第7話 メルデの村で3

なんだかんだでここで暮らし、5日が経った。未だにウォルノーツへ行く道はわからずじまい。こっそり村を出れば良かったのだろうか、などと考えてしまう。5日も暮らしてしまうと情も移り始めてしまうし、人間関係も出来てくる。小さい村だからそういうものかもしれない。


そうして新しく出来た人間関係が、今草むらに座ってだべっている女の子達である。


「テアちゃんて髪綺麗だよね。どうやって洗っているの?」

「うん、お米の研ぎ汁だよ?」


村の女の子が私の髪を触りながら聞いてくる。お米の研ぎ汁は世界最古の洗髪料とも言われている。そして驚くことにこの村では田んぼがあり、稲を育てているのだ。つまりお米がある。


「え、あれって髪の毛洗うのに使えるんだ」


村の女の子達とも仲良くなり、ジルとも話すがやはり村の女の子と話すことの方が多い。でもみんなウォルノーツの場所は知らないんだよね。村の人はあまり外に出ないから、知っている人は限られているようだ。


「うん、使えるよ。研ぎ汁は2番のものを薄めて使うの。お顔も洗えるし、大根も洗えるし、お掃除にも使えるんだよ」


牧田莉緒は一人暮らししててもお金なかったからね。だから研ぎ汁すらもしっかり再利用していた。あれは放置して沈殿物を作れば、パックだってできてしまうのだ。研ぎ汁最強!


「えー、知らなかったよ。いつも捨ててた。だからテアちゃん綺麗なんだね」

「テアちゃんの場合元がいいから。ジルの奴絶対テアちゃんにほの字だよね」

「えー、まさかぁ」


うーん、悪いけどジルは趣味じゃない。それに私にはレオン様という絶対的な推しがいるのだ。悪いけどこれは私のこの世界における命題なのよね。


「これは脈ナシね。ジル憐れ」

「きゃははははっ」


私の態度に脈ナシに気づき、それをネタに笑う私たち。いつの時代でも女の子の話のメインは恋バナなのだろうか。私にはレオン様を語り合える友人はいなかったからなー。


「おーい、テアー」


だべっていたらジル達がやってきた。女の子が集まっている所に男子が来るのは珍しくない。少なくともこの村ではそうだ。


「なに、ジル。みんなを引き連れて」

「いや、昼飯手伝って欲しいそうだから呼びに来たんだが」

「あ、そうなんだ。ありがと。じゃ、みんなまた後でね」

「うん、また後でねー」


みんなに手を振りジルと一緒に家へ向かって走る。途中畑仕事をしている村人たちに手を振り、挨拶をしながら戻った。


「ただいまー。手洗って来るね」

「ありがとねー。ジルはその辺で休んでなー」


家に戻り、入り口から声をかける。小さい家なのでここからでも容易に声がとどく。手を洗う水はかめ壷に入っており、柄杓ですくってぱしゃぱしゃ洗うのだ。石鹸とかは高級品なのでこの村にはない。


「マエルさん、手伝います」

「ありがとね。んじゃトマトスープ作っておくれよ」

「はい」


トマトスープといっても作り方は簡単だ。砂糖など調味料の類は少ないため、ほとんど素材の味まんまだからね。油は一応あるが、あまり料理には使わない。夜の貴重な燃料だからだ。


なのでまず熟れたトマトを煮詰め、味を濃く。玉ねぎをアッセ(みじん切り)にして入れて甘味を出す。トマトは熟れているので角があまり立っていないから砂糖は不要。ワインはないのでエールで代用。香りがあるけどトマトスープだからいいのだ。家に飲む人いないし。トマトを煮詰めて味を濃くしたので塩がなくても十分な濃さがある。


肉は野うさぎのお肉。少しだけだが無いより断然いい。こうして野うさぎと玉ねぎと人参のトマトスープが完成した。後はパンと生野菜だ。果物もリンゴが少しある。後はこれらをテーブルに並べ、昼食の準備が完了した。


「「「いただきまーす」」」


3人でテーブルを囲み、手を合わせる。日本人が作ったゲーム世界だからか、普通にいただきます、と手を合わせる習慣があったのは驚いたけどね。


「うんまっ」

「うん、玉ねぎと人参の甘味は偉大よね」


さすが無農薬野菜、甘さが違う。ブロッコリーの芯だって生で食べられるんだよね。これならドレッシングとかいらないや。


「テアちゃん料理上手だねぇ。若いのに感心だよ」


マエルさんが楽しそうに私を褒める。ここに来て離れにくくなってる要因の1つに、こうした家族の団欒がある。牧田莉緒のとき、それは10歳を過ぎてから無くしたものの一つだからだ。


楽しい。人と囲む食事がこんなに楽しいものだったことをずっと忘れていた。それを呼び起こされたせいで離れるのが惜しくなってる自分がいる。


「そうだよな、オマケに物知りだし」

「そうだねぇ、可愛いし。今じゃ村1番の美人さんなんて言われてるんだよ?」

「そんな、私なんて」


それは持ち上げ過ぎでしょ。さすがに照れる。


「これなら何時でもお嫁に来ても大丈夫だねぇ」

「ごふっ!!」


ゲホゲホ……。

むせちゃったよ……。


「もう、マエルさん変なこと言わないでください。後そこ、あんたまで照れないの」

「ジル……、強く生きるんだよ?」


私の態度に照れがないせいか脈ナシなのがバレたようだ。ジルのことは別に嫌いじゃない。ただ私にはレオン様という推しがいるし、何より精神年齢的な問題がある。


もし、私がテアのままだったら彼のことを好きになったのだろうか。ずっとここにいる選択をしたのだろうか……?

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