田舎で暮らすの

@rabbit090

第1話 秋子に出会った

 一つ一つのことがさりげない、悪夢のようだった。

 美貴みきは不安を覚えて必死に、その場を逃げたはずだったのに、辿り着いたのはこの静かな家庭だった。

 ここでの私の役割は、妻。

 その座に座りたいなんて頼んですらいないのに、なぜか、座らざるを得なかった。

 心が、揺れている。

 動きたいのに動けない、私の体は束縛されていた。


 「周平しゅうへい、うわあ、久しぶり。」

 「久しぶり。美貴、背え伸びたね。びっくりした。」

 周平とは、中学校以来だった。

 私は女だけど、高校生になってから男の子のようにぐんぐんと背が伸び、今では170ほどある。

 だいたい、周平の伸長と肩を並べる程度。

 「うん、悪い?」

 「悪くないけど、でけえなあ。あんなにちびだったのに。」

 「そうよ、私だってでかくなりたかったわけじゃないもん。」

 「それ嘘だろ、お前150くらいの時は小せぇ、でかくなりてぇって文句ばかり言ってただろ?」

 「うるさい。」

 「はは。」

 はあ、よりによって何でこの男と会ったのだろう。

 わざわざ成人式に出るために故郷に戻ってきたというのに、全く、私が会いたかったのはこいつではない。

 私は、秋子しゅうこに会いたかったのだ。

 秋子、秋ちゃんは、私の友達だ。

 何か、親友って言ってもいい気もするけれど、私と秋ちゃんの関係は、いつも友達で止まっていたような気がしている。

 それは、きっと、秋ちゃんは私にも誰にも、心を開いていなかったからなのだと思う。

 もし、私がどこかがダメで本当にダメで、ダメダメだったのなら、彼女は構わずビンタをくらわす、というような女だった。

 私は、とにかくそんな女が苦手だった。

 が、秋ちゃんとは中学生の頃、食堂で仲良くなった。


 「美貴、隣りいい?」

 「うん、どうぞ。」

 私は来る者拒まずだった。

 それは、人間関係が苦手だったからなのだと、今は分かっている。

 適当に私に話しかけてくる女の子(その日一人になってしまった子など)を、を相手にしながらご飯を食べた。

 が、しかし。 

 目の端にはちらりと、気になる子がいた。

 とてもかわいい子だった。

 転校生だった。

 案の定、閉じこもる傾向があるのか、一人になっていた。

 「ねえ、あの子呼んでもいい?」

 私は向かいに座る女の子に、秋子のことを尋ねた。

 そして、ちょっと嫌そうな顔を浮かべていることに気付かないふりをして、秋子を誘った。

 いつも人を誘うことなど無かったから、体が震えていた。

 声が、通らないことも分かっていた。

 けれどその全てがドラマのようだとすら思っていた。

 私は、随分と、興奮していたのだと思う。

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