第4話 空っぽの村

 野営を片付けて村へ行くと、深夜かというほど静けさで包まれていた。誰もいない廃墟のような、変な話だが森の方が音がしていた。

「みんな夜は早くに寝るのさ」

 ギルバートはそう言って我が物顔で村の奥へ進んだ。パリスは大人しく後ろを着いて行ったが、村のどこを見ても人の気配がしない違和感に胸がざわついていた。

「この部屋は自由に使っていいから。今夜は家主もいないから好き放題だ」

「家主の人に、挨拶したいんだけど……いつ帰ってくる?」

「さあ……聞いてないな」

 ギルバートはそこで思い出したように、異空間のストックから新品の短剣と未使用の籠手を取り出してベッドに放り投げた。

「村に行く前に言われてた武器、仕入れたぜ」

 いつものこと。武器商人として優秀なことなのに、今のパリスはそれになぜか違和感を覚えた。

「じゃ、俺は人を待たせてるから」

「ああ……おやすみ」

 ギルバートが部屋を出て行ったのを確認し、パリスはベッドの短剣と籠手に触れずに家中を探索した。


 家主の寝室は荒らされた形跡はない。ベッドは乱れているが、暴漢に襲われたとかいうわけではないようだ。

 居間には違和感を覚えた。ギルバートが使ったままというならそれまでだが、カップや食事後の皿がテーブルにそのまま残されている。三人分だ。

 あまりにも村としてはおかしい。ギルバートに改めて問うために村中の家を確認して回ったパリスは困惑した。

 人っ子一人いないのだ。

 どの家の中も争った形跡はなく、むしろ先程まで人がいた痕跡はあるのだ。昼食後の後片付けをしないままの状態。庭に回ったら洗濯したシーツや服が干されたままなのだ。

 当たり前だ。昼には平和な煙が上がっていたのをパリスは森から確認したのだから。

 ならばその後に村に何かが襲撃したのか。それならば森に逃げ込む人と会うはず。それ以前に襲撃されたならここまで村が無事なはずもない。

 日常から人だけ切り取ったかのような、得体の知れない、違和感しかない光景にパリスは生唾を飲み込んだ。嫌な汗が頬をつたう。


「ダメだよ、夜はベッドで寝ないと」


 刹那、パリスの周りに香水のように甘い香りの霧状の水が撒かれた。睡眠ミストだ。パリスは遠のく意識の中で犯人はどこかと周りを見まわしたが、それは叶わなかった。

 次にパリスが目を覚ましたのはベッドの上だった。

 薄いカーテンの隙間から朝日がパリスの顔に当たる。ぼんやりした頭のまま体を起こしたパリスは、昨晩のことを思い出して勢いよくベッドから出た。


 外に出たパリスの目の前には、パンくずを撒いて鳥に餌付けしているギルバートしかいなかった。

 村の朝なのに、鳥の鳴き声しかしなかった。

「起きた? じゃあご飯食べたら行こっか」

 まるで最初からこうだったと言わんばかりのギルバートの笑顔に、パリスは言葉が出なかった。

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