒドいなぁ。


「……ふぅ、しかし……まだまだ奥が深いってことはつまり、それだけ私もまだまだ強くなれるチャンスがあるってことよね」


AKIHOさんは心底楽しそうに、笑顔を"どろーん"へと向けた。


「私は今日、初めてアイスゴーレムを倒したわ。しかも素手でっ! もちろんこんなの初めての体験だったよ。私は確信した……私たちはね、もっともっと上に行けるって」


グッと拳を握り締めて、


「知っています、今の界隈ではまだまだ女流私たちが受け入れられていないこと。それに、新しい風に戸惑い、怯え、排斥しようとする流れもまた在ることも」


界隈?

新しい風?

はいせき……?

何の話かは分からない。

でも、AKIHOさんは笑顔でありつつ、真剣だった。


「でも断言する。今回の世界大会で私たちRTA走者は1つ、いえ、もしかしたらもっと上の段階に至ると思う。新しい世界が間近に迫っているの……だから、みんな私たちから目を放さないで」


そう言うと、AKIHOさんは私を手招きする。

なんだろう?

トコトコと、近づくと……

AKIHOさんが肩を抱いて、引き寄せてくる。


「あっ、AKIHOさんっ!?」


「今日はありがとうね、RENGEちゃん。こっち、真っ直ぐカメラを見て?」


「はっ、はいっ」


ドギマギしつつ、言われた通りにする。


「RENGEちゃんは世界大会に参加する。それを妨げる権利なんて誰にもない! もしあったとしても、私は絶対に真っ向から歯向かうからねっ! そして私は私で、この世界大会予選で証明してみせます。このRTA界隈は衰退なんてせず、よりいっそう面白いものにできることを。そのためにもまずは──」


ビシッと。

AKIHOさんは4本の指を立てる。


「今回の日本予選、私は女性走者として初めて、日本代表の4枠の1人として内定してみせますっ!」


そう言い切った。

そして私に目配せをしてくる。

私は頷き返した。


「わ、私もがんばりたいと思いますっ!」


「うんっ。予選じゃライバル……って言うのは、今のままじゃさすがに私がおこがまし過ぎるけど、でも私も予選まで精一杯努力するからっ! お互い代表内定目指してがんばろうねっ!」


AKIHOさんに肩を引き寄せられたまま、固く握手をする。


「視聴者のみなさん、私たちに全力で乗っかってね? 今回の世界大会は"荒れる"んじゃない、RENGEちゃんと私に"沸く"大会にしてみせるからっ! ぜひお楽しみにっ!」


それではご視聴ありがとうございました、と。

そう区切ってその日の収録は終わった。




──世界大会予選は11月の中旬。その日はすぐそこに迫っていた。

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