168 誘拐?

誰かの視点


その日、メルリス魔法学校は上から下への大騒ぎになっていた。


 篠野部カルタが捜索から一夜たった今でも帰ってこないからだ。


 最初は永華達が、お菓子パーティーを行った後、寮に戻りゆったりとしていたのだが消灯時間になってもカルタが帰ってこないことで、カルタの不在が発覚した。


 教師達が魔導警察に知らせ、あちこちを探し回ったが髪の一本すらも見つけられなかった。


 ある木の影に、カルタが借りていった本が落ちていたこと、前々から起きている襲撃事件から、誰かに融解されてしまったのではないかと言う話になり、時間が過ぎてしまい一夜がたった。


 昼になっても見つかる様子はない。


「何でですか!」


 いつまでもカルタが帰ってこないことから、永華やローレス達がカルタを探しに行こうとしたのだが、永華だけが止められた


「君は狙われているんだよ。記憶喪失になったのも襲われたのが原因なんだから」


 ジャーニー先生が永華の方を掴み諭すように話す。


「君達も、何かあったら危ないから一緒にいなさいな」


 ジャーニーの手から逃れようと暴れる永華をヒョイと軽い荷物を持つかのように持ち上げ、ベイノットに投げ渡す。


 永華から短い悲鳴と、人見知りを発動しているが故の控えめな抗議が聞こえてきたがジャーニーがそれを無視してローレスの方に向く。


「何も知らないんだね?」


「はい……。カリヤ先輩に呼ばれてお茶会をした後、お菓子パーティーをすることになったっすけど、いくら探しても見つからなくて……。だから一先ず、篠野部、抜きで始めたんです」


「それが終わって、寮に戻って消灯時間になっても帰ってこないから先生に知らせて学校の中を探して回ったと」


「そうっす。……一体どこに行ったんだか」


「わかった。前みたいにすぐに見つかるといいんだけど……」


 遠くからジャーニー先生を呼ぶ声が聞こえた。


「ん?呼ばれたから行ってくるけど、生徒諸君はなるべく学校からでないように。犯人も、犯人の目的も全くもってわかってないからね。とくに永華!」


 ジャーニー先生は釘を刺して、走っていってしまった。


 釘を刺された生徒達は、まだ諦めていない永華を引きずって適当な教室のなかにはいることにした。


「篠野部く〜ん……」


 飼い主にお越えられて飼い犬のようなしょぼくれた表情の永華はカルタの名前を呼ぶが返事は帰ってこない。


 記憶を失くしても表情が豊かなところは変わらないらしい。


 しょぼくれた飼い犬のような表情になっている永華を見たミューはいたたまれなくなって、永華の頭を撫でた。


「私が、思い出したくないって言ったからなのかな……」


 永華は一週間と四日前の雷雨の日にカルタに記憶を取り戻したくないと告げたことを酷く後悔していた。


 カルタにそんなつもりはないし、勉強や調べものに必死になっていただけなのだが、永華からすれば自分の無神経な発言のせいで避けられているのではと勘違いしてしまう要因になっていた。


 今回のことだって、カルタに思い出したくないと、そもそもの話しだが自分が記憶をなくしてしまわなければ起こらなかった話なのではないかと考えていた。


 だから、この発言なのである。


「お前は悪かねえだろ。そもそも、篠野部がそれ程度で姿消すんなら、もっと早くにいなくなってるぜ」


「でも……」


「記憶をなくしたのが悪いとか言うなよ。頭殴られたのが原因なんだから、お前は何一つ悪くねえんだ」


 ベイノットが額にでこピンをすると、永華は額を押さえた。


 ベイノットのでこピンは結構痛いのである。


「うぅ……」


「まぁ、そのうち足取りがわかるわよ。いつかのローレスの時みたいにね」


「あ、その節はすみませんでした……」


 ローシュテールとの一件の後、ローレスはララ達の頭が上がらないところがあったりする。


 まぁ、それも永華にはよくわからない話だったりするんだが。


 永華はふと考える。


 カルタは本当に誘拐されたんだろうか?


 カルタが図書館から借りていた本は学内にある木の根本に落ちていたと、見つけた教員がいっていた。


 つまりは学校内にいて、何かがあって本を落としていったと言うことだ。


 メルリス魔法学校の説明を受けたときに聞いたが、この学校を囲うような巨大な結界魔法がかけられていおり、それが魔力で学校関係者か否か判断していると言う。


 カルタを誘拐した誰かが学校の中に入ったのなら、結界が登録されていない魔力を関知して教師達に知らされるといった、本来の効果を発揮してもいいはずだ。


 なのに、カルタが消灯時間になって帰った来なかったことから今回の件が発覚したことを考えると、誘拐犯が学校の敷地内には言ったとは思えない。


 だけど、カルタが本を無造作に落としたままにして、しかも自分達が狙われていることを知っていて、永華に「何度も学外に出るのはやめておけ」と言っているのに、そう簡単に学校の外に行くとは思えない。


 なにか理由があって、学校の外に出て自ら誰かについて行ったとしか思えない。


 カルタが自らついていったと言うのならば、ローレスがいなくなったときにやったらしい、自分の居場所を示すようなものは残していないだろう。


 一体、何がカルタを連れていったのだろうか。


 記憶を失くす原因となった、襲撃犯がやったのだろうか。


 そもそも、襲撃犯のことだってろくにわかっていないのだから判断がつかない。


 もしかしたら、永華が忘れてしまった記憶の中にヒントがあったりしないだろうか。


 そんな考えが頭によぎったが、記憶を思い出そうとは思えなかった。


 永華は、記憶を失くした当初は思い出そうとは色々と試行錯誤していた。


 だが、時がたつにつれて得たいの知れない恐怖が体の奥底から込み上げてきていることに気がついた。


 それの根本がなんなのかはわからない。


 でも、特定の条件下と、記憶を取り戻そうとする度に恐怖が込み上げてきていることだけはわかった。


 だから、段々と自分の記憶を取り戻すのが怖くなってきて、カルタに記憶を取り戻したくないのだと吐露した。


 永華も、カルタを探したいが、あの奈落の底に見知らぬ化物に引きずり込まれるかのような恐怖には勝てずにいた。


 忘れられることがトラウマで、取り乱して掴みか勝ってくるほどの辛さなら、カルタにいわない方が良かったのに言ってしまった。


 自分と一番近い気がした、篠野部カルタに言ってしまった。


 ごめんなさい……。


 カルタが勉強と調べものにのめり込むようになった前日の、雷雨の日のように、心の中で謝罪をするほかなかった。


「誘拐、ね。するってんなら永華を襲った連中だよな?」


「恐らくはね。あの日も、篠野部にきつく言われていたはずの永華が外に出ていたことが不思議なのよね。今回だって、たぶん自分から外に出てるもの」


「永華が襲われたってのに、カルタが一言残すこともなく外に出るって不自然だものね」


「精神緩衝系の魔法か呪いでも使われたんではないんでしょうかあ。永華さんの時だって、呪いにはかかっていなかったらしいですけど、かけられていた痕跡はあったそうですし……」


「私が得意な傀儡魔法のようなものでも使ったんでしょうか?」


「それか洗脳魔法?でも、どれも精神的に余裕がないときとか、隙がないと使うのきついんじゃねえの」


 精神的余裕、精神的な隙。


 恐らくはあったのだろう。


 永華が記憶を思い出したくないと言ったときの、記憶を失くしてしまったときの動揺は凄まじかったからだ。


「やっぱり、皆誘拐だとは思えないのね」


 ララの言葉に、皆が頷く。


 篠野部カルタはどこに消えたのだろうか。

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