廃墟リアゼルファ ―最果ての宝石箱―

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第1話 廃墟リアゼルファ

「行ってはならぬ。そこは禁断の地」

 この大陸に住む人間には常識だった。しかし触れてはいけないと言われる程、魅力を感じるのも人間だ。

「見た人がいるの。そこには、私と同じくらいの子供が住んでいるって」

 とある少女が口にした話は、おとぎ話のような物だ。

あの禁断の地――廃墟リアゼルファに人が住んでいる? しかも子供だって?

母は数秒沈黙した後、娘の髪をゆっくりとした動きで撫でた。

「そうね、もしかしたらいるのかもね」

 娘の話を否定したくない母心からだった。娘は撫でられる頭の心地良さにうっとりとした表情を浮かべ、ふふっとはにかんだ。

「私もいつか行って会ってみたい。そしてお友達になるんだ」

 少女は窓に目を移して言った。視線の先を遥か遠く行った先に、誰もが知っている廃墟リアゼルファがある。

「行ってはならぬ。そこは禁断の地」

 国が抱える古く悲しい歴史をすべて見てきたその場所は、いつしか誰も立ち入ってはいけない場所になった。話をするのもはばかれた。それでも人々の胸にそこはずっとあり続ける。存在を消すなど不可能なのだ。人々の数だけそれは永遠に刻まれるのだから。

 無機質な廃墟が立ち並ぶ場所。

 冷たい廃墟群に寄り添うように咲き誇る多くの草花。うっそうとした土地のはずだが、どこからかさえずりが聞こえ、動植物の命の音が絶えず響く。

いつしか誰かが言った。

「そこは、最果ての宝石箱なのだ」と――。


 軽く口をゆすいで、エマは口角を上げた。

「今日も元気に一日生きましょう」

そして両手の拳を丸めると、んんーっと言って背中を伸ばす。栗色のゆるいウェーブがかった髪が背中で僅かに揺れる。茶色い瞳を輝かせ、始まる今日に心を躍らせる。

「おはようエマ」

「リツ、ヒソカ、おはよう!」

 挨拶をしてきたのはリツだ。銀色の髪に色白の肌。華奢ですらっと伸びた手足と、整った目鼻立ち。そんなリツの後ろでむすっとした表情を浮かべる少年がヒソカだ。赤く短い髪。目つきが鋭く、一見して怒っているように見える。

 しかしエマはそんなヒソカに「今日も元気に生きましょう!」と声をかけて背中に触れた。「ああ」と短く返したヒソカは両手を頭の後ろで組んだ。そんな二人のやり取りを、リツは柔和な表情で見守る。

「朝から声がでけえなあ、エマは」

 ヒソカはやれやれと言った様子で言うと、「そう?」とエマは小首を傾げる。

「そんな事ないよ」

 リツが即座にフォローし、「ヒソカは朝から仏頂面だよね」と返した。

「悪かったな。あいにく俺はこれが通常モードなんでね」

 ヒソカは軽やかな足取りで岩に乗り座る。片膝を立ててそこに肘を乗せ、頬杖をついてエマとリツを見下ろした。

「何もない、退屈な毎日に飽き飽きしないか?」

 ヒソカの問いに二人は互いの顔を見合わせる。そしてヒソカに目線を戻すと、エマが口を開いた。

「何もないって思った事ないかも」

 ヒソカが目を細めてエマを見つめる。

「ヒソカがいて、リツがいて。たくさんの木々や花に囲まれて。動物がいて、空は広くて。たくさんある。私には全部あるって思ってるから」

 両手の指を組んで微笑むエマを、ヒソカは数十秒間凝視していた。そしてリツに目を向けると、視線に気がついた彼はふっと口角を上げる。

「ああー。まったく……本当にお前は」

 ヒソカは空を仰いで言った。「何? どうしたの?」とエマは言ったが、「別に」とぶっきらぼうに返すだけだった。





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