第69話 ポテ


 「ポテちゃ〜ん。病院着いたよ〜」


 「にゃーお」


 歩く事約30分。

 猫が居るって事で、タクシーに乗る事が出来ずに中々の距離を歩く事になってしまったが、全然苦にならなかった。

 道中はひたすらポテを愛でていましたので。


 「夜遅くにすみません」


 「いえいえ。まさか有名人に来て頂く事になるとは思ってませんでしたよ。夜間勤務は外れだと思っていましたが、幸運でした。後でサインを貰っても?」


 「もちろん。それぐらいならいくらでも」


 動物病院にお邪魔すると、先に電話していた事もあって、既に獣医師の人が待機してくれていた。

 なんでも、この病院には『獣医』の能力を持った人が複数在籍してるらしく、ペット愛好家達には有名な病院らしい。

 全然知らなかったぜ。検索サイトの一番上に出てきた所に電話をかけただけだったから。


 「じゃあ早速検査していきますねー」


 そう言って、獣医師の中年男性はポテを凝視する。なんでも『獣医』の能力で見ただけで、大体の検査が出来てしまうらしい。

 それでも分からない事があれば、機械を使うらしいけど。


 「ふむふむ。健康状態は悪くありませんね。少し栄養が足りてないように思えますが。飼い猫じゃなくて野良猫の可能性の方が高いですね。予防接種をした形跡もありませんし」


 「すげぇ。見ただけでそこまで分かるって不思議だよな」


 「野良猫だって〜! 良かった〜!」


 いや、まだ可能性が高いってだけで。

 しっかり警察には届け出は出しますよ。

 でもうちの子になりそうで良かったとは俺も思います。


 「とりあえず必要な予防接種はしておきますね」


 「お願いします」


 そう言って手早く注射器を用意して、準備を進めていく獣医師さん。

 ポテはされるがままにぼーっとしている。


 「普通こういうのって、ペットは抵抗したりするんじゃないの?」


 「猫は警戒心強い筈なのにね〜。ポテは大らかな性格なのかな〜?」


 最初から人慣れしてたしな。中々の大物猫ではないか。


 「『獣医』の能力で動物の警戒心を下げる事が出来るみたいですよ。後は注射の痛みを感じないだとか。長年検証した結果、そういうデータがあるみたいです」


 「『獣医』すげぇ。まさに動物病院で働く為の能力じゃん」


 「能力持ちは給料も良いですからねぇ。運が良かったですよ。他の一般獣医師さんからはかなり妬まれますが」


 苦笑いしながら教えてくれる獣医師さん。

 まぁ、人間だもの。こればっかりは仕方ないよね。能力者至上主義なんて生まれるのが分かってしまうな。

 運で差別されてるようなもんだし。


 「はい。一通りの事は終わりましたよ」


 「はやっ。ありがとうございます」


 喋ってる間にノミの除去とかも終わらせてくれたらしい。なんという手際。俺でも見逃しちゃうね。


 「さて。織田さんは猫を飼った経験などは?」


 「ありません。昔、爬虫類を飼おうか迷ってはいましたが」


 異世界でドラゴンを手懐けようとした事はある。

 残念ながら失敗に終わったが。

 異世界の勇者なら、ドラゴンをペットにするのはお約束でしょと、一時は躍起になって手懐けようとしていた。

 しかし、残念ながらどれもこれも全く懐いてくれなかった。餌付けしたら簡単だと思ったんだけどな。何回もボコボコにして、こちらが上だと証明してみたりもしたけど、結局ダメだった。

 あの時は落ち込んだなぁ。


 「では、今日必要なものはこちらで用意させて頂きますね。病院には簡単な物しか置いてありませんので、明日はペットショップで必要な物は揃えて下さい」


 「今、俺の家を改装工事中でホテル暮らしなんですよね」


 「それなら、ペットが泊まれるホテルには最低限必要設備は整っているので、あまり心配はいりませんね」


 それからも獣医師さんに必要事項等をしっかりと聞いてスマホのメモアプリに記載する。

 桜は熱心に話を聞いており、何度も質問をしていたが、獣医師さんは丁寧に説明してくれた。


 とりあえず病院に置いてあった簡易的なキャリーバッグを購入し、そのままホテルへ向かう。


 「んふふ〜。ポテちゃんは良い子に出来たね〜。よしよ〜し。もうちょっとでお家だよ〜」


 「にゃごにゃご」


 桜さんの顔が緩みまくっている。

 歩きながらひたすらポテに喋りかけていて、俺はなんだか寂しい気持ちになった。


 「ふむん。これは『地震に負けない』に連絡しておかないとな。部屋の内装を任せたデザイナーさんも猫が居る事は知らないだろうし。景観を損ねない程度にキャットウォークとかも作るとなると、早めに相談した方が…。いや、部屋を丸々一つ潰してポテ専用ルームにするってのもありか。いや、でも家の中ぐらいは自由に歩き回りたいだろうし…。むむむっ。迷う迷う。まよいマイマイ」


 「だんちょ〜! キャットウォークはあたしが作ってあげた〜い!」


 ふむん、一理ある。俺も作ってみたい。

 ってなると、一応猫が増えましたって事だけは伝えておくのが良いか。

 後はそこから工夫して、ポテが住みやすいように模様替えしたら良かろう。


 「思いがけず家族が増えそうな感じだな」


 「これからよろしくね〜」

 

 

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