異世界俳人ビキニ鎧ちゃん俳句紀行(夏) ー奥の細いひもー

ひぐらし ちまよったか

第1話

 経験を蓄積し、考え、成長してゆく『自律思考型生成AI』が、与えられた課題のクリアを目指し、様々な冒険をこなして行く。

 その過程を事、こそが『はじめてのおせかい』の醍醐味だ。


 ユーザー・プレイヤーは、自分の生み出した『アバター』が次々と組み立てるタスクの出来栄えに感心し、目標へ向かって探求する旅路を追いかけては心を躍らせる。

 失敗すれば共に落胆し、再起の決断へは心から拍手を贈り、晴れて成功を見届けたあかつきには、惜しむ事無く褒め讃え感動するのだ。


 ゲーム中キャラクターへの手出しは無粋。

 コチラからの干渉はいっさい御法度とし、ただ見守るだけという『しばり』の覚悟を、おのれに科す。


 ――それだと、いうのに……嗚呼、だというのに、それなのに。


「ぽ、ぽ、ぽ……」


(――チートな介入方法を、手に入れてしまった……)


「ぽ、ぽ、ぽ……」


 空を飛ぶ際に「ぽっぽ」と鳴けてしまうのは、の悲しい習性さがらしい。

「ぽ……」


(だが、しかし! せっかく手にしただ……活用してやる……ビキニヒロインのために!)


 ――愛に魂を売った。




 ゲームの根幹を揺るがし兼ねない、新装備まんちゅう(らんちゅう・人面魚Ver.)

 プレイヤー・コントロールが可能なキャラクターだ。


 今までならビキニがコチラを振り返り、質問状態に成らない限り、視点の移動は許されなかった。

 普段のゲーム画面に有っても視界は彼女の背後、三人称視点サードパーソンで固定され、せいぜいズームの拡大・縮小が可能な程度だ。


 しかし、キーボード操作とマウスの移動でまんちゅうを操れば、自由にあちこち見て回れる。今後の冒険に及ぼす影響は大きい。



 アバターが質問状態以外でも、スマホを通して会話を成立させるアイテム『はちがね・ドットコム』が届いた時も驚いたが、後になり、これは公式みずから追加した『お高い課金アイテム』だと知った。

 だが今回のこの機能、ホームページの予告にすら登場しない。


(それはそうだろう。さすがに此処までやらかすと、ゲームの楽しみ方だって、きっと変な方向に……)


 紳士的にアウト! な、よからぬ考えがぎったところで、やはり悪い事は思っちゃいけない。

 ビキニとキャプテンが、仲良く露天風呂へ向かう算段を始めたようだ。


「ビキニちゃん、ボク、新しいシャンプー買ったんだ! 試してみる?」

「わぁっ! たのしみです!」


 ――そうだよ、どうせ『へたれ』らしい俺には最初はじめから、とぼけて付き添って行ったりなど出来る筈がないよ。


 しっかりマウント機能を、OFFにした。


 俺の顔によく似た『人面魚・んちゅう』が、いつもの可愛い『ノーマル・んちゅう』に姿を変える。

 桶を小脇に用意しながら、はしゃぐ二人の背中と、ビキニの髪に潜り込むノーマルらんちゅうを確認した。これでよし。コンビニへ逃げよう。


「あれ? らんちゅう、ときどき可愛い顔に戻るね?」

 素直なキャプテン。

「? この子はいつも可愛いですよ?」

 ちょっとズレてるビキニ。

「マスターどうかしました?」

「あ、あ~ぁぁ……タバコが切れたぁ……買ってくるよ」

「はい。気を付けてください、マスター」


(こんな姿をK博士に見られたら、またひとモンチャクが有りそうだ……)



 〇 〇 〇



(――これは俺の持っているソフトが、正規のモノでは無い、という事だろうか?)


 小学生が描いた『愛鳥週間』のポスターが微笑ましい公園わきに、昔から店を構える街中華が見えてきた。


(正月にミスター・エムケイが、わが家のソフトは『アルファ版』だと言っていたっけ……)


 開発会社によって扱いに多少の違いは有る様だが、おおむねアルファ版は評価用。社外へ流出する事はない。

 続くベータ版が、バグを取り除いた製品前バージョンで、限定テストプレイをしてもらい修正をかけながら、さらに一般公開する場合も有るという。


(家庭欄担当のT女史が、確かオープン・ベータからのベテランプレイヤーだったはず)


 彼女のアバター『オバマ君』は、編集長の改名に合わせ『サナダ君』と、その名前を変えた。

 やはり編集長から命名していたらしい。

 T女史め、いったいどんな裏技で改名したのか、こんど是非、教えてもらおう。

 いつまでも『ビキニよろい』のままじゃ、いくらなんでも、かわいそ過ぎる。


(アルファ版か……まんちゅうは、バグ? って事なのかな……)



 ――街中華の正面に、どでかいマセラティが、道を半ば塞ぎ横付けされていた。


(どこのヤクザだ? じゃまだなァ……)


 と思って、通り過ぎようとしたら、助手席スモークが下り、見知った口ひげが顔を出した。


「――ヤッパリ逃げて来たか、このへたれ巨乳信者め! ここは是非おごってもらうからな!」


「け、K博士っ!?」


「――ひさしぶりですね? マスターさん」

 運転席から金髪長身が降り立ち、磨き上げた漆黒のルーフに肘を乗せる。


「ここは私が持ちますよ、ドクター。どうせたばこ銭ぐらいしか持って来てないでしょう?」

「おうっ、それもそうだ! 日本男児がすべて、このヘタレと同じと思わんでくれよ、ミスター」


「……み……ミスター・エムケイ……」


 とんでもない組み合わせの電撃訪問だった。


 ヤクザに絡まれる方が、まだ自然な流れだろう。


「……さ……Gyo-Zaを、食べましょう……」



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 夏の俳句。


『なが、みじか 香りそろえて 洗い髪』 ビキニ。


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