第115話 地獄の始まり


 「……ぐふっ」


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 「……無念」


 「こんなん命何個あっても足らんで…」


 我がギルド事務所の13階。

 そこには死屍累々といった感じの有様だった。

 13階全体に強固な結界を張って、どれだけ暴れても被害が出ないようにしてある。この結界を破れるのは魔王くらいのもんだ。

 安心して特訓出来るよね。


 「はいはーい。そろそろ起きて下さいよー。時間が勿体無いでーす」


 「こ、この映像はアップしても大丈夫なんでしょうか…」


 返事がない。ただの屍のようだ。

 俺はそんなのお構いなしに魔法をぶっ放す。


 「勿論ですよ。これぐらいやらないと強くなれないんだと思ってもらわないと。みんなが日頃やってるであろう訓練はぬるいんだぞってのを、全ての探索者の人達に分かってもらわないといけません。そーれ」


 「そ、そうですか」


 訓練風景を撮影したいという協会のお願いに快く了承した俺は、派遣された大村さんに余す所なく撮ってもらう。

 大村さんは引き気味だけど、そんな事知ったこっちゃないね。


 ドーンという爆発音と共に床に転がっていた人達が弾け飛んでいく。

 うーん。まだまだ弱いなぁ。


 「ガァァァアア!」


 「おっと」


 なんとか、ほんとになんとかついて来てるのは、ガチャ組と『暁の明星』、協会の真田さんぐらいだ。その人達も満身創痍だけどね。

 ついて来れてる人には訓練の強度も上げてるし。


 今も公英が突っ掛かってきたけど、軽くいなして放り投げる。こいつは肉体に依存し過ぎだな。

 技術が全然ない。まずはそこからだね。


 「よっと」


 公英をいなしてる間に忍び寄ってきていた桜の糸を避けて魔法を連打。

 陽花が毒増し増しの液体で牽制してくるが、瞬時に憑依対象を節制ラファエルに変えて、水魔法で防ぐ。


 「うーん。陽花が厄介だぁ」


 またもや憑依対象を救恤カマエルに変えて陽花を一気に蒸発させる。

 一瞬で蒸発させるのは結構難しいんだけど。


 「まーた復活した」


 少し離れた場所で小さくなった陽花が復活していた。何回も蒸発させてやってるのに、どこかしらから復活しやがる。それでも既に小学生ぐらいの小ささになってるんだけど。


 「男女平等ぱーんち」


 とりあえずフリーにしたら面倒な桜をさっさと仕留める。気の抜けた声と共に顎を的確に打ち抜く。

 そしてそのまま転がっていた公英の顔にサッカーボールキック。

 これで二人はKO。そのまま陽花も結界で…?


 「最後っ屁か」


 陽花の方に向かおうと思ったら脚に糸が巻き付いていた。そのせいで行動がワンテンポ遅れる。

 そこにやってきたのはフラフラの状態ながらも、なんとか頑張っていた『暁の明星』の面々と協会お抱え勢力筆頭の真田さん。

 怖い顔をしながら突っ掛かってきた安藤さんと稲葉さんを相手しつつ、偶に飛んでくる明智さんの魔法を避ける。


 「はぁぁぁあ!」


 そして真田さんも参戦。

 うーん。憤怒サタンに憑依してない俺の近接戦は本当に拙いんだよなぁ。

 天使の若干の身体強化で良く立ち回れてると思いますよ、はい。


 「憑依ポゼッション:忠義ウリエル


 「天蓋」


 結界魔法でとりあえず陽花に蓋をする。

 あいつがちらほらと視界に入るだけでも厄介だ。

 陽花の毒やら酸やらが俺にどれだけ効くか未知数だしね。大抵の毒は効かないんだけど。

 万が一があるから不安なのです。


 「とう! はっ! せい!」


 最近動画で見た空手の映像を真似る。

 この体は高スペックなので、真似するのは簡単なんだよね。ほんと真似だけだけど。


 「うぐっ!」


 「がっ!」


 でもこういうにわか武術を偶に混ぜるのは結構効果的である。

 俺の我流武術に慣らされた面々は予想外の事をすると、途端に連携が乱れる。

 後はこれを丁寧に一人ずつ仕留めていくだけだ。


 「まっ、こんなもんか」


 強キャラっぽいセリフを吐いて戦闘終了。

 やっぱり一ヶ月特訓した『暁の明星』は中々やるね。それについて来ていた真田さんもだ。


 『超回復』ってやっぱりいいよなぁ。鍛えれば鍛えるだけ強くなるんだもん。

 骨とかも強くなるんだろうか。それならこの期間中に全身の骨を何回も折っては回復してあげるんだけど。能力は本人の解釈次第な所があるからなぁ。

 真田さんが『超回復』をどう捉えてるかによるね。


 「団長さーん。結界から出して下さーい」


 「おっと。忘れてた」


 結界に閉じ込めっぱなしだった陽花が結界をどんどんと叩いていた。

 小学生ぐらいの見た目だからなんか微笑ましいな。


 「この結界は凄いですねぇ。そこらの結界なら溶かせるんですけどぉ」


 「そこらの結界とは年季が違うからな」


 水をごくごくと飲む陽花。

 すると体がみるみるうちに回復していく。

 能力って分かってても摩訶不思議な光景だぜ。

 小学生が一気に妖艶なお姉さんへ。


 「結界をなんとかしないといけませんねぇ」


 「現代で俺の結界を破れる奴なんて居ないだろうから、そんなに気に病む事はないと思うけど」


 ってか、一番簡単な処理方法は全員を結界の中に放り込んで圧縮してグチャってやったら終わるんだよね。陽花はそれでも生き残りはしそうだけど。

 それをやると原型が残らないから蘇生するのも一苦労だし、練習にならないからやらないけど。


 「『暁の明星』と真田さん、ガチャ組以外はまだまだ練習が必要だなぁ」


 日本探索者の1級攻略は遠そうだ。


 

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