【生放送】二面相少女と恋してみた

クラプト(Corrupt)/松浜神ヰ/ハ

第1話

「今回の2027年夏季チーム大会の優勝も…【ケルベロス】率いる<チーム獄炎>!!これで3期連続優勝だー!!」


『バレットオブメシア』、通称バレメ。2026年にPCと接続して使う専用ゲーム機『バレットギア』のFPSのゲームソフトとして発売されて以降、全世界で1700万本の売り上げを記録し、今では賞金が用意されて3か月に1回チーム制のトーナメント大会が行われるほどになっていた。

【ケルベロス】の二つ名を持つプレイヤー狂犬は、最強のトッププレイヤーにして、動画配信サイト『リューチューブ』の人気配信者。

彼は、とある目的の為にこのゲームを極めたが、それはまた別の話である。



狗巻宗三いぬまきしゅうぞうは暗い部屋の中、ブルーライトを燦々と放射する画面の前で大あくびをしていた。

時間は午前1時17分。次の日、いや、今日も学校があるにも関わらず夜中までゲームをやっている。

プレイヤー名は【狂犬】。配信者としての人気も上々、ファンや他のプレイヤーからは【ケルベロス】と呼ばれているトッププレイヤー。

宗三は中学生であり、大会で優勝しても親がお金を受け取ることを許してくれないからチームメンバーに賞金を分け与えている。殆どの活躍したのは彼だが。


「はぁ…。やっぱあの人はすげぇ」


プロであるはずの宗三にも、憧れのプレイヤーがいた。そのプレイヤーの名は【魔法少女カルマ】、二つ名を【魔女】といった。

改良型の散弾銃を使うことで三方向に向けての連射を武器としている宗三とは正反対で、そのプレイヤーは魔法少女の名に違わないような華麗なプレイをし、宗三(ケルベロス)と同等の人気を得ている配信者だ。

宗三が詳細を明かさず、顔出しをしていないのと同じくして、【魔女】もその詳細を明らかにしていなかった。


宗三は2時間前に配信の終わった【魔女】の配信のアーカイブを少しだけ見て、それから寝た。



FPSゲーム『バレットオブメシア』で【魔女】と呼ばれる、魔法少女カルマというプレイヤー名でやっているその少女、狩島麻莉かるしままりは、目を輝かせてパソコンの画面を見ていた。

彼女の憧れは【ケルベロス】だった。3週間前に初めて見たあんれほどの激戦。あの激しい戦い方は自分には真似できないと思っている。


「多分、本気を出せばわたしよりも強いんだろうな…」


麻莉は、自分の声が嫌いだった。弱々しく聞こえるこの声が。

だから、麻莉はあまり普段は他人ひととはしゃべりたくない、宗三以外とは。

でも、ケルベロスのように配信がしてみたかった。

だから、配信の時は別人のようにテンションの高い人のフリをしている。

でも、案外それが楽しいと麻莉は思う。いつか、もしも宗三に自分が【魔法少女カルマ】だってバレたら一緒にやりたいと思う麻莉だった。


※作者に思うところがあったのでここから書きぶりが多少変わります。


「おはー、麻莉。昨日の【魔女】の配信見たか?やっぱあの人はすげぇや」

「そ、そっか。わたしはやっぱり配信者でいったら、【ケルベロス】さんが好きかな。プレイスタイルが凄いっていうのもあるんだけど、声とか考え方が宗三しゅうぞうそっくりだからかな、親しみやすいっていうか」

「へぇ、そんなに俺そっくりなら俺も見てみようかな。まあ、【魔女】に敵うような配信者じゃないだろうけどな」

「ぜっ、全然そんなことないよ。【ケルベロス】さんの方が凄いな、って思ってるし」


そんなことを話しながら、俺は学校に向かう。麻莉は俺と幼馴染で、俺とばっかり遊んだり話したりしてた所為か、俺以外の人間とは男女関係なくあまり話したがらない。

麻莉は、幼馴染とはいったがどちらかというと妹ポジションである。前に言ったら怒られたけど。

それにしても、麻莉が俺、【ケルベロス】を気に入って3週間。【ケルベロス】が俺にところどころ似ていると気づいていながら俺が【ケルベロス】その人であるとは気づいてくれないらしい。

まあ、もしも俺が【ケルベロス】だって知ったら俺の配信を見てくれなくなったりするかもしれない。ファンを1人でも逃さない為だ、カミングアウトはお預けにしよう。



宗三が【魔女】の話をするようになったのはもう1、2か月も前のこと。

宗三はわたし、【魔女】の方が【ケルベロス】さんよりも凄いってずっと言ってるけどそうは思わない。

わたしは、配信者として人気でバレメが上手くても、絶対にあの人のようにはなれない。

だから、【ケルベロス】さんを蔑むみたいな形でわたしを褒めないでほしい。配信じゃテンションが違いすぎて10年くらいの付き合いである宗三でも【魔女】がわたしだなんて気づけないのかもしれないけど。

わたしがあの【魔女】、魔法少女カルマだって知られたら、避けられたりするかも。けど、それだけはイヤだな。

言わないでおこう、わたしの正体。


こうして、2人の幼馴染にして同レベルのトッププレイヤー、人気配信者である少年と少女は、互いを称賛しながら互いに相手がその人であると知らず、そして明かさないのであった。

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