第12話 攻略後


 「え? まだ野次馬居るのかよ。暇過ぎるだろ」


 「あたし達が情け無く逃げてくるとでも思ったんじゃないの〜?」


 狭間から出てくると、入った時より多い人間が、狭間の周りでたむろしていた。

 なんかマスコミっぽいニュースキャスターみたいな人も居るし、さっさと退散しよう。


 「声掛けられる前にタクシー捕まえて逃げようぜ。攻略したってバレた後は嫌でも突っ込んでくるんだし」


 「ういうい〜。素材はどうする〜?」


 「そのうち協会から連絡がくるだろ。その時に要相談だな。買い叩こうとしたら、海外に売り付けてやろう」


 俺が生産職も出来たら、素材は残しておくんだけどな。

 残念ながら、スキル無しの趣味程度のDIYしか出来ないので。

 どこかしらに売る事になるだろう。


 「ギルド作ったんだし、生産職を雇っちゃえば〜? 工房にするスペースはいっぱいあるんだしさ〜」


 「それもそうだな。優秀な人材が居たらスカウトする事にしよう」


 「攻略がバレたら、入団希望者が殺到しそうだね〜」


 「基本的にはスカウトのみで良いだろう。事務職とかは応募にするかもしれんが。一々面接とかしてられん」


 なんかそういう事を全部してくれる、秘書的な人材居ないかな。

 どこの紐付きでもない無職の人。

 いや、無職じゃなくても引っこ抜けばいいんだけどさ。


 タクシーを捕まえてそそくさと乗り込む。

 今にも突撃してきそうだったからな。

 馬鹿にしたような視線も多かったし、相手にする必要もないだろう。


 「スカウトか〜。基準は〜?」


 「その時のノリだ。面白いと思った人材だな。桜も面白い人材が居たらスカウトして来ていいぞ」


 「探索者学校とか遊びに行ってみようかな〜。落ちこぼれが実は有能でした〜みたいなのは物語じゃありがちだよね〜」


 「能力を持ってて落ちこぼれるとかあり得ないと思うんだけどな。どの能力でも使い込めば、それなりに化けるもんだ。落ちこぼれはただの怠け者か使い方を分かってないかだろう」


 「その使い方を分かってない子を引っ張りたいね〜。ざまぁ的な〜? 探索者学校程度で調子に乗ってる人間を見返してやる〜って感じ〜。んふふ〜想像したら楽しくなってきた〜」


 桜さんは中々性格が捻じ曲がってらっしゃる。

 でも実際いるんだよなぁ。

 能力者至上主義の痛い奴が。

 俺は選ばれた人間だーって本気で思ってる奴。

 そういう奴が落ちぶれて行くのを見るのは楽しそうだなって俺も思う。


 特に探索者学校には多いだろう。

 15歳なんて多感な時期に、超常の力を手にしたらそう思っても仕方ない。

 俺もその立場なら思うだろう。

 流石に能力を持ってない人を見下したりはしないけどさ。


 見下す意味が分からないっていうか。

 大半は能力を持ってない人で、その人達のお陰で生活出来てるのにさ。

 まっ、次元の狭間を攻略しないと、生活どころじゃないから、探索者が偉い! って思うのも分からないでもないが。


 「お、着いたな」


 「既に良い匂いだよ〜」


 牛タン専門店に到着。

 タクシー料金をカードで支払い、早速入店。


 「お互い好きな様に頼むか? コース的なのもあるけど?」


 「好きな様に頼む〜。牛タンシチューと〜厚切り牛タンもでしょ〜」


 メニューを見ながらウキウキしてる桜を見つつ、俺も何を頼もうか考えてると、知らない番号から電話があった。


 「また知らない番号か。オークション窓口は登録しておいたから別の所だな。協会か?」


 桜に俺の分も含めて多めに頼んどいてくれとお願いし、電話に出る。


 「もしもし」


 「あ!? でたっ! 織田天魔様で、お間違いないでしょうか!!??」


 「うるさっ!」


 「も、申し訳ありません!!」


 いや、だからうるさいって。

 どれだけ大声で喋ってるんだよ。


 「織田天魔で合ってますけど」


 「あ、あ、あのですね! たった今、1級の次元の狭間が消滅したんですけど!!」


 「そりゃ、攻略しましたからね」


 「な、なんですってー!!??」


 ポチっとな。

 俺は通話を切った。とにかくうるさすぎる。

 焦る気持ちは分からんでもないが、もう少し落ち着いた人と話したい。


 「なんだったの〜?」


 「協会から電話。うるさ過ぎて切ったけど」


 「あはは〜。スピーカーにしてないのに、こっちまで叫び声的なのは聞こえてたからね〜」


 俺じゃなかったら、鼓膜にダメージがいってたんではなかろうか。

 勘弁してほしい。またかかって来たし。

 俺は、耳からスマホを離して応答する。


 「もしもし」


 「先程は部下が大変失礼しました。私、探索者協会本部長の朝倉と申します」


 「あ、はい。ご丁寧にどうも。織田天魔です」


 そうそう。これで良いんだよ。

 落ち着いた壮年男性の声。いかにも出来る男っぽい感じだよね。本部長ってなんか偉そうだし。

 俺の秘書でもどうですか。


 「それで、まずは事実確認なのですが…1級を攻略したというのは本当でしょうか?」


 「本当ですね。一応動画も撮ってありますが」


 「そ、そうですか。まさか本当に攻略したとは…。いや、疑ってしまい申し訳ありません。こんな早く1級が攻略されるとは思ってもいませんでしたので。出来れば詳しくお話を聞かせて頂きたいのですが…。今お時間よろしいでしょうか?」


 「えーっと、今ご飯食べに来てるので。また後でもいいですか?」


 「失礼しました。それでは明日以降都合の良い日を教えて頂けますでしょうか?」


 「明日の昼には東京に戻ってるので、それ以降でしたら」


 「ありがとうございます。それでしたら、明日の夕方、織田様の元に向かわせて頂きます。住所は探索者登録されてる所でよろしいですか?」


 「はい。大丈夫です」


 「かしこまりました。それではまた明日よろしくお願いします」


 ふぃー。腰が低過ぎてびっくりしたぜぃ。

 1級攻略の破壊力は凄いな。

 それに、わざわざ向こうから来てくれるとは。

 馬鹿な権力者なら、そっちから来いって言ってくるからな。

 その点、本部長の朝倉さんは良い人っぽい。


 「明日、協会の人が来るってさ」


 「ふ〜ん。応接室とかも用意しないとね〜」


 そうだな。事務所として改装する時に作るか。

 明日は部屋に招く事になりそうだけど。


 「とりあえず、明日の事は置いといて、牛タンを食らうぞー!」


 「いえ〜い!」


 仙台の牛タン。誠に美味でした。

 お持ち帰りとか出来ないのかな。

 空間魔法に入れておきたいぐらいだ。

 

 

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