14.節制
良くて顔見知り、言ってしまえば知り合いの知り合い程度の付き合いという付き合いもないせいぜい学校の廊下ですれ違ったら会釈をするかどうかな関係だったから俺の抱いていた印象が本当に正しいのかは正直自信がない。
あいつや、彼の妹とは不本意ながら結構な付き合いがありそちらを通して知った、所謂バイアスのかかっているだろう情報も多く、何よりそちらの方の印象が強いから今思えば多分間違っていたんだろうね。
中庸。
それでも、一言で称するならば、これほどしっくり来るものはないだろう。
容姿は決して悪くないどころかあいつの横に立っても釣り合う程だった。成績だって張り出される順位の上位陣に入っていたのだからおして知るべしだ。
人付き合いも良くて、彼の名を出せば学校の大体の生徒が頷く位には有名だった。
それでも、彼は中庸だった。
誰か一人に肩入れすることはなく、ともすれば消極的ともとられかねないほど穏やかに、何処か泰然としていた。
いつだったか誰だったか「彼は真っ白で怖い」と口にした。
同意はしなかった筈だ。
確かに誰をも平等に扱うというのは、誰も特別でないという事だ。特別を作らない事は、特別にならない事だ。だけどそれは、関わりをもった以上、『無』ではあり得ない。
真っ白で、いられる筈がない。
でなければあの日あの夢の中で俺が、狂える程に満開の桜吹雪の中で、全てを焼き尽くさんばかりの日差しの下で、凛と凍りつき動きを止めたような月光の中で、白く染まった吹雪のただ中で、誰かを待ちわびているようなそんな彼を見る筈がない。
あれが俺の見た幻覚や、勘違いでなかったのならば、どれだけの激情を穏やかな表情の裏に隠していたのだろうか。
そう、隠していた。
なにかとても大事なものと、それ以外のもの。大事なものと比較されなければ、それ以外のものだけで比べれば、等しくそれは価値がないという意味で平等だ。
たった1つのものに心を塗り潰して、その上にそれ以外をプカプカと浮かべて、いた。
俺はいろんなものが入り交じって真っ黒なんだと思い込んでいたけれど、あいつと彼の結末を見届けてしまった今では、間違っていたのだと認める他はない。
ただの一人が大切で、それ以外はどうでも良かった。けれど、それが異常でどうしようもなく壊れていると自覚していて隠していた。最後の、本当に最後まで。
普通であろうとしていたのだと。
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