お題その八 「ほうれん草 掃除婦 提灯」

どんな仕事でも、「ほうれん草」は大切である。

報告、連絡、相談。

新しく雇った掃除婦にも、そう伝えた。


ある日、執事より、

「地下より異臭がします。調査したいので「提灯」をお借りできないでしょうか?」との相談があった。


執事はある程度の能力者なので、「異臭」が災厄の前触れであることを、十分理解している。

「提灯」とは、こういう状況に備えて、私が用意したものだ。

「提灯」ではあるのだが、軽く術を施してあり、初期の災厄や、程度の低い魔物などの対処に使えるよう準備してある。


許可を与えた。


三十分もせず、執事は掃除婦を伴って、私の元に戻ってきた。


説明によれば…

異臭は地下の空き部屋から発生していて、調べてみると、腐ったほうれん草が保管してあったという。

使用人を集めて、問いただしたところ、この掃除婦が「自分がやった」と名乗り出たというのだ。


「ご主人さまがほうれん草は大切だ、とおっしゃったので、厨房掃除のときにゴミとして出た分を捨てずに集めて、ある程度の量になったら、お返ししようとしていたのです」

「ほうれん草」の意味は説明したつもりだったのだが……。


叱らずに、褒め、次回からは、まずどうしたらいいのか相談するように伝えた。


このとき、私はまだ気がついていなかった。

病気になり、余命がわずかとなってから知った。

ほうれん草の「花言葉」は「健康」

それが腐るということは……。



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