193 若干トラウマ

「あ、それならワシがどうにかできると思うぞ」


 その人ことで暗雲が立ち込めていた私の未来に光がさした。


 他人がこれを聞いていれば大袈裟に言っているように聞こえるかもしれないが、私の心境は本当にそんな感じだったのだ。


 いくら私が痛みに強いとはいえだ。


 あんな骨折にも負けない__いや、それ以上の激痛と一生涯戦い続けろ何て言われた日には家に引きこもっている来るかもわからない痛みに怯え布団いくるまることになる。


 ことと次第によっては、どこぞの毒キノコのように死んだ方がましだとか思い出して、そのまま……。


 いや、本当にやる気はないけどさ。


「ワシの自己魔法の効果の中には不浄者のを打ち払う、つまりはお払い的なことができるんじゃ」


「それって、あの神々しいやつですか?」


「そうじゃな。ただ、東洋の呪術に使ったことがないからうまく行く保証はないな。それでもやるか?」


「もちろん。こんな痛みを一生背負うとか、例の劇薬飲むのと似たような苦行嫌ですし。あ、思い出しただけで吐きそう」


「あ、うん。ワシ頑張るから気負うなよ」


 “神秘の魔法薬”の解毒剤の味を思い出すだけで胃液がせりあがってくる。


 もはやあれは私にとってのトラウマの代物になっている。


 うぇ……あの薬のこと考えただけで本当に吐きそうになる。


 レーピオが背中を撫でてくれる間に、ザベル先生にお水を貰った。


 ありがたい。


 まぁ、保証がないとはいえ、打開策は見えた。


 これなら、今は解呪のことじゃなくて別のことを考えた方がいいだろう。


 丑の刻参りの応用した呪いだと言うのならば、何かしら私に関連したもの、それこそ髪とか写真とか必要だと思うんだけど……。


 今まで黒服関連の事件といえば、ロンテから手紙を預かった数日後にあった事件が最初だ。


 あのときは学校に現れた襲撃犯の三人が現れて、あの手この手で攻撃してきた。


 確か……あの時は件を持っていた黒服に肩口を切られたのを覚えている。


 その次はローシュテールに招待されていったパーティー会場で起きた襲撃事件だ。


 あれは随分と派手な登場の仕方だった。


 そのときにあったことといえば……篠野部が怪我してたな。


 次が私が記憶を失う原因になった襲撃事件だ。


 となれば、前の二回で何か取られたか、なにかしたんだろう。


 あるとするのなら……。


 ……。


「血、か」


「え、何がですかあ?」


「呪いの媒体になったやつだよ」


 一回目と二回目、そこで取れるようなものといえば血くらいだ。


 ……そういえば、二回目は篠野部も怪我してたから篠野部も呪いの対象になってるのかもしれないな。


 それに、ローシュテールとの戦闘で私も篠野部も、それなりに怪我をしているし、軍や魔導警察に混じった黒服が採取しててもおかしくはない。


 篠野部も呪いの対象になっているのなら、篠野部は逃げ出せない状態になってそうだ。


「血?……あ、そっかあ。一番最初の襲撃事件のとき、怪我してましたもんねえ」


「そうそう」


 しかし、私の考えがあっているんだったら、二回起こった襲撃事件は私と篠野部を捕えるために呪いの素材を取りに来たってところなんだろう。


 もしかしたら、黒いワイバーンの事件は黒服達の仕業だったんじゃないか?


 現状、あのとき試験会場にいたメンツではっきりと狙われているとわかっているのは私と篠野部だけだし、今思えば黒いワイバーンは篠野部を狙っていたような気がする。


 けど、あの時、私を無視して篠野部達の方に行ったのは不思議な気もする。


 集団でいる篠野部達よりも一人で行動している、しかも飛べない私を狙う方がいい気もするけど……。


 あれかな、単純に黒いワイバーンのAI的な部分がお粗末なだけなのかな?


 それとも、最初から篠野部を狙っていた?


 私を狙ったのは、篠野部の近くをちょろちょろして邪魔だったから?


 いや、もしかしたら魔法学校にいる黒服の仲間が私を人質にすれば篠野部がおとなしくなるかもしれないとでも報告をいれたんだろうか……。


 いや、今はここら辺考えていても仕方がないか。


 ここら辺に関しては篠野部が戻ってきてから二人で考えればいいことだ。


 黒服が篠野部を捕えていると、はっきりと明言したからな……。


 やっぱり、私の推測通りの西側にいるのかな?


 いるのなら、どこに隠されている?


 うんうんと頭を捻っているとベイノットにデコピンされてしまった。


「あうっ!なにするのさ!」


 ベイノットのデコピン、なかなかに痛いな……。


 額を押さえて抗議すると、ギロリと睨まれてしまった。


「何するんだ、じゃねえよ。ここ最近、ずっと考え事しているだろ」


「してるけど……」


 紛れもなく、篠野部をどうやったら奪還できるか考えているときの事を言っているんだろうな……。


「絶対ぇ、篠野部をどうやって取り返そうか考えているだろ」


 あ、ばれてる。


 何でバレてるんだよ……。


「お前、篠野部が消えた日から、ずっと調べてたんだから、よほど鈍感じゃねえ限りわかるっつーの。で、今度はなに考えてんだ?」


「え〜っと……」


 先生もいる、この状態で私の考えていることを暴露してしまったら今すぐにでもベッドに縛り付けられてしまいそうだから言いたくないんだけど……。


 でも、きっと、私一人だけでやったところでうまく行かないのは目に見えている。


 ……怒られても、縛られても、私の行うべきことはかわらないのだから、別にいいか。


「……篠野部を助けに行くんだよ」


「はぁ、やっぱりか」


 呆れたように、ため息を吐かれてしまった。


「作戦かなにか考えてんのか?」


「え?」


「もしかいして、なにも考えてないまま突撃しようとしたんですの?」


「いや、私達が乗り気なのにビックリしているんでしょ」


「あぁ、止めると思ってたのね」


「流石にここまでくると、手を出さないって選択はないわ」


「明確に先生達の命を狙ってきたことや、ララさんのお兄さんを冤罪にかけてますからねえ……」


 いや、なんかすごい乗り気だし殺気立ってるんだけど……。


 流石に先生は止めようとするよね?


 そう思って先生達の方を向くと先生達は私の良そうとは真逆の回答をした。


「行くのならば早い方がいいでしょう」


「どうせ明日休校になりますし、明日行動しますか?」


「その方がいいんじゃねえの?」


 うっわ、ノリノリだ。


 止められてると思って建前、ここまでノリノリになられていると戸惑うと言うか、なんと言うか……。


「現状、軍や魔導警察に頼ると言う選択しも取れないからのう。どっちも信用できん状態じゃから、ワシらが動く他あるまい」


 まぁ、確かにそうだ。


 カンツォーネとベルドと呼ばれる二人が軍に潜入していたこともあるし、ヘラクレスの言っていたことも当たっているだろうからね。


「勇者達よ。お主らも手伝ってくれるな?」


「別に構いませんよ」


「オレも」


「僕も、篠野部くんに死なれたら困りますから……」


 ……まさか、こうも人が集まってくれるとはね。


「それなら、もっと人を集めて騎士の__ヘラクレスの冤罪も晴らしましょう。敵地に資料かなにか、ヘラクレスの無罪の証拠になるものがあるかもしれません」


「そうですね。なら、便利な鞄の用意しておきましょう」


 証拠はすぐに見せた方がいいからね。


「誰巻き込みますう?」


「ロンテは?」


「いの一番に弟あげるってどうなのよ……」


「だって、強くて信用できるし……。アイツも、黒服達の被害者がもしれねえからさ」


「それなら、ビーグル先輩も巻き込みましょう?あの人も、薬の被害者よ」


「とりあえず、頼れそうな知り合いに片っ端から声かけてましょう。人ではいくらあってもいいですわ」


「そうね、そうしましょう」


「ナーズビア、参加してくれるかな……」


 ナーズビア、私が記憶をなくした間、篠野部に突っかかってたからなぁ……。


 正直、ナーズビアは治癒魔法が得意だからいてくれるだけで十分ありがたいのだけど……。


「嬢ちゃん」


「佐之助さん?」


「悪いが、俺には俺の事情があって嬢ちゃん達のことが手伝えねえ」


「いえ、いいんです。佐之助さんは巻き込まれただけですから」


「だが、それじゃあ、俺の気がおさまらねえ。だからな、これを嬢ちゃんに貸す」


 そういって差し出したのは佐之助さんの腰にさげていた真剣だった。


「え?い、いいんですか?というか、真剣って絶対大事なものでしょう?」


「いいんだ。その代わり、折らずにちゃんと俺んところに返しにしてくれ。そんときは坊主と一緒に来て買い物でもしてってくれや」


 佐之助さんは私に刀を握らせるとニカッと笑った。


「……必ず、行きますよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る