第18話 騎士団長になるまでは自分の気持ちを封印しよう~デイビッド視点~

アンジュはすぐに近くの病院へと運ばれた。幸い、傷自体は深くなく、跡は残らないとの事。


病院には俺の両親とアンジュの両親も来ていた。


アンジュの両親には


「アンジュが連れ去られそうになった時、体を張って止めようとしてくれたのだよね。ありがとう、デイビッド殿」


そう感謝された。でも、俺は感謝される様なことはしていない。むしろ俺は、アンジュを危険に晒し、怪我までさせてしまったのだから…


それなのにアンジュまで


「デイビッド様、私を守ろうとしてくれて、ありがとうございます」


そうお礼を言ってきたのだ。それがどうしようもなく辛かった。


俺たちを助けてくれたのは騎士団長だ。騎士団長がいなかったら、俺たちは今頃どうなっていたか…


俺も騎士団長の様に強くなりたい!そして、今度こそアンジュを守れる男になりたい。


俺はこの日、決意した。騎士団長になるまで、アンジュへの気持ちを封印しよう。そして騎士団長になれた暁には、アンジュに結婚を申し込もう。


俺はアンジュが大好きだ、その気持ちを封印するというのは、とてつもなく辛い事。でも…アンジュに怪我をさせてしまったのだ。誰よりも大切で、誰よりも守りたい相手に俺は守られ、そして怪我をさせた。それが悔しくてたまらないと同時に、自分に異常なほどに腹が立つ。


俺は自分に対して罰を与える意味でも、騎士団長になるまではアンジュへの気持ちを封印する事に決めたのだ。


その日から俺は、朝早くから夜遅くまで、必死に稽古を続けた。でも、アンジュへの気持ちを封印するというのは、予想以上に辛く、心が折れそうになる事もあった。そんなときは、あの時の事を思い出すようにしている。


俺を庇って腕から血を流す、アンジュの姿を。あの姿を思い出すと、もっと頑張らないと!という気持ちになるのだ。


そんな中、アンジュの家から、正式に俺とアンジュを婚約させたいとの申し出があった。俺だって、アンジュと婚約したい、でも…今受ける訳にはいかない!そんな思いで、断りを入れた。


正直辛くて辛くて、身を引き裂かれるような思いだった。両親からも


「アンジュ嬢の何が気にいらないのだ?いいお嬢さんじゃないか!」


と言われたが、今はまだ、彼女を受け入れる事は出来ない。それでもアンジュは、俺の事を思ってくれている様で、夜会では俺の瞳の色のドレスを着たり、俺に話し掛けたりしてくれている。


その気持ちに答えられないのが、とにかく辛い。さらにその後も、アンジュの家から、何度も婚約の申し込みがあった。そのたびに、断わり続けた。


頼む、もう婚約を申し込まないでくれ…


俺はアンジュが悲しそうな顔を見るのが、たまらなく辛いんだ。いっその事、婚約を…


いいや、俺はあの日、誓ったんだ。何が何でも、騎士団長になると!だから俺は、まだアンジュの気持ちを受け入れる事なんて出来ないんだ。


そんな中、俺に絶好のチャンスが回って来た。そう、現騎士団長の引退が決まったのだ。現騎士団長からも


「次の騎士団長には、デイビッドをと思っている。ただ、試験に合格しないといけないから…」


そう言われた。俺はこのチャンス、何が何でもものにしたい!そんな思いから、足しげく騎士団長の家に通って、騎士団長の心得や、騎士団長になる為に必要な事を学んだ。


時には騎士団長の娘でもある、ラミネス嬢伝いに、教えてもらう事があった。あと少し…あと少しでアンジュに想いを伝えられる!


そんな思いで、必死に騎士団長になる為の試験対策を行った。そして騎士団長の試験まで、後5ヶ月と迫ったある日。5度目となるアンジュの家からの、婚約申込を受けたのだ。


あと少し…あと少しで気持ちを伝えられるのに…でも、今はまだダメだ。そんな思いで、今回も断った。さすがに5度目という事で、父上からも


「デイビッド、一体どうしたんだ?昔はあれほど、アンジュ嬢と結婚したいと言っていたではないか?さすがに5度目という事で、侯爵もアンジュ嬢には、お前との結婚を諦めさせると言っていたよ」


俺との結婚を諦めさせる…


その言葉を聞いた瞬間、胸がチクリと痛んだ。俺はアンジュを守るため、必死に騎士団長を目指してきた。でも…


本当にこれでいいのか…そんな不安が俺を襲う。さらにアンジュはその後、学院には一切顔を見せなくなった。それとなくアンジュの友人たちに話しを聞いたが…


「アンジュはあなた様を忘れるため、留学いたしましたわ。あなた様はラミネス様とご婚約なさるそうですわね。おめでとうございます。もう二度と、アンジュには近づかないで下さいね」


笑顔だが瞳からは明らかに怒りが読み取れた。


アンジュが俺を忘れるために留学だなんて…それに、ラミネス嬢との婚約とは一体どういう事だ?


「俺はラミネス嬢と婚約するつもりはない。それでアンジュは、どこに留学を…」


「あなた様には関係のない事ですわ。それから、アンジュを呼び捨てにするのはお止めください!もしかしたら留学先で、素敵な殿方を見つけているかもしれませんわね。アンジュは可愛らしいですから」


そう言い残して、俺の元を去っていったアンジュの友人達。


俺の心の中で、どんどん不安が大きくなっていったのだった。

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