第63話 面接


 面接当日。

 俺はこの日の為に拵えたオーダースーツを身に纏い、やる気満々で会場入りした。


 「やっべ。俺、かっこよすぎない?」


 「スーツが良いんだよ〜」


 またまたー。素直に俺を褒めてくれていいのよ?

 こんなカッコいい顔に産んでくれた母親に感謝だな。昔過ぎて記憶がほとんど無いけど。


 「桜がキッチリした服装してるのはなんか新鮮だな」


 「流石に面接官が派手な服を着てるのは常識的にあり得ないでしょ〜?」


 桜もスーツを着ている。格好はキッチリしてるけど、ピアスはいっぱい付いてるし、アクセサリーもジャラジャラと。常識とは?


 「まっ、いいや。探索者なんだし。無理にスーツとか着る必要もないよね」


 俺は一度着てみたかったから、今日お披露目した訳だけど。

 いつもスラックスは穿いていたけどそれとは違う、なんか自分が賢くなった感があるよね。


 「今日は何人面接するの?」


 「30人ぐらいだったかな〜?」


 面接は三日間かけて行われる。

 応募は万を余裕で超えていたが、桜さんがどう調査したのか分からないけど、選抜して大体合計100人ぐらいの人を面接する事になる。


 「でも、大体合格にする予定だろ?」


 「そうだね〜。だんちょ〜が貸してくれた魔道具を使ってスパイとか工作員じゃなかったら採用で良いと思うよ〜」


 ふむふむ。資料をペラペラとめくっていき、面接者の情報を見ていく。

 能力者持ちとそうじゃない人で半々ぐらいか。


 「生産系能力持ちも結構いてくれてるな。助かる助かる。せっかく工房も作るのに能力持ちが居ないんじゃ意味ないからね」


 「面白い人が居ると良いね〜」


 まぁ、現代っぽい能力者もチラチラいるよね。

 ハッキングの能力者とかいるからね。そういうのは政府に管理されるらしいけど。可哀想に。





 「次の人どうぞー」


 面接を開始してから2時間が経過した。

 まず最初の質問で、スパイの有無を確かめる。

 今の所それで弾かれたのは3人も居るんだよね。

 いくら、桜さんが厳正に選抜してくれても抜けてくる人はいるって事だ。

 万を超える応募者を選抜しただけでも凄いけど。


 「えーっと、あなたの志望動機は…。ん? 料理?」


 「はい! 八重さんに美味しい牛丼を食べてもらいたくて!!」


 「採用〜!!」


 「ありがとうございます!!」


 待て待て。早すぎる。即堕ちじゃねぇか。いやでも、凄いなこの人。

 今は高級レストランで働いてて、自分の店を持ってるらしいけど。それを捨ててまでうちに入ると? どれだけ桜に命かけてるんだよ。


 「お店の方はどうするつもりで?」


 「幸い、料理の能力持ちを何人か雇えてますので! その誰かに譲ろうかと考えてます!」


 ほえー。成功者なのに。うちに料理を作る為にくるとは。凄い人もいたもんだ。


 「ね〜! だんちょ〜! 早く採用って言いなよ〜! うちのギルドの専属料理人にするべき人材だよ〜! ね〜!」


 桜さんがうるさい。正気を失ってないだろうか。

 牛丼なんて吉野さんに食べに行けばいいじゃん。


 「オリジナル牛丼を一緒に考えるんだ〜! 吉野さんの社長も交えて企画を進めていかないと〜!」


 採用が確定事項になってるじゃん。

 そういえば、吉野さんと共同でオリジナル牛丼を作るとかなんとか言ってたな。

 まっ。いっか。はい、採用。


 「んふ〜! 楽しくなってきたね〜」


 「そうだね」


 桜さんが楽しそうなら良いでしょう。いつもは俺に付き合わせてるしね。



 次の人は魔道具師の能力者。

 この人は面接でプレゼンしてきた。


 「ふーん? 面白い事考えるな」


 「これを作れたら世界が一変するよ〜」


 ボサボサの髪だけど、一応服装だけは取り繕いましたみたいな、いかにも研究にしか興味が無さそうな女性なんだけど。

 目をギラギラさせて資料片手にプレゼンする姿はお化けみたいだった。


 「ですよね! でもです! 素材と魔石の質のせいで! 実用出来そうに無かったんです! しかし! 織田さんが持ち帰ってきた素材なら! 可能性はあるのじゃないかと!! 私は思ってるんです!!!」


 とにかく熱意が凄い。

 この人が作ろうとしてるのは、狭間が誕生すると即座に察知出来る魔道具。

 理論は説明されてもちんぷんかんぷんだけど。

 まぁ、成功したらお金はウハウハ間違いないだろうな。


 「じゃ、採用で」


 「ぴゃー! ありがとござます! ぴゃー! ぴゃー!」


 うん。面白そうな人でなにより。今までも色んな企業を回って資金援助やら素材援助をお願いしてきたらしいけど、中々相手にされなかったらしいからね。嬉しさもひとしおだろう。


 踊りながら退室していった女性を見送る。

 あの人で今日の面接は終了だ。


 「なんで企業の人達はあの人の話を取り合わなかったんだろうね〜? 成功すれば莫大な富を得られるのは間違い無しだと思うけど〜」


 「滅茶苦茶金がかかる」


 分からないなりに話を聞いてたけど、必要魔石量や素材を勘案すると50億は間違いなくかかる。

 そりゃ足踏みするよね。それに、素材はどうしても無理だ。1級素材でもギリギリなんじゃないかな。


 「え〜? 1級素材でも微妙なの〜? じゃあ無理じゃ〜ん」


 「いや、俺のアイテムボックスの中に入ってる素材を使えばいいだろ。異世界産の。1級なんて余裕で超える素材が山ほどあるぞ」


 売る事は出来ないけどさ。

 使うならバレないっしょ。

 あの女性には秘密を守ってもらう必要があるけど、大丈夫だと思う。研究にしか興味なさそうだし。


 あ、そうだ。向こうの魔道具を見せて量産出来るかも聞いてみたいな。

 魔法と科学が合わさるとどうなるかも気になる。

 これも地球の女神が望んでた事だし、やってみる価値はあるだろう。



 

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