第4話
親愛なる真人へ
手紙を送ってくれて、ありがとう。先ずはそのことに対してお礼を言いたくて。もうずっと返信が来なかったし、あのことは話題にも上らなかったから真人の中ではなかったものになっていたのかと思っていました。
でも、きちんと真相を話してくれて嬉しかった。あの日が花火大会だったってことも忘れていなかったんだね、サプライズで鮎釣りに行っていたってことも初めて知りました。でも、サプライズに鮎釣りなんて……真人の感性はやっぱり私とは違って面白い。ううん、男の人の感性が私たち女性とは違うってことなのかしら?
観葉植物、サボテン買ったんだ。サボテンも実は水をあげるタイミングだったり、与える分の適切な量っていうのに個体差があるから気を付けてあげてね。ミニサボテンは品種改良されてるから、特に。私も昔、部屋に飾っていて「サボテンって確か砂漠に生息している植物だよね、水なんて空気中に沢山あるしそんなにあげなくてもいいのかな?」なんて思っていたらいつの間にか枯れかけていて、慌てて水をやったことを覚えています。良かったら、後で写真撮って送ってね!
あと、漫画! 真人の持っている漫画の量は半端じゃないよね。まるで漫画喫茶みたいな品揃えで(行ったことないけど)、デートに行くお金が無かった時はよく真人の部屋で二人して漫画を読み耽ったっけ。私が大好きだったのは、バスケの漫画。あまりにもその漫画の影響を強く受け過ぎて、選択体育の授業の時にわざわざバスケを選んだの。でも、真人も知っての通り運動音痴の私は試合はおろかドリブルすらうまく出来ずにずっとベンチだったなぁ。せめて、一度でもコートを走ってみたかったけど今からじゃ遅いかな。
そういえば、私があげたペンダントトップの事を真人がそんなに大事に思ってくれていたなんてちょっと意外でした。誕生日にあげた時、「男はペンダントなんてしないから」ってそっぽを向かれたのがショックで私が下を向いていると、慌てて「でも、弥生がくれたのはしてもいいかもしれない。デザインもカッコいいし」と言ってくれたけど、くれるならもっと別のものをくれれば良かったなっていう雰囲気だったから。でも今から思えば誕生石の入った十字架のペンダントトップなんて、ちょっと少女趣味過ぎたよね? そこまで大きくはなかったけれど、無事に清流でそれを拾い上げることが出来て良かった。昔のこととはいえ、プレゼントをそんなに大切にしてくれていてくれたことが素直に嬉しい。
でも、本当にそれだけ?
前回、真人が送ってくれた手紙には恭一君が沢に飛び込んで助けてくれた、達也君が消防に電話を掛けてくれたって書いてあったけど、私の家に二人が来た時は二人ともずぶ濡れだった。恭一君は水泳が得意で県大会にも出場するくらいの実力だったから躊躇いなく真人を助けに沢に飛び込むことが出来たと思うけど、達也君はどうだったのかな? 私の知っている達也君はカナヅチで二十五メートルのプールもろくに泳げない子だった覚えがあって。どうして彼がずぶ濡れだったのか、もしかして他に何か理由があったりするんじゃないかって思うの。私の考えはおかしいかな?
追伸:親愛なる真人、って手紙の最初を始めてしまったけれどDear.よりもずっと恥ずかしいね。あまり親愛なるなんて言葉、使う機会なんてないものね。女性社員が欲しいって騒いでいるという指輪、私も知っているかな? ネットで調べたら出て来る? でも、そうすると値段がわかっちゃうか。可愛い星型のダイヤの指輪も素敵だけれど、私はどちらかというと女性社員達が沢山居るという真人が置かれている環境の方が気になります。真人が女の子たちを見て鼻の下を伸ばしていないか、今直ぐ押しかけてチェックしにいきたいところ。旅行も考えたんだけれど、今の時期はあんまりいい所がないんじゃないかな? いずれにせよ福岡と東京の距離は遠い!
弥生より
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