真昼の太陽と夜の月

織風 羊

第1話 旅の宿



宿と言えども

其処には愛想の良い女将がいる訳でもなく

仏頂面の料理人がいる訳でもない


屋根も壁も布張りの一軒家は

銀色のポールに支えられ

風に飛ばされぬようにと

ペグに縛られたロープで繋がれている


夏の暖炉は屋外で

小さな炎をちらちらと

小さな囲炉裏で

冷めてしまったホットワインを

アルペンカップで温めている


夕食はたっぷりとチーズを乗せたフランスパン

串刺しにすれば焚き火の中へ


すぐに出来上がるのだが

そこは我慢をして小さな炎でゆっくりと

その間に昼間に燻じておいた赤身のブロック

濃口醤油に薄口醤油

大蒜と土生姜

バジルにパセリとターメリック、セージを加えて

ローズマリーやタイムも足してみましょうか

たっぷり二日間付け置きしたお肉


パンが焼ければ我慢できずに

フラスコから直接飲むシングルモルト

最高の夜に天は喜びを讃え

炎の中で踊り出す火の神の子供達

天に昇る白い煙を見上げれば

いつの間にか降り出した

優しい雨が頬に当たり


遠雷届く晩夏のメッセージに

その熱い心を冷やせと

せせらぎの音が聞こえるのは

深い渓谷の妖精の宿

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る