第12話 人間と魔族が手を取り合う世界
「綺麗なまでに干上がっているな……」
「カッピカピですねぇ……」
翌朝私はゼノンに連れられて再び町へ降り立った。
あぁ、朝日がまぶしい。
今のうちにしっかりと光合成しておかなきゃ。
「このように、水不足ですっかり干上がってしまって……。もう、作物も育たないんです」
そうだろう。
これだけ干上がっていたら土もダメになっているだろうし、土壌改革からするしか……。
ん?
土壌改革?
「!! まさかゼノン……!!」
その考えに思い至った私に、ゼノンは無言で首を縦に振った。
「シャイリー!! ゴルゴラ―ド!!」
「ぷしゅぅ~~~~~」
「きゅる~~~っ」
ゼノンの呼ぶ声に応えるように声を上げながら私たちの目の前に現れたのは、巨大な蛇のような下半身をした魔物と、中型で土色をしたドラゴン。
水魔のシャイリーと、土竜のゴルゴラ―ドだ。
「おぉ……」
「これは……」
「すごーい大きいー!!」
「カッコいい―!!」
驚きに声を上げる町の大人たちと、目を輝かせて二体を見上げる子供たち。
「ゴルゴラ―ド!! ここら一体の土の浄化を。シャイリーは土壌に水分を与えてやってくれ」
「ぷしゅぷしゅ~~~」
「きゅる~~~」
ゼノンの指示に二体は返事をすると、ゴルゴラ―ドは土の中へもぐり、シャイリーは空へと飛びあがった。
ごぼごぼごぼごぼ……。
大地がうねるようにして盛り上がり、同時にシャイリーが宙から降らせる水によって湿り気を帯びていく。
カピカピとした砂漠色の大地は、みるみるうちに湿った濃い土色の大地へと変化していった。
「すごい……」
「これなら作物が実るかもしれない……!!」
「あとは作物ができるまでの税をどうするかだ……」
期待の声が大きくなる中、それでも不安は無くならないのが現実だ。
だって今土壌が良くなったところですぐに作物ができるわけではない。
これから苗を植えて、育てなければならないのだ。
「ふむ……。それもそうだな。ゴルゴラ―ド!!」
「ぷしゅ~~~~~」
ゴルゴラ―ドが声を上げると同時に、なんと回復した土地から緑色の芽がグンと生えて、それがにょきにょきとすごいスピードで成長を始めてしまった。
「ふぁ……ファンタジーだわ……」
いや、魔界がある時点でファンタジーなんだけれども……。
あっという間に出来上がったのは小麦。
黄金色に輝くそれは、今まさに収穫できますよと言わんばかりだ。
「ひとまずこれで数か月分の税は問題ないだろう。この収穫の後からは、自分たちで植えて育てることだ。だが、まだ日照りが続くようなら同じことの繰り返しだ。当面、シャイリーは土地に水をやってくれ。ゴルゴラ―ドも、時々土壌の浄化を頼みたい」
「ぷしゅ~~~」
「きゅるきゅる」
二体は了承の意を示すと、しゅるしゅると黒い霧に紛れて消えた。
「す、すごい……」
「これで生きていける……!!」
「魔王様、ありがとうございます!!」
「魔王様万歳!!」
唖然としてその光景を見ていた町の人々が口々に歓声を上げる。
「どれだけ感謝を述べたらいいのか……。本当に、ありがとうございます!!」
「私たち人間にできることはわずかですが、何か、私達に力になれることがありましたら、おっしゃってくださいね」
「これからは隣人として、魔界の皆さんと共に生きていきたいと思います……!!」
人間と魔族が歩み寄る、そんなきっかけになる出来事だった。
***
それからというもの、町はすっかり明るくなった。
シャイリーたちをはじめとした魔物と町の人は交流を重ね、すっかりと打ち解けたし、町の人は畑仕事を手伝ったりする魔物にご飯を差し入れてくれたり、フェンリルの子ども達は町の子ども達とよく遊んだりして平和に暮らしている。
それを知った周辺の町からも魔物の手を借りたいという依頼が来て、魔物の出張もしている。
たくさんの地域で魔物との共存の輪が広がっていく。
もしもこのまま魔族は怖くないのだということが広まれば、人間と魔族が手を取り合って生きていける世界になるかもしれない。
そんな淡い期待を、この時は抱いていた。
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