第21話 魔物討伐10
軍隊長の部屋を出て皆の緊張を解くためかマルク雑談を始める。
「なんか、大事になったな。まさか、新人の兵士とはいえザトム軍の兵士10人と模擬戦をさせられるとは。」
「そうね、でも実際私たちはゴーレムを倒したのだからきっと大丈夫よ。」
シエラのこの発言で3人の士気が上がった気がする。
まあ、俺にとってはこんな勝敗が分かり切っている試合に興味ないがな。
「一応作戦だが、魔物討伐の時と同じように俺とジュナが前線で戦ってノアとシエラには後衛で俺たちの援護をしてほしい。3人ともそれでいいか。」
「俺は、賛成だ。」
マルクの作戦は魔物相手だろうが人間相手だろうが剣士2人と魔術師2人のチームだと理想的なフォーメーションだ。
こういう作戦の立案も剣士学院のカリキュラムに入っているのだろうか。
「私も賛成」
シエラもこの作戦に賛成し、残りはジュナだけだが彼女は言葉を発さず首を縦に振った。
どうやらジュナも賛成らしい。
一通りの作戦会議を終え訓練場に行くとすでにガビル隊の兵士10人が待機していた。
見たところ魔術師4人、剣士6人の編成だ。
「おせーぞ前ら」
俺たちが到着するや否やガビルが怒声を発した。
まだ、指定された時間まで5分ほどあるというのに。
「「申し訳ありません」」
少し理不尽な気もするがそれでもマルクとジュナは頭を下げて謝罪した。
これが騎士道精神というものなのか。
この光景を見て自分が魔術師で本当に良かったと思ってしまった。
「お前ら準備は出来てるか」
俺たちが到着して数分後、堂々とした面持ちで軍隊長と副隊長がやってきた。
副隊長の指示のもとガビル隊の兵士と俺たちは適度の距離を取り試合開始の合図を待つ。
「これより、お互いの主張を掛けた模擬戦を行う。どちらかが戦闘不能または降参の宣言により試合の決着とする。それでは初め!!」
副隊長が開始の合図を出した途端ガビル隊の剣士6人は早速こちらに詰めてきた。
「アースウォール」
マルクとジュナでも6人相手はさすがに分が悪いと判断しとりあえず土壁アースウォールで2体2の構図が出来るように相手を分断した。
もちろん詠唱をしたが本当に詠唱というのは非効率だな。
そんな思考を一旦やめ戦闘に集中する。
マルクとジュナが2人の剣士を相手している間に俺とシエラは残った4人の剣士と4人の魔術師4の足止めをする。
ここで重要なのは足止めだけということだ。
もちろん俺が本気を出せば全員倒すことは出来るが俺がシエラより少しだけ弱い魔術師だと仮定すれば新人とはいえザトム軍の兵士をシエラと協力して計8人も倒すのは不可能だろう。
だが、足止めだけなら可能だ。
「シエラは後方にいる魔術師の相手をしておいてくれ」
「了解」
俺がシエラに指示を出すと短いながらも返事が返ってきた。
一人も倒さないのはさすがに良くないと思い一人相手の剣士を倒しておくことにする。
「ウォーターボール」
俺が放った水球ウォーターボールはこちらに突っ込んできた剣士に命中した。
「やべ、少し威力が強すぎたか」
俺の攻撃を食らった剣士は一撃で気を失ってしまった。
恐る恐る軍隊長の方を見てみると俺のことを凝視している。
仕事はしたしここからは足止めだけに徹しよう。
俺の実力がバレないためにも。
マルクとジュナの方を見てみるとすでに戦闘は終わったようでザトム軍の剣士2人が倒れこんでいる。
流石、剣士学院の1位2位といったところか。
シエラも魔術師を2人倒したようだ。
これで4対5か。
「おい、あれを使え!!」
今までの戦闘を無言で見ていたガビルは負ける可能性が脳裏をよぎったのか、魔術師に何かしらの指示を出した。
この指示を受けて残った2人の魔術師が小さい声量で詠唱をはじめ詠唱が終わると手の平から凄まじい速度で水の刃が飛び出した。
その刃をジュナとマルクは認識することが出来なかったのか防御態勢をとっていない。
まずいな、当たると致命傷になりかねない。
ここでマルクたちが戦闘不能になったら敗北が濃厚になってしまう。
ここは多少実力がバレてしまってもマルクとジュナに防御魔法を掛けるべきか。
俺が思考している間にシエラが2人に防御魔法を掛けた。
幸いにも相手の魔法は無防備な状態で当たると致命傷になる威力だが、速度に重きを置いているだけあって攻撃力が余り無く、シエラの防御魔法で防ぐことが出来た。
「シエラ、よく今の魔法を認識できたな」
「まあね、昨日ノアが教えてくれた“目で追うのではなく魔力で見る”を実践しただけだけどね」
驚いた、昨日教えたことを今日出来るようになるとは。
これが才能の塊というものなのか。
俺だけではなくこの場にいる全員が驚いている。
「マルク、ジュナ相手の攻撃は私たちが何とかするからあなた達は思う存分やっちゃいなさい。」
シエラは分かりやすいくらい調子に乗っている。
これは格上との対戦では致命傷になりかねないと判断し、後で注意することにする。
「そこまで!!」
副隊長の合図で試合が終了した。
もちろん結果は語るまでもなく俺たち学生組の圧勝だ。
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