第10話ー2

「あぁ。旅をしてる。今ここに着いたばかりだ」

「やっぱり旅行者さんなんだね。港町ムルに来るのは行商人が多いんだけど、アンタたちは行商人に見えないからね。それでどこを観光予定なんだい?」

「とりあえず王都見物に行こうと思っている」


 フレンドリーなキツネの獣人は、王都と聞くと微妙な顔をしながら「今はやめた方が良いよ」と、声を小さくした。


「何かあったのか?」

「よく分からないんだけどね。王が斃れたとか何とかで、しかも王を継承したのが赤ん坊だって言う噂があるんだよ。それで色々ゴタついているらしいんだよ」


 リュカもキツネの獣人に合わせて声を小さくして内緒話をする。僕は話が気になって2人の間に立って聞く事にした。天音も定位置の僕の胸元で耳をピクピクさせて聞いている。離れると聞こえない程の声だからだ。


「赤ん坊が王と言うのは大丈夫なのか?」

「さぁね。あたいら一般人には分からないよ」

「では、他にオススメの街はないか?」

「ん〜……。そうだねぇ。ウルの街が良いよ! あそこは王都の次に大きな街だからね」

「ならウルの街に向かう事にするよ」

「馬車を使うと良い。この街の南で受け付けてるよ」

「ありがとう。行ってみる」


 キツネの獣人と手を振って別れる。その頃には太陽が森の木々を照らしだし明るくなっていた。けれどあまり暑さは感じない。やっぱり緑が多いのは良いね。ちなみに日の出は見れなかった。


「ウルの街かぁ! どんな所だろうね?」

「あぁ。楽しみだな」


 リュカも赤の大陸は初めてみたいで、馬車乗り場に向かいながら興味深そうに街を見回しながら歩いている。


 僕は、この世界を色々と見て回りたいから何でも興味津々だ。港町と言う事もあって土産屋があるんだけど、獣人のかっこいいポーズの木彫りや、犬や猫やウサギの可愛い木彫りが売っている。


「リュカ港町なのに、ここはあまり海産物は売ってないんだね」

「そのようだな。食べ物は山菜類が多いな」


 面白い事に、露店に並んでいるカゴの中にはキノコやフルーツ、あとは野菜ばかりだ。肉類は干し肉しか置いてないし、魚を売っている露店は数軒しか見かけなかった。だから魚を焼いて売っている店は一軒も無い。


「にゃー……」


 天音は残念そうだ。たぶん天音の中では、『港町=魚が食べられる!』って図式が浮かんでたんだと思う。




チリーン! チリーン! チリーン!


「ウルの街、行き出発するよ! 乗るヤツは早くおいでぇ〜!」


 鈴が鳴り、街中に響き渡る透き通る様な声が馬車の出発を告げる。


「急ごう!」

「うん!」


 走って行くと、鳥の獣人が馬車の屋根の上に乗って、両手を広げ声を張り上げていた。なるほど、鳥だから良い声をしてるし遠くまで言葉が届くんだ。なんか凄い。


「2人と1匹だか乗れるか?」

「大丈夫だ。3人合わせて銅貨50枚だ」

「よろしく頼む」

「よろしく」

「にゃん!」

「あぁ! よろしくな! 奥から座ってくれ」


 しっかりした木製の馬車に入ると、窓際に僕、膝に天音、隣にリュカが座って、他には猿の獣人の親子と犬が1匹、猫の獣人が1人とトカゲが1匹が乗り込んできた。


「じゃ! 出発するよ!」


 カッカッカッカッカッ! と、リズムの良い蹄の音を響かせて栗毛の馬が、たてがみをなびかせ馬車は走り出した。


 ガラガラガラガラガラガラ〜……と、車輪が回る音と、心地よい揺れ。


 外を見ると森しか見えないけど、窓が空いているので気持ちのいい風も入るし空気も綺麗だ。


「あなたたちも魔獣と契約しに行くのかしら?」


 目の前に座っている猿の獣人が話しかけてきた。そして契約という言葉に興味が湧く。


「契約?」

「ウルの街は魔獣契約の街なのよ。アタシの相棒はこの魔犬なの」

「可愛いね」


 猿の獣人は愛おしそうに相棒の魔犬を撫でる。体の色は灰色で、3本あるフワフワの長い尻尾が特徴的だ。


「ふふふ! ありがとう! それで今日は娘の魔獣契約に行くの」

「うん! あちしのアイボができるの〜! かっこいいトラがいいのぉ!」

「そうね! 望んだ子と相棒になれると良いわね!」

「うん!」


 隣に座る娘の希望が叶うように、と額にキスをして優しい手つきで頭を撫でている。


「契約って誰でも出来るの?」

「魔獣に気に入られれば、主の種族は関係無く出来るはずよ」

「そうなんだ! 何か凄いね!」

「せっかく来たのだから試してみるのも良いかもしれないわよ!」

「うん! でも僕には天音がいるから、それだけで充分だよ!」

「あら! そうなのね! なら大切にしてあげるのよ」

「もちろんだよ!」


 天音を抱きしめると、ペロペロと頬を舐めて尻尾を僕の腕に巻き付け、ゴロゴロと喉を鳴らす。


 やっぱりウチの子が1番可愛い!


 もう一つ気になってしまった事がある。獣人と魔獣がいるって事は……


「もしかして精霊とか妖精とかもいるの?」

「赤の大陸には居ないけれど、精霊も妖精も青の大陸にいると聞いた事があるわね」

「わぁ! やっぱりいるんだ!」

「あとエルフも沢山住んでいるそうよ」

「そうなんだね! 色々教えてくれてありがと!」

「旅行楽しんでね!」

「うん! お姉さんたちもね!」

「えぇ。ありがとう。こちらこそお話出来て楽しかったわ」


 青の大陸も行くって、リュカが言っていたから楽しみになってきた。精霊とか妖精って見てみたかったからさ。   


チリーン! チリーン! チリーン!


「ウルの街に着くよ〜! 降りる準備してくださいね〜!」


 窓から前方を見ると、森の合間に民家が見えはじめ、枝がアーチ状になった並木をくぐり抜けると馬車は緩やかに止まった。馬車を降りて猿の獣人親子と手を振って別れる。



「なんだか凄いね!」

「初めて見る建物だな」


 確かに普通の民家もあるんだけど、街に入ってすぐ一番に目にいくのは苔むした絶壁だと思う。たぶん9階建てマンションくらいの高さはある。しかもその絶壁を利用して、内部を掘って住居にしているようなのだ。窓もあるしドアまである。どんな感じの部屋になっているのか凄く気になってしまう。


 その集合住宅の様な絶壁の中央には、ひときわ大きな木製のドアがあり、上部に『魔獣契約研究所』と書かれた木札が打ちつけられている。


「ちょっと行って見ても良いかな?」


 相棒は天音だけだけど、どんな事を研究して、どんな魔獣がいるのかは気になってしまう。


「あぁ。オレも興味がある」

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