第55話 祝勝会


 「え? これも撮るんですか?」


 「合同攻略が終わって和気藹々してる画も必要かなと思いまして」


 場所は俺が泊まってるホテルのレストラン。バイキング形式で料理とお酒を楽しむ祝勝会パーティーみたいなものだ。


 「まぁ、いいですけど。大村さんも楽しんで下さいね」


 攻略が終わった後、狭間の前では大騒ぎだった。俺が1級を攻略したとはいえ、万が一俺に何かあった場合が不安だったのだろう。

 合同とはいえ初の2級攻略。

 探索者達の確かなレベルアップに民衆はかなり盛り上がっていた。


 狭間の前で待っていたTV局のカメラの前での演説は『暁の明星』に任せた。

 今回色んなギルドを集めたりして、かなり骨を折ってくれたからね。

 知名度とイメージアップの役得があっても良いだろう。決して面倒事を押し付けた訳ではない。

 実際稲葉さんは喜んでやってくれた。


 「ホテルの人達には迷惑かけたな」


 「宣伝になるからって喜んでやってくれてるよ〜」


 最初は祝勝会を予定していなかった。攻略が終わって、はい解散って思ってたんだけどね。

 せっかく集まって攻略したんだしって事で急きょ執り行われる事になったんだ。


 「天魔ー。飲んどるかー」


 「絡み酒ですか」


 既に酔っ払ってる雰囲気の柴田さんがやたらと絡んでくる。そしてチラチラ桜を見るのを忘れない。

 これ、俺に絡むフリして桜と喋ろうとしてるだけだろ。俺をダシにするのはやめてください。

 行動がモテない男そのものですぜ。


 「安藤さーん」


 「カッコよかったですー!」


 双子姉妹は相変わらずの安藤推し。

 筋肉女子はモテるんだろうか。安藤さんは満更でもなさそうにして、二人と一緒に写真を撮ったりしている。ノリノリでポージングをしたりしちゃって。筋肉の張りが半端じゃない。

 俺から見たらゴリラそのものなんだけど。


 「あれがウケる理由が分からん」


 「女の子は憧れるかもね〜。あたしはあそこまで筋肉が欲しいとは思わないけど〜」


 ぶふっ。桜の筋肉がある状態を想像して笑ってしまった。

 ボディビルダーみたいなギャルか。ちょっと属性が渋滞をおこしそうだ。


 「あれもモテてるんだよなぁ」


 遠目に見えるのはトリハピの吉岡さん。

 ホテルの女性スタッフがキャピキャピと周りに群がっている。

 君達は吉岡さんの動画とか見た上でのそれなのかね。世紀末みたいな人だぞ。

 ギャップ萌えなのか? それにしても限度があると思うんだけど。


 「あそこは真面目と。祝勝会ぐらい気を抜けばいいのに」


 「既に次の事を考えてるみたいだね〜」


 協会の真田さんと『暁の明星』の稲葉さん。

 二人は会場の隅の方でお酒を片手に探索者談義をしている。

 次の2級攻略はどうするかとか、話し合ってるんだよね。向上心があるのは良い事だけど、抜ける時は抜かないと体が持ちませんぜ。


 「だんちょ〜はいつも気を抜いてるよね〜」


 「締めるところは締めてやってますぅ」


 今回の合同攻略だって、なるべくみんなに害がないようにと気を張ってたんだ。

 頑張ったんだし、褒めてもらいたいくらいだね。


 「天魔ー。わいはどうやったらモテるんやー」


 ええい! さっきからうるさいな!

 俺だって女性経験が豊富とは言えないんだ! 桜はガチャから出てきた存在だから仲良く出来てるだけで、現代に戻って来てから親密な仲になった女性はゼロだぞ!? 俺が教えて欲しいくらいだ。

 だからそんな目で見ても桜さんはあげませんよ!



 ☆★☆★☆★


 「な、な、何をやっとるんだあいつらは!?」


 テレビ中継を見ていた松永は当たり前の様に攻略が成功して普通に狭間から出て来た織田天魔を見て、血管がはち切れそうな程の怒りで叫び散らかす。


 「工作員からの連絡は未だにありません」


 「あいつらめ!! 今まで面倒みてやった恩を忘れたか!!」


 怒りが収まる様子もない松永を見て、側に控えていた松永の秘書は決意する。


 (潮時ですかね。金払いが良いので雇われていましたが、そろそろ織田天魔も行動する事でしょう。今のうちに私がいた痕跡を消して、海外にでも高跳びしましょうか)


 秘書は内心でこれからの予定について考えながら、そそくさと退室する。

 松永は秘書が退室した事に気付きもせずに、未だに癇癪を起こしている。時刻はいつの間にか夜になっていた。


 「くそっ! くそっ! こうなったらわしが直々に出向いて--」


 ドカンと扉が潰されながら開いた。

 かなり重厚な扉で簡単に潰れるような代物ではなかったはずなのたが。

 まるでゴミの様に吹き飛んでいった。


 「な、なんだ!?」


 「コンコン。ノックノック。失礼しまーす」


 「しま〜す」


 入って来たのは怒りの元凶。

 排除したくて仕方ない男が何故か松永の屋敷にやって来た。


 「おまっ! お、お前はぁー!」


 「いやいや初めまして。織田天魔ですー。えーっと、あれ? 名前なんだっけ?」


 「松永だよ〜」


 「そうだそうだ。松永だ。いつも老害呼びだったから忘れてたぜ」


 まるで世間話をするように。しかしながら、とてつもない覇気を撒き散らし。

 顔は笑っているのに、目は笑っていない。

 普通の人ならそれを見ただけで気を失ってた事だろう。

 しかし、松永の精神状態は既に普通ではなかった。


 「お前だけは!! お前だけはぁ!!」


 そして命知らずにも能力を行使して。

 眼前の男に飛び掛かった。

 

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