第23話 国王陛下の生誕祭

 一夜明けて、いよいよ国王陛下の生誕祭が始まった。


 私とラウル様は、会場となった宮殿の大広間に入場した。


 すでに大勢の貴族たちで賑わっており、私はその熱気に少し気圧されてしまう。


 しかしラウル様は臆することなく自信に満ち溢れている様子だった。


 流石はブルーフォレスト辺境伯。エラルド王国の中でも位が高い貴族……私なんかとは肝の据わり方が違うわ。


 ラウル様は大広間に入場すると、貴族たちに挨拶回りを始める。私はその後をついて歩く。



「あ、貴方がブルーフォレスト辺境伯ですと!?」


「なんと! 随分お痩せになられましたな!」


「一体どのような減量方法を!? ぜひ教えてくだされ!」



 貴族たちはラウル様の変わりように驚愕し、そして興奮していた。


 皆が口々に質問し、ラウル様もそれに答えている。



「私の婚約者、エルシー・スカーレットの考案した減量方法を実践した結果です」


「なんと、この可憐なご婦人が……!?」


「羨ましい……! 私もあやかりたいものだ!」


「だそうだ、エルシー。ぜひ皆様に君が考案した減量方法と食品の話をしてやりなさい」


「はい」



 私は貴族たちの前に進み出る。


 せっかくラウル様がくださったチャンスだわ。大豆の調理方法と加工について広めるチャンス。ひいては米作りを広める為の布石。


 私はここぞとばかりに、大豆ダイエット法について説明した。


 貴族の皆様はしきりに感心して耳を傾けてくれている。


 さらに話を広げて、芋の加工や調理方法、そして近い将来ブルーフォレスト領で収穫できるであろうお米についても話す。



「コメ……? ああ、確か東の島国で食されている穀物ですな」


「しかし、エラルド王国で栽培できるのですかな?」


「はい。気候調査と土壌調査を行ったところ、ブルーフォレスト領であれば栽培が可能だと判明しました。今年の春から田植えを行い、この秋に収穫できる予定です」


「おお、それは素晴らしい!」


「収穫が叶った暁には、ぜひご相伴に預かりたいものですな」



 貴族たちの間でお米の話題が盛り上がる。私は嬉しくなって、お米の生産と加工方法について、事細かく説明していく。


 ラウル様も誇らしそうだ。私はラウル様に喜んでもらえたことも嬉しくて笑顔になる。


 そんな私たちの表情を見て、周りの貴族たちも笑顔を浮かべていた。




 その時だった。大広間の一角から、華やかなドレスに身を包んだ令嬢たちがやってきた。


 その中には従妹のダニーの姿もあった。


 そういえばあの令嬢たちは、ダニーのお茶会友達たちだ。何度かスカーレット男爵家にも招いてお茶会をしていたから、薄っすらと見覚えがあるわ。


 ダニーはキョロキョロと大広間を見回している。そして私の姿に気付くと、嬉しそうに口の端を吊り上げて笑った。




◇◆◇




(まったく、せっかく生誕祭に参加できたというのに、殿方からちっとも相手にされないわ!)



 大広間の一角でダニー・スカーレットは苛立ちを抱えていた。


 同じように婚活目当ての令嬢たちと一緒になって、先程から色々な男性に声をかけているものの、彼らからは体よくあしらわれてしまう。



(折角の生誕祭だっていうのに、つまらないったらないわ!)



 誰もが彼女を見下したような態度で接してくる。


 確かに自分は男爵家の娘だが、貴族令嬢としては下位の爵位しか持っていない。


 だから冷たくあしらわれるのだと思うと、それがさらにダニーの苛立ちを加速させる。



(はあ……どこかに素敵な殿方はいないかしら。それにエルシーはどこにいるの? この苛立ちをエルシーにぶつけてやらないと気が済まないわ!)



 ダニーは周囲を見回す。すると、貴族に囲まれたエルシーの姿が目に入った。


 美しく着飾っているものの、あのエルシーに間違いない。


 ダニーは口の端を吊り上げて笑うとエルシーに歩み寄った。

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