第61話 報告
通信士のマーガレットがダレンに告げた。
「提督、報告します。技術班からの初期評価がまとまりました」
マーガレットが報告すると、ダレンは指示を出す。
「うむ。技術士官と話をしたい。俺が直接報告をするよう求めていると伝えてくれ。準備ができたら繋ぐように」
マーガレットは、はっ!と敬礼し、了解した事を伝えた。
ダレンは時間を節約したく、特に簡単な命令時は復唱せず、簡単なジェスチャーをさせている。
「技術士官、こちらはダレン少将からの指令です。少将が直接状況を聞きたいとの事」
「了解した。直ぐにでも説明できるけれども、どうするの?」
「はい。準備が整い次第繋げるよう指示されていますので、少将に繋げますが宜しいですか?」
「了解した。では繋げて頂戴」
マーガレットがダレンに告げる。
「提督、技術士官に繋げます」
技術士官は画面が切り替わり、ダレンを確認すると敬礼した。
「はい、少将。こちらは輸送艦に配属されている技術士官のヨハネメイ中佐です」
ヨハネメイは落ち着いた語調で伝えた。
「早速だが、初期報告を頼む」
「それでは初期評価をお伝えします。離反艦隊の状況は厳しく、25艦のうち修理可能な状態と判断したのはわずか10艦だけです。それでもこの割合は奇跡に近いと言えるでしょう。それと漂流している艦では約3割りのクルーを失いました。今のところ死者数は約700人に上ります。一瞬の戦闘でこれほどの犠牲者が出てしまったなんて…」
ヨハネメイの声には悲しみと怒りが混じっていた。彼女は自分の仲間たちの死を思い出していたのだろう。
本来であれば余計な事を話すべきではないが、ダレンには、余程思うところがあるのだなと、スルーする度量があった。
ヨハネメイは深呼吸をして次に続けた。
「一部の艦からは重力ジャンプユニットを部品として取り出し、可能な限り再利用する計画です。そして重力ドライブと重力ジャンプユニットが全損した艦は、あまりにも修復が難しく破棄するしかなさそうです。しかし、これらの艦からは取り出せる機能的なパーツを最大限回収するつもりでおります。特にコンピューターユニットは予備として非常に価値がありますので、それらをユニットごとに丁寧に取り外す作業が現在進行中です。一方、パワーユニットの損傷により動けない艦向けには、別の対策を取るつもりです。それは重力ドライブや重力ジャンプユニットが全損した艦からパワーユニットを取り外して移植する事です。この作業には高度な技術と危険が伴いますが、我々は何とかやり遂げるつもりです」
ヨハネメイの声には決意と誇りが感じられた。彼女は自分の仕事に責任を持っていたのだろう。 ダレンは深く頷いた。
「ヨハネメイ中佐、報告に感謝する。知っての通り我々が生き残るためには1艦でも多くの艦を必要としている。具体的な方針を早急に立て、適切に進めてもらいたい」
そうして追認する形で指示を与え、ヨハネメイの努力に感謝の意を表した。
ダレンは自分の艦隊、特に技術員に対しては工廠部門の出であることから信頼を寄せている。
ダレンの隣にいた副官のミズリア中尉が、修理可能艦の数について感想を漏らした。
「提督、10艦だけですか…。これでは戦力不足にならないのでしょうか?」
彼女は心配そうに言ったが、艦隊の安全を第一に考えていたのだろう。
そして報告の最後にヨハネメイはつづけた。
「少将、それと反乱の首謀者はすでに拘束されまして、尋問後、強制的にコールドスリープにされることとなりました。そして本星に戻れば軍法会議にかけられることで宜しいですね?」
ヨハネメイの声には冷たさと軽蔑が漂っていた。彼は反乱の首謀者に対して憎悪を抱いていたのだろう。
ダレンは再度伝えられると気が重くなった。
「法の裁きが待っているのだな。そうしてくれ」
ダレンは反乱の首謀者に対し、艦隊の者に対してどう思っていたのだろうかと思案する。
死んだ者の中にかつての同僚や友人だった者がいるだろう。
それとも、彼はただの裏切り者だったのだろうか?
ダレンは自分の心の中にある葛藤を隠そうとし、毒づきながらひとりごとのようにつぶやいた。
「さあ、全ての作業を進めてくれ。我々の未来、そして新たな歴史のために…」
そして通信画面を切ると艦の外を見た。
と言っても直接見るのは宇宙放射線の影響から窓はないのだが、カメラ画像から救助作業の様子を眺めながら思案に耽っていた。
無数の星や惑星、そして破壊された艦の残骸を見、自分の目的や信念を確かめようとした。
ミズリアは眉間にシワを寄せ思案に耽るダレンを見、自分の選択に後悔はなかったのだろうか?彼は自分の運命に覚悟はできていたのだろうか?そんな事をふと考えていたが、ダレンがふとつぶやいた。
「我々は生き残り勝利するのだ。我々は正しい!」
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