第5話 挨拶回りで、想定外
しばらくエマに見惚れて立ち止まってしまっていた。
ここで俺が変な奴だと思われて嫌われてしまってはことだな。
まず最初に挨拶へ行くのはセイレーン公爵令嬢である。同じ公爵だから最初にいかないといけないらしい。他の令嬢へ先に行った場合、その令嬢より下に見ているということになってしまうんだとか。それはそうかと納得したが。
遠くから見ても異彩を放って煌びやかな令嬢がいる。顔を確認するとその人こそセイレーン公爵令嬢である。ゲームで見るのと実際に見るのとでは雲泥の差である。本物は美しく肌もきれいでスラッとした鼻筋。少し冷徹に見えるところもいい。
そのセイレーン公爵令嬢に近づいていき一礼する。
「ごきげんよう。セイレーン・マルドフ様、お初にお目にかかります。私が昨年次期当主となりました、オルト・ダークネスと申します。以後お見知りおきを」
「ごきげんよう。あなたがオルト様ね。お初にお目にかかりますわ。エルト様より男らしいですわね。最初の噂ではオルト様も同じように細くて背の高い方と聞いておりましたから」
そりゃそうだろう。どうせモヤシ野郎みたいな噂だったんだろう。一応牽制としていい印象を与えることができてよかったかもしれない。今回の攻略対象ではないが、いい印象にしておいて損はないだろう。
脳内データでは
セイレーン・マルドフ公爵令嬢(難易度:A)
(肩まである銀髪の髪。大きな切れ長の目で綺麗系の美人でスラッとしてモデル体型)
レベル80くらい無いと男として見て貰えない。
この令嬢は王子が好きで王族を狙っている。
実際にみると物凄くきれいな顔をしていて作り物のような感じさえする。
笑っているところも麗しく流石といった感じ。
ゲームではこの令嬢を落とすのが二番目に難しいのだ。なによりレベルを上げるのが難しいのだ。その点俺は一年前からレべリングをしているから最後の社交会までには到達できる見込みだ。だが、今回の攻略対象ではない。
セイレーン公爵令嬢に挨拶をするともう一人先に行かなければいけない人がいる。
アメニ侯爵令嬢である。実は自分より身分は低いので挨拶へ行かなくてもいいのだが、これから声をかけに行く推しの都合で先に行っておいた方がいい。
アメニ・ルンドール侯爵令嬢(難易度:B)
(オレンジの髪を胸の辺りまである髪をハーフアップにしている。大きなクリっとした目で喜怒哀楽が激しい。破天荒。ボンキュッボン)
レベル60くらいないと落とせない。
強い人と、言うこと聞いてくれる人が好き。
この令嬢は可愛らしいうえに感情豊かで、ドタ恋をプレイした者たちみんなが一度は恋に落ちるのではないだろうか。とにかく可愛らしいのだ。そしてスタイルもいい。これもドタ恋ファンにはたまらなかった。この子のフィギアなんぞ十万単位で取引されているものもあったくらいだ。
令嬢の間でも人気者のようで、周りには令嬢、令息が集まっている。
その中に突入するのはちょっと勇気がいるがそんなことを言っている場合ではない。攻略するためには必要なんだと言い聞かせて突入する。
「ごきげんよう。アメニ・ルンドール様。お初にお目にかかります。私が昨年次期当主となりました、オルト・ダークネスと申します。以後お見知りおきを」
「ごきげんよう! あなたが噂のオルト様ですね?」
「おや? お噂というのはどういったものなんですか? いやはや恥ずかしいですね」
「ふふふっ。悪い噂ではありませんよ。スラッとしていて筋肉質。そしてお強い。昨年の闘技大会ですが、私も観戦に行ってましたの。とってもお強くてすごかったですわ!」
両手を胸の前で合わせて可愛らしい笑顔で飛び跳ねる。そのたわわに実って揺れているものに視線を奪われそうになりながらも平静を装って答える。
精神の削られる対話であった。これで目線が胸にいってしまっては機嫌を損なわれる恐れもある。慎重に行動しなければ。一人の令嬢に嫌われれば連鎖して嫌われるということがある。
それは俺が依然ゲームでやった失敗なのだ。一人を無下に扱ってしまったら、次の社交会で半分の令嬢に口を聞いてもらえない事態になったのだ。
「はははっ。そんな噂は嬉しいですね。しかし、お恥ずかしい。あの時は兄の失態もありましたので」
「あぁ! あれは大変でしたわね! でも、あれがあったから、ダークネス家はオルト様がいいんだという風に他の家の者も思ったんですわよ?」
それは思ってもみない効果だったな。初めて会うのに他の家の者たちから好意的な印象の視線が多かったのはそういうことか。あれはとっさの判断だったが、いいように進んだみたいでよかったな。
「それはよかったです。では」
俺がそそくさとそこから離れようとすると引き留められた。
「ちょっとお待ちくださいよぉ。もっとお話ししましょう? それとも、最初の社交会なのに、もうお目当てのご令嬢でもいるんですかぁ?」
これは参った。こんな展開ゲームではなかった。まさかここにきてアメニに足止めを食らうとは。まだエマへ挨拶に行っていない状況でこれはまずいな。どうしたものか。
「それが、私は初めて会う方が多いもので、皆様へ挨拶に行こうと考えておりました」
「それは引き留めてはいけませんね。では、次回にはたくさんおはなししましょう?」
「それは嬉しいですな。ぜひに」
そそくさとその場を後にする。
ヤバい。計算違いが起きた。こんなにアメニに好かれるはずがないんだ。レベルが足りてないんだから。
なぜなのかと理由を考えていると。
あれか。闘技大会で実力があるのを見せてしまったからか。
強い人好きだもんなぁ。
まぁ。まだどうにかなる。さぁ。エマに行こう。
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