第64話 艦隊葬
輸送艦で艦隊葬を行うのに伴い、副官のミズリア中尉、参謀長のノリコ大佐を伴い、宙兵隊少尉のミカに護衛を任せてダレンは輸送艦へ向かった。
そしてその輸送艦には今回の戦闘で破損した艦の修理や救助活動に感謝し、尊敬の気持ちを込めて乗り込んだ。
救助と修理の任務を果たした後も、修理任務について艦隊の中心として、不眠不休状態で機能していて頭が上がらない。(もちろん最低限の休息はしているが)
艦長と工兵隊のリーダーに挨拶をし、彼らの努力と成果を称えた。
全員を集めた訓示は作業の邪魔になるからと、代表だけと挨拶を交わす。
また、ダレン達を見掛けても会釈程度で済ませ、立ち止まっての敬礼は不要と予め伝えていた。
それでも司令官が直接修理の最前線に足を運ぶというのは彼らの士気を大いに盛り上げた。
もちろん手ぶらではない。
数が少なくなったお酒と避妊具を提供し、どちらかを選ぶように伝えていた。
どちらが人気あったかは推して知るべしだ。
少し早かったので、破損した艦から取り外した重力ドライブ装置の修理が行われている現場を視察した後、輸送艦の中にある治療室と拘置所を見学して負傷者や拘束者の状況を確認した。
数人の兵士に声をかけ、彼らの健康と安全を気遣った。
「ダレン、艦隊葬の準備はできているけど、本当に参列するつもりなの?」
ノリコがダレンに問いかけた。
彼女は、ダレンが艦隊葬に直接参列することに疑問を持っていた。
彼女は艦隊葬がダレンにとって辛いものになるのではないかと心配しており、ホロ会議を使って全艦に通信する方が良いと感じていた。
これは通常はともかく、警戒体制時はそうする提督が殆どだからだ。
「ああ、参列するつもりだ。彼らは私たちの仲間だったんだ。彼らの死を悼み、彼らの功績を直接讃えたいんだ」
ダレンはノリコに答えたが、彼は艦隊葬に自分が直接参加することに大きな意義があると信じていた。
艦隊葬で故人に直接別れを告げ、生き残った者に励ましの言葉をかけたかった。
死体は半数近く発見されず、宇宙空間に引き出され漂っている。
数体は引き上げる事が出来たが、デブリに混じった小さな死体はまず見つからない。
「ダレン、どうしても出るのなら艦隊葬は厳粛に行われますから感情を抑えてください。艦隊のリーダーであるあなたの態度が他の者に影響します」
ミズリアがダレンに忠告した。
彼女はダレンが艦隊葬で涙を流すことを恐れていた。
彼女はダレンが艦隊の士気を高めるために冷静さと威厳を持つべきだと思っていた。
意外とセンチメンタルなところがあり、見かけによらず映画とかで涙を流すととある筋から情報を仕入れていたからだ。
「ありがとうミズリア。心配しないでも大丈夫だ。俺は感情を抑え、艦隊のリーダーとして振る舞うさ」
ダレンはミズリアに安心させるように言ったが、艦隊葬で涙を流すことを避けると決めて、艦隊のリーダーとして責任と尊厳を持つことを誓った。
「ダレン、ノリコ大佐ではないけど、艦隊葬はつまらないよ。本音をいうとあなたには参列しないで欲しい。あなたが死者に対して心を痛めるところを見たくないの。他の司令官同様に出席する必要はないのよ」
ミカがダレンに反対した。
彼女はダレンが艦隊葬に参列することを嫌っており、艦隊葬がダレンにとって無意味なものになると感じていた。
「ありがとう、ミカ。でも参列しないといけないんだ。彼らは生きている。彼らは死者ではなく、彼らの魂は我々の心の中に生き続けいくんだ」
ダレンはミカに説得するように言い、実際問題として艦隊葬に参列する以外の道はなかった。艦隊葬で故人に敬意と感謝を示すことを望まれているのが分かっていた。
3人はダレンを支え、優しく慰めた。
彼らは、ダレンの重圧を少しでも軽くしようとし、ダレンに自分たちの愛と尊敬を伝えた。3人はダレンと一緒にこの戦争を乗り越えることを誓った。
そして艦隊葬の時がやってきた。
輸送艦の甲板に(代わりに格納庫)、白い布に包まれた故人の遺体が並べられていた。
遺体の数は200体ほどしかなかった。
彼らは敵の攻撃によって即時に命を落とした者や、治療のかいなく負傷によって死亡した者だ。
皆、勇敢に戦った者だった。
ダレンはノリコ、ミズリア、ミカとともに、遺体の前に立った。
彼は故人の顔を一人一人見つめ、その功績を讃え、別れを告げた。
「あなたたちは、私たちの仲間であり、記憶に残るでしょう…そしてその魂はわれ・・・われ・・・ぐっ!我らとともにある。捧げ銃・・・」
そこまでしか言えなかった。
その顔からは涙が溢れていた。
偶々別れを告げた死体が見知った者だったのもあり、涙が止まらなかった。
そこから先の葬儀はつつがなく行われたが、ダレンが死者に涙を流した事は艦隊中に広がり、良い意味でこれまでにない司令官として艦隊の兵士たちの心を掴む事になった。
但しミカからは後に情けないと罵倒されるが。
ダレンが詰まりながら発せられた声は格納庫に響き渡り、その声は宇宙に、故人に届いたであろう。
そして遺体はカプセルに入れられ、恒星へ向けて旅立つため、応急修理をした破損艦に移された。
この輸送艦に接舷されていたのだ。航行不能ではないが、艦体の歪みが激しい修理不能だった。
少なくとも空気は充填出来ないからだ。
辛うじて恒星に向かう事が可能なので、無人艦として彼らの棺桶となり恒星へ旅立っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます