スマホ・ゲームとネット小説

ひとしずくの鯨

第1話 メガニケに幸あれ

 ネットで小説を書いていると、どうにも視野が狭くなっていけない。誰しもが、そもそもは自分の好きなものを書くのではないだろうか。ところが、隣の庭は良く見えるではないが、ついつい流行りものを追いたくなってくる。


 私は転生無しの歴史小説を書いていたので、以前、この問題で悩んだことがある。皆さんご存じの通り、紙の小説の世界では転生無しが主流であるが、ネット小説ではこれが逆転する。これについては、拙作『書いている方と読んでいる方のずれ』の第6話「転生・転移とはゲームへのログインの言い換えである」で論じたので、興味ある人は、そこをのぞいて欲しい。


 ところで、今回のお題は、ネット小説の中では悲劇は好まれないとされるが、それは本当かである。私自身は悲劇であるからといって読まないことはないし、もの悲しさを基調とした世界観というのは、むしろ好きである。なので、そうした小説が増えればいいなと想うところでもある。そして、少し目を転じれば――いや、その必要さえない――アプリを変えれば、もの悲しさに満ちた世界があった。

 


 

 時にケツ(尻の意味ね)・ゲーなどと評されるメガニケである。確かにお尻ふりふりではあるのだが。

 また、スマホでカクヨムを読むとき、広告で見かけることも多いと想う。一見、エロ・ゲーとも想えるそれに反して、決してそうではない。むしろ、もの悲しさに満ちている。

 ネット小説の中では悲劇は好まれないとされる。しかし、メガニケの売り上げを見るとき、果たして、そうなのか?とは想う。メガニケの売り上げにて、最も多くを占めるのは日本とされている。

 メガニケの特徴といえば、ストーリー部門の重視である。小説においては主となること必定であるが、ゲームの世界では1要素であるに過ぎないところは、ままあるところである。ストーリーはスキップね!が常識ではあるも、このゲームは違う。

 プレイヤーは指揮官であり、ニケを指揮する。ニケとは人間の脳を埋め込んだ戦闘機械である。そのもの悲しさがゲームの世界観を覆うのである。


 私たちはドラクエやFFをスタンダード(基準)として扱うが、メガニケは次代のそれとなることは、ほぼ確実である。

 このクオリティのゲームがこの後も続くかというと、やはり、それは難しいかなと想う。作り手側の疲弊というのは、どんな世界でもあるものであり、スマホ・ゲームでもそれに吞み込まれるのは避け難い状況であるとは想う。

 日本アニメの黄金期――映画ね――は、『イノセンス』、『アキラ』、往時のジブリ作品となろうが、それを再びといっても、それは1人や2人の努力では難しいどころか、才能ある人間が数十人かかっても無理である。

 時代の流れというものは確かにあり、その中で基準(スタンダード)となる作品は生まれるのである。つまり、少なからずの幸運は必要なのである。そして、おそらく、メガニケはその1つとなりうる。

 基本、男性向けではあるが、書き手においては、得るところが多いと想う。その作り込まれた世界観は、まさに範となりうるものである。また、ゲームの性質上、多くのキャラ(ニケ)が登場するのだが、巧みな設定がなされている。これもまた小説書きの参考になるのではないか。


 追記:我々は異性に幻想を抱く。男は女に。女は男に。ただ、そうではないとの現実を突きつけてもつまらない。おそらく、そんなことは中学生でさえ知っているのだ。異性がそれに値する存在ではないことは。

 他方で、幻想に上塗りをというのが、創作の世界である。ニケは女であって、女ではない。本ゲームは、そこのところもちゃんとおさえている。さあ、あなたも想像の翼をはためかせてみては。


 追記2:メガニケは好セールスを記録している。しかし、最初から順風満帆であった訳ではない。初期には、恐らくは、想定よりアクセス数が多かったせいで、アップデート後にログインできないという問題もあった。また、いわゆるレベル160問題もあったが、これは運営側がかなり譲歩して、現在に至っている。

 他方で、幸運もあった。PVP(対人)の取り扱いである。そもそも、対人を売りにする格闘ゲームであれば別だが、実際のところ、スマホ・ゲームをやっている人の中で、PVPが嫌いという人は多い。現実世界で人と争っているうえに、ゲームの中でそんなのごめんだよ、という訳である。

 ただ、作り手側でこれを妙に重視する場合もある。(妙にというのは妥当な表現では無いかもしれない。PVPに熱をあげる人たちの少なからずは、廃課金勢だからである)ここに乖離が生じる訳であるが、メガニケの場合、PVP(対人)は重視して来なかった。最初のグループ分けのまま、かなり長い時間、そのままであった。これだと少数の同じ人としか対戦しない。変更がなされたのは最近である。ただ、基本、オートであり(つまり、プレイヤーはキャラを選ぶ以外、何もできない)、グラフィックは他のコンテンツと比べると、随分と簡略化されたものである。そこに作り手側の熱を見だすことは、正直難しい。

 結果、おめでとうである。ここら辺は計算ずくというより、ユーザーの嗜好と作り手側のそれが、たまたま合ったのだろうとは想う。でも、どんな成功にも運は必要だからね。


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