第2話 ダレン大佐

 ダレン視線


 俺はダレン・ブレイク。

 28歳で航宙軍士官をしている。

 階級?大佐だ。

 今は特定の女はいない。

 先月戦死してしまった・・・

 航宙艦乗りで、操舵手がパニックになった駆逐艦に突っ込まれ、艦は文字通り割れたのだとか。

 そのまま宇宙空間に放り出されたらしい。

 まあ、日常のことで、死体も見つからないなんてよくある。


 

 今は提督室で引き渡しに必要な最後の仕事をしており、当直の時間が終わり8時間の休憩時間中だ。

 仕事をしている時は良い。嫌なことも一時的に忘れる。お互い死んじまったら一晩チビチビ飲んで思い出を心の奥底にしまって、翌日には次の相手を探そうぜ!となるのが航宙艦乗りの日常だ。

 提督室ともあと2日でお別れだから、せめて最後まで使い倒してやろうと思っている。


 提督室にいるのは俺が設計に関わった新造砲艦【フェニックスクラウン】の引き渡しのためだ。

 この部屋からしか出せない特別な命令がある。

 それを提督が使えるようにする必要があり、目下その作業中だ。

 その命令は、フェニックスクラウンの裏コードを利用したモノだ。

 これを使えば、艦の性能を最大限に引き出すことができる。

 設計上の限界を越え、寿命を縮めかねない為、最後の手段として使う裏技や、起死回生の一手と言われるような最終手段を可能にする為の制限解除が含まれる。

 もちろん、悪用されないようにセキュリティーは厳重だが、俺はそのコードを知っている数少ない人間の1人だ。


 提督室はベッドとクローゼット、小さな机と端末があるだけの狭い部屋だ。

 それと艦長室とここだけは個室のトイレがある。

 それでも俺はトレーニングをする方法を見つけた。

 天井にある非常用のバンドに脚を固定して、腹筋運動をしているんだ。

 背中と尻が天井に接し、上半身を下に垂らして、そこから水平に体を起こす。

 これが結構効くんだ。


 今は最終調整の関係で、ブリッジと連絡が取れない状態だ。

 副長に他の業務を押し付けじゃなく任せ、提督のために設定を変えている最中だ。

 ギリギリまでバージョンアップをしており、出港時に設定が間に合わず、引き渡し前に部屋に籠もって処理をする羽目になってしまった。

 言っとくけど、俺は引きこもりじゃあない。


 もし俺がここを出ると、その間この部屋はセキュリティーが無くなるから、ドアを開けて歩哨を呼ばなきゃいけない。

 それは面倒くさいし、入られるのも怖い。

 兵士とは入るなと言った部屋に入り、スイッチを押すな触るな!と言っても触る生き物だ。

 だから俺は上げ膳下げ膳で食事もここで済ませている。


 数少ない自由時間はこの部屋から出られないから、トレーニング以外にすることもない。

 まあ、それも悪くないか。

 トレーニングは俺の趣味だし、体力もつく。


 それにしても、艦隊を指揮する提督の権限はすごいな。

 今なら最高機密にもアクセスできるんだぜ。

 もちろん、バレたら首チョンパだからやらないけどな。

 ただ、予めテスト用に一部の機密コードと検索トリガーを知らされていたけど、ちょっとだけ、それ以外の内容をテストしてみたくなったんだ。


 それは今この衛星上に着陸している、引き渡しと引き受ける全ての艦に乗っている者の個人情報だ。

 階級が下位の者なら見ても良いと言われているけど、墓まで持って行かなきゃならないレベルの情報だ。


 賞罰、スリーサイズや体重はもちろん、初潮や生理の周期まで記録されている。

 それほど詳細な個人情報が書かれているのは、軍人としての能力や健康状態を把握するためだろう。

 恋人の有無は、戦死した場合に通知を出す先を登録するのに集めた情報なんだ。


 俺はある女性士官の情報を見てしまった。

 顔写真と名前を眺めていたら、ふと気になったんだ。

 聞いたことがあるのと、1度写真を見せられたような気がする。


 ・

 ・

 ・


 そうだ!明日俺は軍の広報から取材される。つまりインタビューを受けるのだが、彼女が俺をインタビューする。つまりインタビュアーだ。


 彼女はこの艦の引き渡しを広報する任務に就いており、ミス・ミズリアと呼ばれる美人だ。

 士官学校では次席の成績を収めたようだが、次席になった理由は戦闘試験が平凡だったかららしい。

 逆に俺は戦闘試験はトップだったから、成績もそこそこに持ち直していたんだけどね。


 彼女の顔はインタビュー絡みとは別でどこかで見た覚えがあると思っていたら、何だったか、何とかいうミスコンの優勝者だった。

 ミス・ミズリアという名前で、航宙軍内でも有名人らしいが、俺はそんなことに興味がなく知らなかった。


 美人でプロポーションも抜群だが、彼氏はいないらしい。

 そんなことまで書かれているから驚く。

 まあ、明日俺をインタビューする者を事前に調べただけだから問題ないだろう。

 うん、そういうことにしておこう!

 彼女の生い立ちや動機も書かれていて、軍に入ったのは昔助けてくれた軍人を探すためだという。

 その人の名前も分からないし、体にある傷が唯一の手がかりだという。


 すごいな。

 こんな女性が彼女だったら幸せだろうな。

 俺は今まで付き合った女とは長続きしなかった。

 すぐに死別するか喧嘩別れしてきたからだ。

 喧嘩早く、短気な女となんとなくつるんでいた感じだけど、今でも生きている女はいない。

 全員付き合い始めてから半年もせずに戦死してしまったんだ。

 お陰で狂犬の死神なんて不名誉な二つ名を頂いちまった。

 ちゃんとした彼女が欲しい・・・


 ダレン視点終わり。

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