第20話 俺は間違っていたのか…~デイビッド視点~
アンジュを迎えに行くためには、居場所を突き止めなくてはいけない。そんな思いから、俺はスィークルン侯爵家を訪ねた。
「久しぶりですね、デイビッド殿、それで今日は、どういったご用ですか?」
アンジュの父が対応してくれた。いつも通り穏やかな表情をしているが、どことなく怒りを感じる。5度のもの婚約申込を拒否し、アンジュを留学させるまで追い詰めた俺が姿を現したのだから、当然と言えば当然だろう。
「お久しぶりです。俺、先日の無事騎士団長になる為の試験に合格しました」
「その様ですね。おめでとうございます。それで、わざわざその報告をしに、我が家へやって来たのですか?」
「いえ…その…アンジュは今…どこにいるのでしょうか?」
「今更アンジュの居場所を聞いて、どうするおつもりですか?アンジュはあなた様を忘れるため、他国に留学しております。どうかあの子の事は、もうそっとしておいてあげて下さい。それでは私はこれで」
そう言って部屋から出て行こうとする侯爵。
「待って下さい!俺はずっとアンジュが好きでした。でも…7年前の誘拐事件で、アンジュを守れなかった。それが悔しくて…それで、騎士団長になるまでは、アンジュの気持ちを封印していたのです。やっと騎士団長になる事が出来ました、ですから…」
「ですからアンジュを迎えに行きたいと?アンジュはあなた様に5度も婚約を申し込み、断られてきました。あなたは騎士団長になるまで、アンジュへの思いを封印していたのかもしれないが、アンジュには関係ない話です。散々アンジュを傷つけ拒否し続けたのに、今更アンジュを迎えに行きたいだなんて…申し訳ないが、そんな事は到底受け入れられない。どうかアンジュの事は、諦めてほしい」
「待って下さい…」
侯爵が言っている事は最もだ。でも俺は…
「デイビッド!今更何しに来たんだよ!」
俺の前に現れたのは、アンジュの弟、レイズだ。
「こら、レイズ!やめなさい」
「いいや、止めません。デイビッド、お前のせいで姉上は深く傷つき、悲しんだんだぞ!お前の顔なんてもう見たくないだろうから、父上がミラージュ王国に留学させたんだ。でも…ミラージュ王国でも留学する時期が悪かったというふざけた理由で、酷い虐めにあっていた様で…それでも姉上は帰る事も出来ずに、ずっと苦しんでいたんだ!今やっと友達も出来、楽しく暮らしている。散々姉上を傷つけたお前に、これ以上姉上の幸せを奪うような事だけは、絶対にさせないから!」
目に涙を浮かべながら、俺に必死に訴えてくるレイズ。ただ…
「アンジュは、ミラージュ王国にいるのか…」
俺のつぶやきに、レイズがしまったと言った顔をしている。
「待ってください、デイビッド殿、どうかアンジュの元にはいかないでください。やっと平穏な日々を今、アンジュは送っているのです。それをぶち壊すような事だけは…」
必死に引き留める侯爵。
「侯爵…申し訳ございません。俺にはやらなければいけない事がありますので…」
侯爵に頭を下げ、屋敷を後にした。
家に着くと
「デイビッド、どういう事だ。今、スィークルン侯爵家から使いの者が来て、お前がアンジュ嬢を探しているとの連絡が入ったぞ。今まで散々アンジュ嬢を傷つけておいて、一体何がしたいんだ?」
「俺は…アンジュを今でも心から愛しています。でも…7年前アンジュを守る事が出来なかったあの日から、騎士団長になるまでは、アンジュへの気持ちをずっと封印してきました。やっと騎士団長になったのです。ですから…」
「いい加減にしなさい!あなたの一方的な都合で、どれだけアンジュちゃんを傷つけたと思っているの?確かに私も、あなたが騎士団長になる為に、必死に稽古をしている事はしていた。でも、だからってアンジュちゃんを傷つけていい理由にはならないわ」
母上が涙ながらに訴えている。
「デイビッド、相手にも心がある。お前が何が何でも騎士団長になりたい、それまではアンジュ嬢の気持ちには応えないという強い意志を持っていたことは理解する。でも…それをアンジュ嬢に伝えたのか?アンジュ嬢にしてみれば、一方的に嫌われ、受け入れてもらえないと嘆き悲しんでいたのではないのか?確かに今のお前は強くなった、でも…肝心のアンジュ嬢の心を壊したお前には、アンジュ嬢を守る資格なんてない!」
父上にそうはっきりと言われた。
「デイビッド、アンジュちゃんは今、あなたを忘れ、前に進んでいるのよ。いくら好きな相手でも、拒否され続ければ、その愛情はいずれ消えてなくなるもの。きっとアンジュちゃんは、もうデイビッドは過去の人になっているのではなくって?」
俺はもう、過去の人…
俺はアンジュを守りたい一心で、必死に騎士団長を目指してきた。でも…肝心のアンジュの心を壊してしまったのか?
俺は間違っていた?
大切なアンジュを傷つた。取り返しがつかない程に?
“デイビッド様、いつも守ってくれてありがとうございます。大好き”
溢れんばかりの笑顔を向ける、アンジュの姿が脳裏をよぎった。俺はあの笑顔を、俺の手でぶち壊し、奪ってしまったというのか?
気が付くと涙が溢れていた。
「とにかく、これ以上アンジュ嬢に関わるのは止めなさい、いいね」
そう言うと、父上と母上は俺の元を去って行った。
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