第79話 脱出ポットわ
人類の星系とは100光年以上隔てた虚空に、偵察艦が残骸と戦火の記録を抱えてダレン司令官の元へと報告を送った。四時間の静寂の後、耳をつんざくような詳細報告が彼の耳に響いた。
「脱出ポッドには生存者が…」
通信士の声が艦隊内の不安定な空気を切り裂いた。
「…艦は破壊され、既に丸一日宇宙の荒波をさまよっています。断言しますが、彼らは地球人です。」
生存者たちとのやり取りは、酸素消費のリスクを減じるために最低限に抑えられていた。
だが伝えられたわずかな情報は詳細で、本星から300艦近くが敵本拠地への突撃を敢行しようと進軍していた。
その際、この星系で予期せぬ待ち伏せか遭遇戦になり、甚大な損害を被った様だ。
まるで悪夢の一幕であったと。
連絡を取れた脱出ポットの最先任士官は大尉で、脱出の瞬間以降の詳しい戦況は誰も知らず、100艦ほどが大破又は航行不能に陥り、乗艦が大破するまでの情報しかなかった。
そして最後に確認されたのは味方の艦隊がジャンプアウトして敵も姿を消したことだけだった。
タイムラグの中で、勝敗の天秤は静かに傾き始めている。 ダレン司令官は、微かに唇を噛み、即座に全艦会議を召集した。広大な星系を背景に、緊急の島影の円棒状のホログラムが一つ一つの艦橋に映し出された。その結像を通じて、彼は重大な決断を全艦隊に告げた。
「我々の艦隊は二つに分かれて行動する。戦闘力を落とした艦と輸送艦一隻を除く艦はこの星系に残り、それ以外の艦は友軍の援護に向かう。この星系に残る艦は救助活動に専念してもらう。修復が可能な艦は重力ドライブとジャンプシステムの再起動を最優先せよ。そしてわずかな希望をこの荒廃した星系に繋ぐため、救助をした者達は輸送艦に移ってもらう。その後連絡艦を行き来させ、本隊に合流してもらう」
ダレンの決断は斬新であり、そして無情な現実を突きつけるものだった。
先日コールドスリープから目覚めさせたたばかりの先輩を指揮官とし,救助活動の指揮という厄介事を押し付ける形となってしまった。
過酷な戦場において、この戦術的運動は生と死、名誉と義務が混沌とする刹那において、明日への小さな希望の火種を育むための苦渋の選択であった。
そして、ダレン司令官の命令が終わるや否や、艦隊はそれぞれの任へと機動を開始した。希望を拾い上げるため、また未来を模索するための、星域に渡る大いなる旅が、今、始まろうとしていた。
約220艦が最大戦速で星系から脱し、友軍と敵を追うべく加速を始めたのだった。
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