第8話 初探索


 「本当に狭間って感じだな。人類は良くこの中に入っていこうと思ったもんだ」


 なんか空間が裂けてる感じ。

 7級だから大きくないけど、世界の終わりみたいだな。


 「あはは〜。最初はロボットとかドローンを投入したに決まってるじゃ〜ん」


 それもそうか。

 いきなり突っ込むなんて、極少数の馬鹿だけだろう。

 ラノベの読み過ぎの奴とかな。

 多分俺が中学生の頃なら突っ込んだ。


 「能力持ちしか入れないって不思議だな。どんな感じなんだ?」


 「なんか壁っぽいので邪魔される感じらしいよ〜外に出てきたら戦えるけど〜武器も持ってない一般人じゃ無謀だよね〜」


 崩壊したらやばいって事か。

 だからこそ攻略を急ぐんだろうな。

 道路の真ん中とかに狭間が出来たら、かなり迷惑だろうし。


 「じゃ、入るか」


 「ういうい〜」


 狭間の中に足を踏み入れると、そこは洞窟の様な感じだった。

 湿った空気が肌を撫でて少し気持ち悪い。

 良く考えたら、普段着で来るって舐めてるよな。

 昨日動画とか見漁ってたけど、みんな色んな防具やら武器やら用意してたもんな。

 俺達は大きめの鞄を持ってきただけで私服だし。

 まぁ、実際舐めてるんだけど。


 「向こうのダンジョンみたいなもんか。規模は小さいけど」


 「どの狭間も低い等級はこんな感じらしいよ〜。等級が難しくなってくると異世界に迷い込んだみたいになるんだって〜」


 ふむふむ。って事はもしかしたら俺が知ってる場所に繋がる可能性も?

 俺がいた異世界と繋がってるらしいし。

 まぁ、どういう仕組みとか興味ないからどうでもいいけどさ。


 「ん? きたな」


 「ウルフ系だね〜」


 狭間は出てくるモンスターは大抵1種類だ。

 ゴブリン系ならゴブリン系。

 ウルフ系ならウルフ系と。


 「7級ならこんなもんなのか? 向こうなら駆け出し冒険者でも倒せるぞ」


 正直、能力を使うまでもないというか。

 異世界で鍛えあげた素の肉体でなんとかなりそう。

 いくらダラダラしてたとはいえ、体の維持だけはしっかりしてたからな。


 「ガゥガゥ!! ギャン!?」


 とりあえず馬鹿みたいに突っ込んできた、ウルフを蹴り飛ばす。

 それだけで、ウルフは光になって消えていった。


 「ダンジョンじゃん」


 「この落とした魔法石がお金になるんだよ〜。万能エネルギーってやつ〜」


 はいはい。お決まりのね。

 なんて都合の良い資源なんでしょう。

 女神が魔法科学の為に調整したのかもだが。


 「魔物素材は落とさないのか?」


 「それはレアドロップってやつだね〜。低い等級でも結構良いお値段だよ〜」


 「ふーん。そこは異世界とは違うんだな」


 向こうでは素材も一緒に落としたんだが。

 稼げるかも運次第か。世知辛いね。


 「じゃあ次はあたしね〜」


 そう言って桜は手から糸を出す。

 うーん、カッコいい。強奪しちゃいたい。

 向かって来たウルフの首に糸を巻きつけ、引き絞る。

 すると、簡単に首が飛んでいった。


 「器用にやるなぁ。動く的にピンポイントで首目掛けて糸を飛ばすとは」


 「んふふ〜。良い能力貰っちゃったね〜。こんな事も出来るんだよ〜」


 桜は、天井に糸を射出しそのまま浮かびあがる。

 そして、ペタリと貼りついた。


 「へぇー! 粘着性も付与する事が出来るのか! 罠とかでも使えそうだなー! 応用性が高すぎるぞ! あ、パンツ見えてますよ」


 「きゃ〜えっち〜」


 うむ。良きTバックである。そそられますな。

 桜は体中から糸を出せるので、結構際どい服装をしている。

 何も知らない人が見たらただのビッチである。


 「んも〜! 責任取ってもらうからね〜!」


 「自分からやったんじゃないか」


 責任って結婚ですか? それはちょっと…。

 結婚は人生の墓場だと聞きますので、俺は独り身で遊び散らかしたい所存です。


 「これ、桜だけで攻略出来るじゃん。俺いらなくね?」


 「ここで慣らして1級に行くんでしょ〜? ある程度戦った方が良いんじゃないの〜?」


 それもそうか。じゃ、能力使いますかね。


 「憑依ポゼッション:忍耐アズラエル


 天使を憑依して、翼を生やす。

 髪と翼は紫色に。頭には紫の天使の輪っか。

 ちょっと堕天使みたいだろ。

 昔はカッコいいと思ってた。いや、今も心の中ではカッコいいと思ってるけどさ。


 「うひゃ〜」


 桜がゲラゲラ笑いながら、スマホで写真を撮る。

 おい、やめろよ。


 因みに、狭間の中は電波はない。

 しかし、動画や写真を撮る事は出来るので、後から地上で編集したりしてUPしてる探索者がそれなりにいる。

 生放送とかもいつか出来るようになるんだろうか。


 「厨二病の人を狭間で発見〜。帰ったらポストしちゃおうかな」


 「おい、本当にやめろよな」


 なんで世界に黒歴史を発信しないといけないんだよ。


 「でもでも〜知名度が欲しいんなら〜SNSも有効だと思うよ〜」


 むぐっ。確かに。いやいや待て待て。

 誘導されちゃいけない。

 世界に爆笑されてしまうぞ。


 「こんな世界になってるんだから〜普通だと思うけどな〜。色んな能力がある訳だし〜」


 「1級攻略するまで待ってくれ。どうせ一個目を攻略しても懐疑的な目で見られるんだ。それなら、二個目を攻略した時に動画でノーカット版でも垂れ流しとけばある程度収まるだろ。それまでに心の準備をしておく」


 「んも〜仕方ないな〜」


 頼むぞ、世界。

 俺よりも厨二病な能力持ちがいると信じてるからな。




 「呑み込め、闇の沼ダークスワンプ


 俺は群れて来たウルフをまとめて始末する。

 魔法って本当に便利だよね。魔法名は気にしないでほしい。若気の至りって奴なの。

 昔のやり方の方がやりやすいから今も採用してるのであって、今もカッコいいとか思ってないから!

 ………本当だよ?


 「もう、ボスか。本当に低難易度は狭いな。これでも稼げるんだから、探索者ってボロい商売だよな」


 好きな時に働けるしさ。自分の命をチップにしないとダメだけどね。



 「憑依ポゼッション:慈悲ミカエル


 最後だしどでかい魔法を使おうと、憑依の天使を変える。

 金髪になり、金の翼に金の輪っか。

 これが一番天使っぽいかな。いや、翼が金は違うかな。


 「射抜け、天使の一撃ヘヴンズレイ


 カッコよく言ってるけど、極太のレーザービームだ。俺が持ってる能力は全て厨二病で出来てると言っても過言ではない。

 これからもどうかお付き合い頂けると幸いです。

 ………こんな感じのが動画になるのかぁ。

 ちょっと憂鬱になってきたなぁ。

 こういうのは自分がカッコ良ければ良くて、他人に見せるもんじゃないと思うんだけどなぁ。



 「お疲れちゃ〜ん。因みにボスは素材は絶対ドロップするよ〜」


 あ、本当だ。なんか色々散らばってるな。

 宝箱もあるじゃん。ゲームかよ。


 「ポーションか。まぁ、7級じゃそんなもんだよなぁ」


 「ポーションは結構高いんだよ〜。宝箱からしか出てこない訳じゃないけど〜作れる人は限られてるから〜」


 ふーん? 俺、空間魔法に山程あるけど?

 これ売るだけで億万長者じゃん。


 「これで終わりか。あっけなかったな。1級も余裕そうだ」


 「流石魔王討伐者って感じだったね〜」


 思い出させるな。あれは本当にきつかったんだ。

 睡眠も取れずに三日三晩。地獄だったね。

 地球であんな奴出て来たら滅ぶんじゃないかな。

 正直、二度と戦いたくないよね。


 こんな感じで、地球に帰ってきてからの初戦はあっけなく終わった。

 やっぱり弱過ぎるよ。

 


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